クオリティフォーラム2022 登壇者インタビュー

お客様が困った時、何を置いても
「最初に思い浮かべていただける会社」でありたい

〜『イコールパートナーと評価される開発提案型企業への成長』をめざしたTQMの推進〜

株式会社オティックス
代表取締役社長の
小田井 勇樹氏に聞く

聞き手:伊藤 公一(ジャーナリスト)
小田井 勇樹 氏
小田井 勇樹 氏
株式会社オティックス
代表取締役社長
2006年 トヨタ自動車株式会社 入社、上郷工場 工務部、生産管理室 生産調査室を経て、2014年 ㈱オティックス 常務執行役員。
その後、OTICS USA Inc. 社長を経て、2019年 ㈱オティックス 代表取締役社長に就任。
同社は、2018年デミング賞、2021年にデミング賞大賞を受賞。『イコールパートナーと評価される開発提案型企業への成長』をめざしたTQMの推進にリーダーシップを揮っている。

1. 100年間平和な時代が続いていた証し

――自動車業界をめぐる「100年に一度の大変革」をどう受け止めていますか。
小田井:大変に厳しく、つらいと感じています。逆に言うと、100年間平和で安定した時代が続いていた証しでもあると思います。
「大変革」の大元はカーボンニュートラルとか気候変動問題あたりにあると思うのですが、それに加えて、中国や欧州がダイナミックな動きを見せてきた。それがかなり強烈に来てしまったという印象を持っています。
とはいえ、会社としてはそれ相応の対応をしなければなりませんから、これまでの底力が試される機会なのかなとも思っています。
――仕事の流れの中で潮目が変わってきたと感じたのはいつごろですか。
小田井:実感したのはここ2、3年です。実は3年前まで米国の事業所にいたので、日本での感覚と少し受け止め方が違っていました。来る日も来る日も、エンジンで動くトラックがバンバン売れていくのを目の当たりにしているわけです。
もちろん、当時から電動化という話は出ていましたが、実際のところ、あまりピンとは来ていませんでした。それが今や欧州メーカーはエンジンを止めるという流れだし、エンジンに強い思い入れを持っているとされた国産車メーカーもそういうこだわりを捨てて電動化に舵を切ると言い出した。それを聞いた時にはちょっと衝撃を覚えました。
――エンジン機能部品を主要製品としている貴社にとって、電動化は「黒船」ですね。
小田井:電動化ばかりでなく、コネクティッド、自動化、シェアリングをひとまとめにした「CASE」と呼ばれる変化は当社の事業にも少なからぬ影響を及ぼしています。
率直に言って、当社は歴史的にトヨタ自動車に支えられた部分が大きく、同社をはじめとして、お客様のニーズに合わせて変化させてもらってきた面があります。しかし、これからは自己責任で変化・進化することが求められるようになります。ですから、お客様に対してわれわれから新たな価値を提供していかなければならないと思っています。

2. 失敗を恐れず、トライをしたい

――「大変革」は貴社の事業に、どのように影響していますか。
小田井:直近状況という但し書き付きになりますが、2024年くらいまでエンジンを必要とする車の台数は上がっていきます。ですから、現場で日々の生産に当たっている従業員からすると「滅茶苦茶忙しい」というのが実感ではないでしょうか。
一方、長期的には確実にエンジンで動くタイプの車の台数が下がる絵が見えています。お客様の長期計画や話し合いから浮かび上がる絵です。そこらあたりの売り上げと利益の兼ね合いをどうするかが難しいと思います。
「今は上がっているけど、やがて下がる」という、確実に読める動きにどう対応していくか。これまでの歴史で参考となる事例がないだけに、困惑しています。
――それらに対して、どう対応しようとお考えですか。
小田井:当社はもともと設備の修理から始まり、工作機械製造、自動車部品製造などを手がけてきました。この間、エンジンの構造は2度、大きく変化していますが、その都度、対応してきた実績があります。
その経験を踏まえるならば、大丈夫なのかと思います。当社はエンジン部品を中心に手がけているため、このたびの変化には特に対応しなければならない使命を帯びています。
幸い、今なら多少の失敗をしても、すぐさま会社が傾くことはありません。ですから、さまざまなトライができるわけです。「もっと上の会社」になるためには臆せずトライすることで、むしろ変革を加速せねばならない、という思いで臨むことが大切だと思っています。考えてみれば、デミング賞大賞挑戦も「大変革」への対応の一つでした。

