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クオリティフォーラム2024 登壇者インタビュー

ダイキン工業における
海外現地法人における品質経営の展開

~品質確保のポイントは“人基軸の経営”と
グローバル同一品質を目指した技能伝承~

ダイキン工業株式会社
常務専任役員
泉 茂伸 氏に聞く

聞き手:安隨 正巳(日本科学技術連盟 品質経営創造センター 部長)
泉 茂伸 氏
泉 茂伸 氏
ダイキン工業株式会社
常務専任役員
1983年にダイキン工業入社。
電子機器事業部 開発課、電子技術研究所を経て2002年に空調生産本部 デバイス技術グループ主任研究員。2004年に大金電器機械(蘇州)公司 董事長・総経理として中国に赴任。2009年、珠海格力大金機電設備公司 副董事長・総経理を経て、2012年から大金空調(上海)有限公司 董事長。
現在は、大金中国投資有限公司 董事 総経理、 大金空調(蘇州)有限公司 董事長(非常勤)、 大金電器機械(蘇州)有限公司 董事長(非常勤)。

1. 「いい(よい)加減な会社」ダイキン工業に入社

――泉様は1983年にダイキン工業に入社されました。数ある企業の中でなぜダイキン工業を選んだのでしょうか。
泉:大学の研究室からの紹介でした。ダイキンに勤めていた先輩から実に「いい加減な会社」であると聴いたことがきっかけです。これは「大雑把で投げやり」ということではなく「程度が程よい=よい加減」という意味です。自由な社風で風通しがよく、好きなことを自由にやらせてくれる、ということも言っており好感を持ちました。
――実際に入社されていかがでしたか。
泉:これは本当にその通りでした。一年目から新規事業の設計業務を任せてもらいました。
――入社当初は、どのようなお仕事を担当されたのでしょうか。
泉:一年目に電子機器事業部に配属され、グラフィック・ディスプレイの設計を担当しました。当時社長だった山田稔さんが「猛暑が来れば儲かり、冷夏であれば業績は厳しくなる、という天候で業績が左右されるのは経営とは言えない」と将来への危機感から、3つの新規事業を立ち上げました。その中の一つが電子機器事業部だったのですが、私の大学の専攻は電機であり、電子回路の設計はもちちん専門外で、本当にこの時勉強をしました。その後10年以上この業務を担当しました。
当時、NHKで「電子立国 日本の自叙伝」という番組がありましたが、その中でも「コンピュータをやったら死人が出る」の比喩が出されるほどでした。これは寝ずに開発をするためそう表現されたわけです。私もまさに死ぬほど仕事をしました(笑)。今の時代では考えられません。ただ、これがその後仕事をしていく上で本当に生きましたね。

2.ダイキンのグローバルでの強さ

――2024年3月期連結決算は売上高、営業利益ともに過去最高を更新しました。空調事業では2010年以降世界首位。中国経済は減速しているものの、世界170カ国に進出し、海外売上高比率8割超というグローバル経営が強みの源泉と思われますが、具体的にダイキンのグローバルでの強さはどういった点にあるのでしょうか。
泉:たぶん、赴任する人間が “現地に飛び込んでいく” からでしょうね。ダイキンの文化もあり、自分で飛び込んでいき、自分で勉強してひとつの場所で長く勤務、というパターンが比較的多いです。特にアジア地区ではそういう傾向があります。私自身も中国に赴任して20年になります。それでも、私の駐在歴が一番長いわけではないですよ(笑)。
――現地の文化・風土を理解して向き合う、ということでしょうか。
泉:文化・風土を理解して、というよりは、実際の話、その国が好きでないとやっていられないですよ。 それは結果として文化・風土を理解することになるのだと思います。
――泉様が、中国が大好きなことはお話をしていてとても感じます。
泉:好きですね。中国の「いい加減」なところが好きです。これはダイキンの基本理念とも合致しています。
――貴社には、「○○初」というヒット商品がグローバルで多く出ています。泉様のおられる中国でも「中国初の住宅用マルチエアコン」がヒットしたと聞いています。
泉:日本のマンションは、内装を施して販売しますが、中国はスケルトンすなわちコンクリート打ちっぱなしで売って、内装は好きなように自身で行うのが一般的です。これはデザイン会社、工事会社などが分業して行います。しかもその価格は安いのです。そこに目を付けて、マルチにして内装を設計会社と組み安く提供する、というビジネスモデルでヒットしました。
これは、ダイキンだけではなく、設計会社、施工会社、個人の発注主すべてが得をするエコシステムがあったからです。
――なるほど、日本の近江商人の精神「三方よし」そのものです。まさに現地の文化に着眼したヒット商品ですね。

