登壇者インタビュー

和田 貴志 氏
旭光電機株式会社
代表取締役社長 和田 貴志 氏 に聞く

顧客の「困った」を技術で解決する

~DXサークル活動で現場力を進化させる旭光電機の品質経営~

聞き手:安隨 正巳(日本科学技術連盟 品質経営創造センター 部長)
和田 貴志 氏
旭光電機株式会社 代表取締役社長
1962年2月生まれ。
旭光電機株式会社に新卒入社後、24歳の時に世界初の静止検知型自動ドアセンサを開発。2023年に代表取締役社長に就任。
2005年からはアサヒビール、JAXAなど新規顧客開拓に注力。
2020年からはコロナ禍をきっかけにAI,IoT,Robotを軸とする第2創業を開始、2028年度に100億円売上を目指す。

1. 電子好きの少年が育てた「世界に誇るセンサー技術」

――まずは和田社長のご経歴についてお聞かせください。
和田:私は神戸生まれの神戸育ちです。子どもの頃から電気や電子工作が好きでした。当時、「マイキット」という電子工作教材がありまして、電子部品を組み合わせるとラジオが鳴ったり電子音が出たりするんです。それが本当に面白くて、夢中になりました。振り返ると、その頃から電子技術者になりたいと思っていたのかもしれません。専門学校卒業後は、電子技術を生かせる仕事に就きたいという思いから旭光電機へ入社しました。
――入社後は開発部門で活躍されてきたのですね。
和田 貴志 氏
和田:はい。主に自動ドア用センサーの開発に携わってきました。私が入社した40年ほど前は、ちょうどマイコン技術が実用化され始めた時代でした。当時の自動ドアでは、人が立ち止まっていると正しく検知できず、ドアが閉まろうとしてしまうことがありました。 そこで私は、マイコンの記憶機能を活用して「人がいない状態」を記憶し、その状態との違いから人を認識する仕組みを開発しました。これにより静止している人も確実に検知できるようになり、安全性が大きく向上しました。
――現在の主力事業につながる技術だったのですね。
和田:そうですね。その後も改良や機能向上を続け、自動ドアセンサー事業の成長につながりました。 今振り返ると、約40年間にわたり一つの技術を育て続け、お客様の課題に向き合い続けてきた人生だったと思います。

2. 「困りごと解決」が旭光電機の原点

――旭光電機の強みを一言で表すとすると何でしょうか。
和田:当社は、神戸市内において70年以上の業歴を誇り、主に各種センサー・コントローラー等の制御装置の開発・設計・製造まで一貫したワンストップサービスを手掛け、センサー技術を生かし自動ドア、鉄道分野、船舶分野、食品分野、介護分野、IoT分野等の開発も行っていますが、「お客様の困りごとを解決する力」が強みだと思っています。

私たちは「この製品を売りたい」から出発するのではありません。
まず、お客様が何に困っているのかを徹底的に考えます。そして、その課題を解決するために技術を使います。
そうした考え方が会社の文化として根付いています。
――御社の製品は、東海道/山陽新幹線向け車両間自動ドア用センサは国内シェア100%、ビルフロント自動ドアセンサの国内シェア70%などの強みを持っていますが、安全や安心に大きく影響する関わるものが多いですね。
和田 貴志 氏
和田:そうですね。
自動ドアや鉄道向けセンサーは普段あまり意識されることはありません。しかし、もし正常に動かなければ大きな事故やトラブルにつながります。
つまり「当たり前に動くこと」が求められる世界なんです。
目立つ仕事ではありませんが、社会インフラを支える重要な役割を担っています。
――だからこそ高い品質が求められるのでしょうか。
和田:その通りです。
例えば鉄道関連の製品は、一度納入すると10年以上使われることもあります。
製品を納めて終わりではありません。長期間安心して使い続けられることが求められます。
設計品質、製造品質、保守サービスまで含めて品質を保証する。その考え方が非常に重要だと思っています。
――長年その分野で高いシェアを維持できている理由はどこにあると思われますか。
和田:技術力もありますが、それ以上にお客様との信頼関係だと思います。
「困ったら旭光電機に相談しよう」そう思っていただけることが何より大きいですね。
お客様に育てていただいた会社だと思っています。

