クオリティフォーラムアーカイブ

クオリティフォーラム2025 登壇者インタビュー

顧客の信頼を勝ち取るために必要な
組織能力の獲得とTQM

~自動車産業を支え続けて1年・黒子のモノづくり~

株式会社メイドー
代表取締役社長
長谷川 靖高 氏 に聞く

聞き手:安隨 正巳(日本科学技術連盟 品質経営創造センター 部長)
長谷川 靖高 氏
長谷川 靖高 氏
㈱メイドー
代表取締役社長

1994年㈱メイドー入社 北米準備室、翌年北米子会社ライトウエイファスナーズへ出向 副社長、21年 海外事業室 室長、ナゴヤダクロ㈱ 取締役、25年 メイドー 海外事業部 取締役部長を経て、ナゴヤダクロ 代表取締役社長、メイドー 専務取締役を経て2023年から現職。㈱MCシステムズ 代表取締役会長も務める。

自動車の重要保安部位に使用される高強度ボルト、ならびに、高精度・大物冷間鍛造部品の製造・販売。

趣味はスキー、トライアスロン、ドライブ。

1. 入社後、すぐにアメリカに赴任

――まずは長谷川社長のご経歴についてお聞きします。
長谷川:私が学生で就職活動をしていた頃、父(当時専務)から「アメリカに会社を作るから、少し手伝ってくれないか」と声をかけられ、メイドーに入社しました。
当時、社内には英語を話せる社員はおらず、アメリカに行ったことのある人もいませんでした。そんな中、アメリカ好きの私に白羽の矢が立ったのだと思います。
これが、私のメイドー人生の始まりでした。
――小さい頃から、メイドーで家業を継ぐということは頭に描いていたのでしょうか。
長谷川:私は3代目ということで、小さい頃から祖父と父の背中を見て育ちました。工場や会社に遊びに行くのが日常で、自然と「将来はメイドーで働く」という思いを抱いていました。
――入社して、すぐにアメリカ勤務になった。
長谷川:入社してすぐにアメリカ勤務となり、現地法人の立ち上げを任されました。約5年間の駐在で、現在のRightway Fasteners, Inc.の基盤を築きました。当時はトヨタ自動車をはじめ、世界各国で現地調達率を高める動きがあり、当社もグローバル展開を加速しました。アメリカに続き、ヨーロッパではオランダのねじメーカーと合弁、中国では日系メーカー3社と協業し、現地生産体制を整えました。

2. 日本一のねじメーカーになりたかった

――入社当初は、どのようなことを考えて仕事をしていましたか。
長谷川:一番良かったのは、社会人一年生からアメリカの会社を任せていただいて、そこで仕事ができたということですね。このあたりが私の原動力になっています。また、現地・現物で日本の成長期のダイナミズムをみることができましたし、起業家で溢れているアメリカの文化も体感できた。そんな中で、この先日本はどうなるのかということも考えていました。
――入社早々にそんなに大きな目標を持っていたことに驚かされます。

長谷川:入社して間もなく、「日本一のねじメーカーになる」という目標を掲げました。前社長の長谷川裕恭の品質重視の経営方針と社員全員の努力があったからこそ、今のメイドーがあります。若い頃から経営レベルの難しい仕事を任せてもらえたことが、デミング賞受賞など大きな成果につながりました。

今、執行役員が全部で6人いるのですが、1人以外はすべて私の元部下です。当時、私が30代後半の頃、彼らが30代前半の時に経営レベルのハードルが高い仕事をやらせていました。だから、デミング賞受賞も含めてそういう若い人たちが汗をかいて頑張った経験が非常に大きかったです。

3. 重視している創業の精神

――貴社は1924年に創業され、基本的な経営方針は無借金経営であり、決して規模を負わない。でも利益を求めるというように聞いています。

長谷川:創業以来、「良い品を安く早く」という社是を守り続けています。これはQCD(品質・コスト・納期)の徹底であり、メイドーのバックボーンです。創業者・長谷川幸三が豊田喜一郎氏の「日本人のための車を日本人の手で作りたい」という夢に賛同したことが原点です。現在も「結ぶ・つなぐ」という理念で社会課題を解決し、パーパス経営を実践しています。

