登壇者インタビュー

田村 信也 氏
TOTO株式会社
代表取締役 社長執行役員
田村 信也 氏 に聞く

お客様の笑顔が品質をつくる

~TOTOの「顧客起点」の品質経営と新たな価値創造~

聞き手:安隨 正巳(日本科学技術連盟 品質経営創造センター 部長)
田村 信也 氏
TOTO株式会社
代表取締役 社長執行役員
1967年3月生まれ。福岡県出身。
九州大学大学院総合理工学府修士課程修了。1991年TOTO入社。2011年TOTOベトナム社長。2018年執行役員 米州住設事業部長 兼 TOTOアメリカ社長 兼 TOTO U.S.A.社長。2024年TOTO取締役 専務執行役員 グローバル事業推進、海外住設事業担当。2025年4月から現職。

1.エンジニアから経営者へ 多彩なキャリアが育んだ視点

――まずは田村社長ご自身についてお伺いします。九州大学大学院を修了後、TOTOへ入社されました。当時はどのような思いがあったのでしょうか。
田村:よく聞かれるのですが、最初のきっかけは地元だったことですね。私は北九州市出身であり愛着もありましたし、将来何があっても帰ってこられる場所があるという安心感もありました。同時に、TOTOは決して地域に閉じた会社ではなく、グローバルに活躍できる会社だという魅力も感じていました。
――入社後はエンジニアとしてスタートされたのですね。
田村:そうです。最初はウォシュレットの開発設計を担当しました。その後はずっと技術一本というわけではなく、商品企画やアフターサービス、国内営業、海外事業など、本当に様々な仕事を経験しました。
――ウォシュレット事業を中心に、かなり幅広いご経験をされたわけですね。
田村:そうなんです。実は「何屋ですか」と聞かれると、自分でも少し困るんですよ(笑)。エンジニアもやりましたし、営業もやりましたし、サービスもやりました。海外では現地法人の経営にも携わりました。
ただ、そのおかげで商品の企画から開発、生産、販売、サービスまで、お客様に価値が届く一連の流れを見ることができました。
――その経験は現在の社長業にも生きているのでしょうか。
田村:非常に大きいですね。今振り返ると、それぞれの部門がどうつながってお客様価値を生み出しているのか、その流れを理解できるようになったことが一番大きいと思います。

2. 「こんなに楽しい仕事があるのか」と思った瞬間

田村 信也  氏
――現在の経営にもつながる原点となった経験はありますか。
田村:若い頃に障がいのある方でも使いやすいウォシュレットのリモコン開発を担当した経験ですね。当時の商品は市場に十分受け入れられていませんでした。そこで、「本当に使う人にとって使いやすいものになっているのか」を考え直すことになったんです。
――実際に利用者の方々の声を聞きに行かれたのですか。
田村:はい。障がい者施設を数多く訪問しました。どんなことに困っているのか、どんな場面で不便を感じているのか、現場を見ながら一つ一つ確認しました。机の上では分からないことが本当にたくさんありましたね。
――まさに品質管理の基本である「現地・現場」ですね。
田村:そうですね。そこで見たこと、聞いたことを商品に反映していきました。そして実際に使っていただいた時に、利用者の方そして介助されているスタッフの方が涙を流して喜んでくださったことがあったんです。
――それは忘れられない体験ですね。
田村:ええ。その時に「こんなに楽しい仕事があるのか」と思いました。
お客様の困りごとを解決して、喜んでいただける。モノづくりの仕事って、こういうことなんだなと実感した瞬間でした。
――その体験が今の経営にも通じているのでしょうか。
田村:間違いなくそうです。結局、どんな仕事もお客様のためにあるんですよね。
だから今でも、「これをやったらお客様はどんな顔をするだろう」ということを常に考えるようにしています。