3. 一般社員から社長へ ― 事業承継への挑戦

――2023年に社長へ就任されました。
和田:私は三代目社長になります。
もともとは創業家による経営でしたが、事業承継の課題があり、一般社員であった私が引き継ぐことになりました。
――そのお話を受けた時はどのような心境でしたか。
和田:正直に言えば驚きもありました。
ただ私は約40年間この会社で働き、主力商品を開発し、この会社と一緒に成長してきました。
会社への愛着は非常に強かったですね。
だからこそ、「しっかり会社を次の世代へつないでいこう」という気持ちの方が大きかったと思います。
――技術者から経営者への転換はいかがでしたか。
和田 貴志 氏
和田:大きく変わりました。
開発者時代は製品や技術が中心でした。
しかし社長になると、人材育成、組織づくり、事業戦略、将来への投資など、考えなければならないことが一気に増えます。
一方で、現場で長年働いてきた経験があるからこそ、社員の気持ちが理解できるという強みもあります。その経験は今の経営にも生きていると思います。

4. QCサークル活動が抱えていた壁

――今回のフォーラムでのご講演テーマであるDXサークル活動についてお聞かせください。
和田:もともとはQCサークル活動を中心に改善活動を行っていました。
成果もありましたが、長く続ける中でマンネリ化という課題も見えてきました。
――どのような課題だったのでしょうか。
和田:QCサークル活動は、データを集め、集計し、分析する、といった問題解決のステップを踏みます。最初のうちは新しい発見がありますが、何年も続くと活動がルーティン化し形骸化してしまっていました。次第に小集団活動よりも個人の改善提案制度のような形になっていました。
――そこで改革を考えられたのですね。
和田:はい。もっと大きな改善に挑戦できる活動にしたいと思いました。
その時に着目したのがDXです。
ただし、最初から難しいデジタル技術の話をしたわけではありません。
――DXサークル活動はどのようにスタートしたのですか。
和田:まず各職場で「困りごと」を徹底的に洗い出しました。
現場で働く社員が何に困っているのかを全部出してもらったのです。
――かなり多くの課題が出たのではありませんか。
和田:想像以上でした(笑)。
現場には必ず課題があります。
むしろ現場の人が一番よく知っています。
だからまず課題を見える化することから始めました。
――社員の皆さんの反応はいかがでしたか。
和田:最初は「DXといわれても何をすればいいのかわからない」という声もありました。
そこで私は「難しく考えなくていい。まず困っていることを書いてほしい」と伝えました。
そうすると次々にアイデアが出てきました。
――そこからテーマを選定したわけですね。
和田:はい。ロボットでもセンサーでもクラウドでも何でも構いません。
デジタル技術を活用して改善できそうなテーマを選び、優先順位をつけながら取り組んでいきました。

5. 成功の鍵は「現場を信じる経営」

――DXサークル活動成功の要因は何でしょうか。
和田:私は「程よいトップダウン」と「程よいボトムアップ」だと思っています。
トップは方向性を示す。しかし具体的なテーマは現場が考える。これが基本です。
――毎月の報告会にも参加されるそうですね。
和田:はい。ただ私は基本的に否定しません。
現場が十分に議論し、考え抜いて提案してきた内容に対して、経営側が細かく口を出しすぎる必要はないと思っています。
私は毎月の報告を聞きながら進捗を確認しますが、基本的には「やってみよう」というスタンスです。
――投資判断もかなり早いと伺いました。
和田:そうですね。例えばRFIDを活用した部品管理システムを導入したいという提案がありました。
現場では複雑な部品管理に課題を抱えており、複数のメーカーと比較検討を重ねながら数か月かけて調査していました。
その結果として現場から提案が上がってきたわけですから、「では導入しましょう」と判断しました。
私は現場が十分検討したものに対して、さらに経営側が時間をかけて細かく否定することに大きな意味はないと思っています。
――現場への信頼が強く伝わってきます。
和田:私は日本の現場は本当に優秀だと思っています。
日々業務を行っている人たちが一番現場を知っています。
だから私はできるだけ現場を信じる。
その信頼があるからこそ、社員も真剣に考え、責任を持って取り組んでくれるのだと思います。

6. スモールスタートが改善の連鎖を生む

――成功事例としてご紹介されている「スモールスタート」とはどのようなものなのでしょうか。
和田:DXというと大規模投資をイメージされることがありますが、必ずしもそうではありません。
まずは小さく始めてみることが大切です。
――具体的な事例を教えてください。
和田:手組みラインで働く作業者が、トラブルのたびに班長を探しに行くという課題がありました。
班長がすぐ見つからないこともありますし、班長側も自分の作業を中断して対応しなければなりませんでした。
そこで着目したのが、レストランなどで使われている呼び出しベルです。
市販品を使えば、わずかな投資で導入できます。
試しに導入してみたところ、想像以上に効果がありました。
――どのような効果があったのでしょうか。
和田:作業者はその場で班長を呼べますし、班長も即座に対応できます。
現場のムダな移動がなくなりました。
また、「すみません」と何度も声を掛ける必要もなくなり、心理的な負担も減りました。
それだけでも十分効果があったのですが、さらに面白かったのがその次です。
――さらに改善が発展したのですか。
和田:はい。呼び出しボタンを押す際に、「なぜ呼び出したのか」を簡単に入力できるようにしました。すると、どのようなトラブルがどれだけ発生しているのかがデータとして蓄積されるようになります。その結果、「この要因による呼び出しが最も多い」ということが見えるようになり、新たな改善テーマが生まれました。まさに改善が改善を呼ぶサイクルです。
私はこれがDXの面白さだと思っています。