3.中国で成功したQCサークル活動

――泉様は、中国に赴任されたのは2009年ですね。
泉:2009年に中国の珠海格力電器公司(以下、格力電器)との合弁である珠海格力大金機電設備公司(以下、格力大金)に移りました。ルームエアコン用圧縮機とインバータ制御用プリント回路基板(PCB)の製造を行う会社です。そこでは土地の整備から工場建築まで幅広く手掛けました。それまでダイキンでPCBを製造していたのは日本のダイキン電子だけで、海外では地元の協力会社にお願いしていましたが、そのときダイキンで初めて海外でPCB製造を手掛けました。それが立ち上がった後の2012年6月に上海に移動し現在に至っています。
――中国で一番苦労したのは、どのような点でしょうか?
泉:離職率の高さですね。育ててもステップアップのために辞めていく。特に辞めていくのは優秀な人ですね。一方で、ダイキンの人基軸の経営に共感し「自分が頑張れば会社がよくなる」ということを理解して長く働いてくれる人もたくさんいます。
――離職率を下げる取り組みはされたのでしょうか?
泉:なかなか難しい問題ですが、強いて挙げれば「改善することが面白い」と思ってもらうことでしょうか。ものづくりの楽しさ、現場、改善、チームで取り組む、ここに共感した人たちは残ってくれます。
実際に離職率は、中国の各拠点の平均よりもかなり低いです。これを長年維持できています。
――中国海外現地法人でもQCサークル活動をうまく進められました。
泉: 私はダイキン工業に入社して滋賀工場に配属されました。日本におけるQCサークル活動の全盛期で、どこの企業も取り組んでいました。私も滋賀工場ではQCサークル委員をやりましたし、中国でもQCサークルをやろうということになりました。
当時、日本ではQCサークル活動のための残業はせず、就業時間内に“自分のためにやりなさい”といった形でしたが、その他は手弁当でした。しかし、中国の従業員はそれでは動きません。そもそも、同じアジア圏にあっても中国での労働法や労働に関する習慣は欧米と近い。先程言った通りどんどん転職もするし、ジョブスクリプトがあって、それに沿って働いて、それに見合う給料をもらうという考え方です。従って、ジョブスクリプトに書いていないQCサークル活動には当初抵抗がありました。
――最初からうまくいったわけではなかったのですね。
泉:そこで、残業代を払うので残業でやっていいよ、発表会で上位に入賞すれば報奨も出すよ、といったインセンティブを提示しました。すると、みんな必死にやるようになりました。そうして現場の改善が進んで品質が良くなりコストが下がると、彼らも面白くなってくるんですね。次第にみな喜んでやるようになります。このあたりは、アジア人として日本人とも共通するのかもしれません。
――インセンティブだけでは続かない気もします。
泉:その通りです。インセンティブだけでは続きませんね。しかし、だからインセンティブは出さない、は違うと思います。改善して結果が出て「気持ちがよかった」のではないでしょうか。さらにその改善内容が褒められる。QCサークル活動によって、チームで結果を出す、という面白さも理解できたのだと思います。
――それ以外に現地法人トップとして心がけていたことはありますか。
泉:工場にいるときは、毎日現場に行っています。現場を重視しています。現場でものをつくっているので。現場の人もよくみていますからね。「また、来た!」と(笑)
――トップの思いは伝わりますよね。
泉:動機づけの正のスパイラルが回っていたのだと思います。中国の学校の教育は確かに個人主義的なものはありますが、日本人と似ています。日本の文化も中国から来ているものは多いですからね。もともと農耕民族であり、「みんなで協力して何かをやる」という文化は根底にはあると思います。

4.人基軸の経営とは何か

――今回登壇される「クオリティフォーラム」でもお話の中心となる「人基軸の経営」について、「人基軸の経営とは何か?」と聞かれたらどのような回答をされますか?
泉:人基軸の経営とは、「人にやさしい経営」というよりは自分が頑張らないといけないので、ある部分では、「一番人に厳しい経営」です。自分で考えて自分でやらないといけないので。しかし頑張ったら、好きなことをやらせてもらえる、給料もあがる、職能も上がる、それには自分で考えて自分でやる必要があり、言われたことだけをしているだけではダメです。
自分が好きなこと、やりたいことをやらせてくれるのがダイキンであり、人基軸の経営と言えます。
――なるほど、自律的な人材が育つような気がします。