3. 品質経営とは「頑張ること」ではない

――今回のご登壇は「クオリティフォーラム」ですので、品質のお話もお伺いしたいと思います。田村社長にとって品質経営とはどのようなものでしょうか。
田村 信也  氏
田村:まず大前提として、品質は製品品質だけではありません。営業には営業の品質があります。
サービスにはサービスの品質があります。人事にも経理にも、それぞれの品質があるんです。
――日科技連でも、「品質」はモノの出来栄えではなく、「顧客および社会のニーズを満たす度合い」と定義しています。田村社長もかなり広い意味で品質を捉えておられるのですね。
田村:そうです。私は、品質経営とは「自分の仕事のパフォーマンスを最大化すること」だと思っています。ただし、それは「頑張る」ということではありません。
――「頑張ることではない」というのは興味深いですね。
田村:若い頃によく先輩から、「頑張りますと言うな」と言われました。最初は意味が分からなかったのです。でも今になって思うのは、「頑張る」のではなく、「仕組みとして成果が出る状態を作れ」ということだったんですね。
――なるほど。しくみやシステムの中で仕事をする、ということですね。
田村:いかに効率よく成果を出せるか。いかに無理なく最高のパフォーマンスを出せるか。それを考えることが大事なんです。そして、その根底にあるのは、「誰のためにやっている仕事なのか」ということなんです。
――お客様への貢献が品質経営の出発点ということですね。
田村:そう思っています。モチベーションと仕組み、その両方がそろって初めて高い品質になるんだと思います。

4.海外で気付いたTOTO最大の強み

――海外経験も豊富ですが、海外に出て改めて感じたTOTOの強みは何でしょうか。
田村:海外ではTOTOというブランドを知らない人がほとんどです。日本のような先入観がありません。だから商品やサービスそのものが評価されるんです。
――その中で見えてきたものがあったと。
田村:はい。私は、TOTOの強みは「スーパー真面目」なところだと思っています。商品を真面目につくる。約束した納期を守る。アフターサービスも最後まで責任を持つ。そういう姿勢です。
――技術力や品質の高さというよりも、まずは人の姿勢ということですか。
田村:そう思います。もちろん技術は大事です。でも技術だけでは品質は生まれません。
最後までやり切る文化があるから品質になるんです。
――それが海外でも評価されている。
田村:はい。海外では「そこまでやる必要があるのか」と言われることもあります。でも私たちは手を抜けないんです。それが商品になり、サービスになり、結果としてお客様からの信頼につながる。
TOTOブランドを知らない海外に出たことで、むしろTOTOらしさを再認識できた気がしています。

5.離職率10%から始まったベトナム改革

――海外赴任時代のお話もぜひお伺いしたいと思います。ベトナムでの改革は非常に印象的でした。
田村:当時のTOTOベトナムは非常に厳しい状況でした。社員は約2,000人いましたが、毎月200人近く辞めていました。つまり一年で会社の大半が新しいメンバーになってしまう状況でした。
――それはかなり深刻ですね。
田村 信也  氏
田村:そうですね。衛生陶器は人の技量が品質に大きく影響する製品です。ところが新人ばかりになってしまうと、品質も安定しません。歩留まりも50%台まで落ち込んでいました。100個作っても半分近くが製品にならない状態です。
――現場の雰囲気はいかがだったのでしょうか。
田村:正直に言うと、かなり悪かったですね。問題が起きると、「自分は悪くない」、「相手が悪い」という話ばかりでした。みんな仕事中も転職サイトを見ていて、会社に未来を感じられない状態でした。
――そこからどのように立て直されたのでしょうか。
田村:まず徹底したのは、「何のために働くのか」ということを伝え続けることでした。TOTOの企業理念を何度も何度も話しました。結局、お客様に喜んでもらうために私たちは働いている。そこにもう一度立ち返ろうと。
――設備や制度よりも、まず人と組織だったのですね。
田村:そう思います。もちろん設備投資や改善もやりました。でも根本は人です。最終的には現地社員が自ら企業理念を語るようになりました。「最近仕事が楽しい」、「仲間の成長が嬉しい」そんな言葉が自然に出てくるようになったんです。
――大きな変化ですね。
田村:今では社員数も5,000人規模になりました。離職率も大きく改善しています。品質も日本工場並みのレベルまで向上しました。改めて、人を大切にすることが品質につながり、品質が事業成長につながることを実感した経験でした。