7. 可視化が経営判断を変える

――成功要因の一つに「可視化の相乗効果」を挙げておられます。
和田:DXによってデータが見えるようになると、これまで見えなかったものが見えてきます。
例えば生産ラインごとの電力使用量をリアルタイムで把握できるようになると、単に電気代が見えるだけではありません。
製造原価や設備効率まで分析できるようになります。
――設備保全にも活用されているそうですね。
和田:そうです。以前は設備更新の判断材料として、導入から何年経過したかという情報が中心でした。しかし実際には、同じ年数でも劣化状況は異なります。
そこで電力消費の状態を継続的に監視すると、摩耗や劣化によって余分なエネルギーが使われ始めることがわかります。
私はこれを人間の動脈硬化によく例えるんですが、無理に動かそうとすると余計なエネルギーが必要になります。
設備も同じです。
――経験や勘ではなくデータで判断できるわけですね。
和田:その通りです。「まだ使えるだろう」ではなく、「実際にこれだけロスが出ているから更新しよう」という判断ができるようになります。これは現場だけでなく経営判断の質も大きく向上させると思っています。

8. DXとAIで人を育てる

――最近は生成AIの活用も話題になっています。
和田:私自身、とても大きな可能性を感じています。ただ、AIを人の代わりに使うという発想ではありません。AIを活用して人を育てることが重要だと思っています。
――どのような狙いがあったのでしょうか。
和田:これからの時代は、「何を知っているか」だけではなく、「どう学ぶか」が重要になります。
AIを使えば答えは出せます。
しかし、本当に大切なのは問いを立てる力です。
AIを使いながら考え、自分で学び、自分で成長してほしいと思っています。
――若手層の育成についてはどのようにお考えですか。
和田:最近は「若い人は熱量がない」と言われることがありますが、私はそうは思いません。
環境が変わっただけだと思います。実際、やりがいのあるテーマを与え、挑戦できる場をつくれば一生懸命取り組みます。

一つの事例でお話しします。
昨年入社した工学系の新入社員が3名いたのですが、ハードウェアの知識はあってもソフトウェア経験はほとんどありませんでした。そこで一つ実験をしてみようと思ったんです。生成AIがこれだけ進化しているのなら、従来型の教育だけではなく、生成AIを与えたモノづくりについて課題を与えたのです。
1か月目は 当社の各部門を回る社内研修
2か月目は、ソフトウェア開発の外部研修
3か月目は、AIを活用して工場のIoT化に取り組み、8月に完成!
といった形で。彼らは見事に結果を出してくれました。
これは、「社員に任せること」と「社員を信じること」を行った結果です。
――新入社員が実働3か月目で結果を出したのですか!
和田:私たち経営者や管理者の役割は、その力を引き出す環境を整えることだと思っています。
「Z世代」と言われる若手層の育成についても、私はやる気を持たすことさえできれば、必ずやってくれると信じています。

9. 「現場を信じる」ことが会社の業績向上につながる

――最後にクオリティフォーラム参加者へメッセージをお願いします。
和田 貴志 氏
和田:私は毎年年頭に「世の中は川の流れのように変化している」と社員に話しています。
何もしなければ流されてしまいます。だからこそ自ら漕ぎ続けなければなりません。
――変化の時代だからこそのメッセージですね。
和田:そうですね。ただ、どうせ漕ぐなら楽しみながらやりたい。
DXも改善活動も、その本質は人の成長だと思っています。
日本の現場には大きな力があります。私はその力を信じています。
これからも現場とともに挑戦を続け、より良い会社づくりを進めていきたいと思っています。
――本日のインタビューでは、終始「現場の力」を仰っていた気がします。
和田:経営者は「現場を信じる」ことが重要だと思っています。現場のことは現場で働く社員が一番わかっています。正しくQCサークル活動を行えば、人づくり、業務改善に必ずつながります。そして、それが会社の業績につながっていきます。
――貴重なお話をありがとうございました。クオリティフォーラム2026でのご講演を楽しみにしております。