5.5S+「士気」の6S活動

――ダイキン中国は、6S活動が知られていますが、説明をしていただけますでしょうか。
泉:6Sとは、整理、整頓、清掃、清潔、躾の5Sに『士気』を加えたものです。一般的に仕事の基本は5Sですが、ダイキンの「人を基軸とした経営」から、
  • 何事にも「やる気」をもって行うこと
  • やるべき事、課題などをみんなで侃々諤々して納得性を重視し理解し合って良き結果に結びつける。「チームワーク」をもって行うこと
より、『士気』として6番目に加えたものです。
――「6Sオリンピック大会」も実施されていると聞きました。
泉:はい。そうです。「6Sオリンピック大会」は全員参画の大会であり、高効率・高品質な生産活動、環境活動、ゼロ災活動等を緻密に実行していく中で従業員に対し“仕事の基本は6S”と言う事を認識してもらうと同時に、オリンピック大会と称して大々的に取組を評価する事で従業員の『士気』の高揚を図り、目標に向かって一丸となる基盤づくりとことをねらいとして開催しています。
――どのような評価方法をして表彰するのでしょうか。
泉:5Sの出来てない部分は、減点評価されるのですが、以下の視点での加点があります。
大会ポスター
  1. ① 6S『士気』向上活動に対して加点する。  
    • 職場従業員への6S活動PR及び周知徹底度を事前配布の6Sポケットカード持参状況など確認
    • 6S活動計画、役割分担の明確化など活動板にて確認
    • 管理職の推進状況などから管理職の『やる気』及び 従業員に『やる気』を引き出しているか等評価。
  2. ② 改善に対して加点する
    • 6S活動に関する知恵と工夫の改善や改善に対する執念、努力度、自前改善等を評価。
    • 特に4S改善であれば高得点の加点有り。
 

6.新型コロナウイルスのロックダウンのエピソード

――新型コロナウイルスが猛威を振るっていたころ、中国ではロックダウンが断続的に続き、生産にも大きな影響が出たのではないでしょうか。
泉:新型コロナウイルスの影響で上海がロックダウンとなった時、何とか工場を動かせられないか、と皆で相談していたところ、「工場に寝泊まりして、毎日PCR検査を受ければOK」と政府から許可が出ました。
――とはいえ、1000名を超える従業員が工場に寝泊まりするのは不可能では…。
泉:それが可能だったのです。工場で約1000名が約1.5か月寝泊まりして生産しました。工場の会議室の床に段ボールを敷いて、食事は食堂を動かしました。このスピード感はかなり早かったですよ。
――PCR検査も毎日1000人が受けた…。
泉:PCR検査は医局の先生と政府から一人、二人の医者が毎日検査をしました。ここでもダイキンの「改善」が生きました。当初はPCR検査に2時間かかっていたものが、改善により最後は30分で済むようになりました。QRコード提示の事前準備や検体試薬準備の仕方、レイアウトあらゆるものを見直したのです。まさに“ムダ取り”の精神でしたね。その時も、皆が改善も楽しんでやっていました。
――すごいですね。驚くばかりです。

7.グループ経営理念

――貴社、今年創立100周年を迎え、グループ経営理念も改訂されました。
泉:そうなんです。2002年にグループ経営理念「ダイキングループ経営理念」を定めましたが、100年周年を機に新たに「ダイキングループ経営理念」を策定しました。6つの経営理念について、文章を作り直しグローバルに展開しています。「ありたい姿」も加えました。
――「人を基軸におく経営」にもとづく行動指針も加わったようですね
泉:従来の10章から6章に再構成しました。それに加えて、グループ従業員一人ひとりに求めるものとして『「人を基軸におく経営(People-Centered Management、以下PCM)」にもとづく行動指針「PCM Behaviors」』を新たに策定しています。

ダイキングループ経営理念

人を基軸におく経営にもとづく行動指針
PCM Behavios Management

8.真の現地化のために必要なこと

――真の現地化のためには何が必要でしょうか。日系企業の海外現地法人では、日本人の熱量と現地の熱量が違って苦慮している、という声を聞くことがあります。
泉:拠点によって多少のばらつきがありますが、基本的に部長クラスは中国人です。やはり現地の人が核とならないと難しい部分はあります。
――海外現地法人で日本と同じことができないという悩みを聞くことがありますが、本講演で特に聴講者に伝えたいメッセージがあればお話しください。
泉:日本流の押しつけは絶対にダメです。日本人はまじめなので、そんなことはないのですが、海外では、さぼりたい、楽をしたい、という従業員も一定数存在します。

QCサークルは、導入当初は組長や職長でグループを編成して活動を行いました。ラインの組長でテーマ解決活動を「勉強だから」といって取り組んでもらいました。日本ではパートさんなどもメンバーとして活動を行っている企業も多いと思いますが、中国はそうはいきません。
QCサークルに参画した組長が「これなら自分の職場でできる」と思ってくれて、拡大していきました。 欧米もまた中国とは違いますね。土台は先程お話しした、社是やグループ経営理念だと思います。ここがしっかりしていれば、「我が社は経営理念実現の一環として活動をしている」と言えます。
――貴重なお話をありがとうございました。フォーラムでの講演が本当に楽しみです。