6.社長自ら“社内YouTuber”になる理由

――現在、貴社の組織づくりについてもお聞かせください。かなりユニークな取り組みをされているそうですね。
田村:社内イントラネットで動画配信をしています。社員からは半分冗談で「社内YouTuber」なんて言われています(笑)。
――どのような内容を発信されているのですか。
田村:もちろん会社の方針や経営の話もします。でもそれだけではありません。ラーメンの話もしますし、料理の話もします。ゴルフの話もします。郷ひろみさんのコンサートに行った話もしました(笑)。
――扱う内容がかなり幅広いですね。
田村:あえてそうしています。目的は、社員との距離を縮めることなんです。社長が一方的に正論を話すだけでは、本音は出てきません。
――社員の方がイントラネットの中でコメントもできるとお聞きしました。
田村:そうなんです。「いいね」も押せますし、コメントも書けます。最初はみんな遠慮していました。「素晴らしいです」、「勉強になります」みたいなコメントばかりでしたが、最近はかなり変わりました。
私がゴルフの話をすると、「社長、楽しそうですね」なんて突っ込みが入るようになりました(笑)。
その方がいいんですよ。社長に対しても、自分の意見を言っていい。そういう経験を積み重ねることで、本当の課題も上がってくるようになりますから。
――心理的安全性にもつながりますね。
田村:そうですね。本音で話せる組織でなければ改善も生まれませんし、品質向上もできません。
私はその土壌づくりが経営者の大切な仕事の一つだと思っています。

7.トイレから始まるウェルネス事業への挑戦

――ここからは新しい事業についてお聞かせください。便スキャンを活用したウェルネス事業は非常に注目されています。
田村:私たちは今、「トイレは健康の入り口になる」と考えています。排泄物のデータを日常生活の中で自然に取得し、健康管理につなげていく取り組みです。健康診断は年に一度です。でもトイレは毎日使います。しかも利用者は特別なことを何もしなくていい。普段通り生活しているだけです。
――社長は以前「デイリーウェルネス」という言葉を使われていました。
田村:私たちが目指しているのはまさにそれです。毎日、自然に健康を見守る。気付かないうちに健康を支える。そういう世界です。
――事業としての将来的なポテンシャルも高そうですね。
田村:ポテンシャルは非常に高いと思います。例えば離れて暮らす家族の見守りにも応用できます。また医療機関との連携も考えられます。さらには健康状態に応じたサービス提案なども可能になります。
従来のように商品を売って終わりではありません。継続的なサービス提供を含めた新しいビジネスモデルになります。私たちにとっても大きな挑戦です。
――社会的な意義も大きいテーマですね。
田村:高齢化が進む中で、健康寿命を延ばすことは社会全体の課題です。だからこそ、TOTOが取り組む価値があると思っています。

8.クオリティフォーラム参加者へのメッセージ

――最後にクオリティフォーラム参加者へメッセージをお願いします。
田村:ぜひ、自分がやっている仕事が誰の幸せにつながっているのかを考えていただきたいと思います。皆さんの仕事の先には必ずお客様がいます。その仕事が誰かの役に立っている。誰かを笑顔にしている。その実感を持つことが大切だと思っています。
――品質向上や改善活動も、その先に人がいるということですね。
田村 信也  氏
田村:そうなんです。品質改善そのものが目的ではありません。その先にいる人の幸せや喜びにつながることが目的です。
――本日のお話を通じて、品質経営の根底には常にお客様がいることを感じました。
田村:私もそう思っています。お客様の顔を想像する。その人に喜んでもらう。結局、それが仕事の原点ですし、品質経営の原点でもあると思います。
――本日は貴重なお話をありがとうございました。クオリティフォーラム2026でのご講演を楽しみにしております。