近年、カーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーは避けて通れないのですが、さらに働き方改革というところでいくと、社員のより良い仕事環境や生活を実現していくのは我々のパーパスであるということも最近思うようになりました。

4. 「黒子のモノづくり」に込められた思い

――本年度、長谷川史郎名誉会長の著書「黒子のモノづくり」が日経品質管理文献賞を受賞されました。誠におめでとうございます。この言葉に込められた思いはどのようなものなのでしょうか。
長谷川:黒子とは、表舞台には出ないが主役を支える存在です。私たちは黒子として産業を支え続ける誇りを持っています。電気自動車や半導体が注目される中、ねじがなければモビリティは成り立ちません。そういう意味では我々も先ほどお話しした社会課題の解決を、黒子として支えていきたいと思っています。
――モノづくりに加えて、コトづくりが重要、とかなり前から言われていますが、貴社は「ねじやボルトを作る」ではなく「繋げることで産業界のニーズにこたえる」という考え方にシフトして、いち早くビジネス展開をされてきました。
長谷川:持続可能な社会の実現を目指して多くの企業が課題を抱えながらトライ&エラーを重ねています。我々はお客様である自動車メーカーがこれからの持続可能な社会の次を目指す中で、受け身ではなく、どうしたらお客様がそれを実現できるのか考え行動してきた結果として、「パートナー」と見ていただけていると思っています。
――さらに2021年に「メイドーフィロソフィー」を制定されました。
長谷川:「メイドーフィロソフィー」は、現在のメイドーの人材育成の教科書になっています。グローバル展開に舵を切っていくと、重要性が増大してきたのが会社としての理念でした。この理念浸透こそが成功の礎となります。
――「品質のメイドー」の強みはなんでしょうか。
長谷川:メイドーの強みは、月2億本のねじを不良ゼロで生産できることです。TQM活動を基盤に、デミング賞(2010年)、大賞(2013年)を受賞しました。トップ点検や5S点検を30年以上継続し、現場改善を文化として根付かせています。メイドーの製品と同じタイプのねじを作れる会社は世界中にたくさんあると思います。一個一個だったらどこでも作れます。しかし、大量に安定的に同じペースで不良品を出さずに作り続けられる会社はまずありません。

5. TQMを経営の基盤に

――TQM活動をスタートしたのは、豊田章一郎氏がきっかけと聞いています。

長谷川:当時、経団連会長で自らもデミング賞の委員長を務めていた豊田章一郎さんに奨められました。その後決して平坦な道のりではありませんでしたが、デミング賞(2010年)、デミング賞大賞(2013年)を受賞することができました。

今のメイドーがあるのは、名誉会長と会長が、TQMを通じて得た「QCD」という武器を私に持たせてくれたので、それをもって外で戦ってきたような感じです。その活動でお客様の課題を解決していき我々も成長していくことが出来ました。今は変革の時代と言われており、将来を見据えた上でもTQMは会社の基盤になっています。

――各現場を回る「トップ点検」も月に1回行っているようですね。
長谷川:トップ点検と5S点検を月に一度行っています。会長と私が各職場の発表を聞いています。その席には各職場の課長以上の職制が全員参加しています。
――課長以上も全員参加しているのですね。それだけ長い期間継続しておられるのは驚かされます。

長谷川:先ほど言ったとおり、全部署で実施するのですが、その部署の人たちが会社の年度方針や年度目標を受けて改善活動を行っています。トップとしても現場に行って彼らの発表を聞くことにより現場の状況も確認できますし、他部署の課長も出席を認めているので、彼らにとっても他部署のことを知ることができる良い機会になっています。私も現場の人たちとたくさん会話をしますよ。

これは私が入社した頃から継続しています。30年以上になります。すすめ方などは時代に合わせて変えていますが。これはメイドーの文化ですね。先ほどの「不良を作らない」ことにつながっています。

――人材育成についてのお考えもお聞きしたいと思います。
長谷川:「ものづくりは人づくり」という考え方から、人材育成のためにいろいろな活動をやってきています。例を一つ紹介すると「AK活動」です。
――AK活動とは?
長谷川:「ものづくりは人づくり」を信条に、若手に挑戦の機会を与えています。AK活動(アッパレと喝)で褒める文化を育み、賞獲り文化で高い目標への挑戦を促しています。私自身も入社直後に海外拠点の立ち上げを任され、OJTで成長しました。若い世代にも経験を積んで欲しいと思っています。

6. 世界一のイノベーション・コネクティング・カンパニーに

――世界一のイノベーション・コネクティング・カンパニーになる、と言われています。
長谷川:「世界一のイノベーション・コネクティング・カンパニー」には3つの軸があって、①つなぐことへのイノベーションの提供 ②マーケット ③エリアです。
我々は自動車産業で、ここまで成長してきましたので、これからの我々の使命は持続可能な社会の実現を目指して頑張っておられる、企業、団体の締結分野の困り事を「結ぶ・つなぐ」の技術を活かし解決していくことです。軸としては産業軸、それから地域軸です。それと技術力が絶対重要です。我々はいろいろな技術を持っており、その技術を3つの軸で社会の課題解決につなげていくことが使命だと思っています。
――激変する企業環境の変化の中では、過去の成功体験が障害になった、ということもあるのではないでしょうか。
長谷川:あまりないですね。我が社はどちらかというと過去やってきたことを変える、ということに対して徹底的に議論をして、慎重に、検証します。検証しながら必要であればやっていきます。我が社の組織のよい点は、風通しの良い社風で議論ができるという点であると思います。
――やはり、重要なのは組織の風土、文化ですね。

長谷川:そうだと思います。あとは、これまでお客様やパートナーに鍛えられながら来たということもありますね。これに加えて、デミング賞をはじめ素晴らしい機会を体験させていただいたからこそ今のメイドーがあると思います。

ただ、最近の若い年代の人たちはそういった体験をしておらず、そのギャップを埋めることが我々の課題だとも思います。我々の年代はいろいろな経験をしてきたので、できて当たり前みたいなところはあるのですが、彼らからすると経験がないので、それがプレッシャーになります。そこはどこかで1回意思統一が必要であると思います。

――御社の文化に「賞獲り」という文化もあると聞きました。
長谷川:確かにあります。あえて高い目標に挑むことで、そのプロセスを通じて人は成長します。また乗り越えたときに達成感があります。これは人を成長させる原動力になるというものです。

7. EVシフトについて

――自動車がEVに移行する中で、部品点数の削減、新たな技術開発などお考えをお聞かせください。

長谷川:シフトはEVというよりも、カーボンニュートラルです。これは本当に避けて通れない道なので、そこに対しては当然様々な検討をしています。先ほど言った部品点数が減るとか増えるとかはあるのですが、そこはしっかりねじ屋として技術を支えていきたいと思っています。

最近の設計の話をすると、EVによって構造骨格が変わり、車の組み立て方自体も変わります。組み立て方が変わるということは、締結屋も変わり、それに応じて我々も変わるということです。そういう意味で大きな変化点だと思っています。またこれは新たな事業の開拓にもつながるチャンスでもあります。電気自動車だからとかエンジン車だからという話じゃなくて、カーボンニュートラルに対して企業としてどう向き合っていくかです。EVは1つの手段です。二酸化炭素を限りなく出さないエンジンを作ろうとしている人がいれば、我々はそこに協力します。

8. 各企業の部・課長さんへのメッセージ

――今回「クオリティフォーラム」で特別講演をいただく予定ですが、このフォーラムの主参加者層が部・課長です。会社は違えども、部課長さんに対するメッセージをいただけますでしょうか。

長谷川:部長さん、課長さんは会社のエンジンだと思います。物事の捉え方、考え方をしっかり持ってほしいですね。物事には道理や真理があるので、表層的なものを鵜呑みにしないことです。物事を判断する際に、方向決めをする際に、それがいいとか悪いとかだけではなく、その物事の道理を分かった上で、会社と行動をするという点が重要だと思います。結局は道理心理がしっかりしてないと会社がおかしくなります。

端的な例が、「お客様が電気自動車を作りたい」って言うから作るではなく、「カーボンニュートラルのために我が社は「何をするべきか」なんです。物事の道理をしっかり考えた上で、その行動をしてほしい。我が社では、執行役員、部長層とはそのような議論をしています。
私はトップとして、一つ一つのことに対して、なぜ良いのだ、なぜ悪いのだということをしっかり伝えるように常に心がけています。

――貴重なお話をありがとうございました。フォーラムでの講演が本当に楽しみです。