3. 安く作るだけでは仕入先にすぎない

――現在の経営戦略である「VISION120」の要点と最終的な目標は。
小田井:展望を示す「VISION」の後に続く「120」には「創業100年の節目に活動を始め、その20年後にどのような会社でありたいか」という思いが込められています。その柱の一つが「イコールパートナーと評価される開発提案型企業への成長」です。
イコールパートナーの定義は、単なる取引先にとどまらず、専門分野において高い技術力を持ち、改善の根付いた企業体質による信頼感があり、常に顧客価値を高め続けられる会社であることです。
具体的には、設計提案、超ダントツ品質、求められる以上の社会的責任(安全、環境、人財育成)における対応ーーのそれぞれで顧客価値を向上することを掲げています。
――単なる取引先にとどまらない会社、といった点に強い誇りと熱意を感じます。
小田井:平たく言えば、ただこちらが一方的に頼ってばかりでなく、頼られる存在になりたい。その一点をめざしています。特に「品質」に関してはトップ企業でありたいと願っています。もちろん、追求する品質のベースには「安全」があります。
例えば、お客様からもらった図面の部品を安く作るのは単なる仕入先の仕事です。それに価値を付けるために、われわれは安いばかりでなく、性能を高めた新たな提案をします。そういう姿勢で臨んだ製品をどんどん提案していけば、お客様から頼られる。
すでに一部製品ではそのような評価をいただいていますけれども、その数をどんどん増やして、文字通り、お客様になくてはならない存在になりたいと思っています。

4. 自動車事業内外の両面で新分野に挑む

――「VISION120」のもう一つの柱である「新規分野への挑戦」はどんな取り組みですか。
小田井:本業の「自動車事業での新分野探索」と、多角化戦略である「自動車事業以外での新分野」の両面における取り組みです。
新分野では、顧客の電動化、製品開発動向の分析から、目標とターゲット製品を絞り込み、新規製品販売戦略「ES200」を策定しました。また、獲得するために必要な技術の習得手段の検討、部門横断による活動の仕組みの構築で新規製品開発を進め、魅力ある新規製品の創出につなげています。
電動化が進むと、これまで当社のメインだったエンジン関係の部品で必要とされない部品が色々と出てきます。ですから、「ES200先進開発本部を立ち上げ、たとえ電動化が主流となってもなくならない部品を開発し、販路を広げることに重点を置いています。
――「自動車事業以外での新分野」ではどのようなチャレンジをされていますか。
小田井:会社が儲かるだけでは意味がないと思っています。私の思い描く新分野は、せっかく当社に入ってくれた人が職場を変わっても働き甲斐を感じられるような事業です。
その一環として試みているのが、保有する生産技術や試作加工技術を生かしたダイカスト金型や刃具の内製化です。単なるモノづくりでなく、改善力や原価低減力へとつながる、新たな精密加工技術の蓄積にもつながると考えています。
また、自社技術の拡大として「AIの手の内化」推進をはじめとする、未経験分野へのチャレンジにも取り組み、新規事業の探索を進めています。

5. 11の部門が14機能のもと横断的な活動を展開してきた

――2018年のデミング賞受賞を踏まえた活動はどのような成果をもたらしましたか。
小田井:何事にも言えると思いますが、ある時に想定した状況は必ずしもその通りにならず、年を追うごとに変わってくる場合があります。一つの考えにこだわらず、会社の方針として修正をかけていくこともあります。
ですから、トップのそうした思いがきちんと下までつながるような方針の連鎖を重視しています。言葉上だけではなく、しっかりと数字に落とし込むことが肝心です。そういう連鎖はきちんととれていると感じます。
――会社の置かれた環境や課題が全社員と共有できているということですか。
小田井:はい。共有ばかりでなく、同じ大きな目標に向かって活動できたことが大きいと思います。
当社には合わせて11の部門がありますが、それら部門による横断的な活動ができています。目標や期限も決まっていたので、それに向けて各部署が非常に頑張ってくれました。嬉しいことに、その頑張りに見合う結果を出すこともできました。
具体的な成果として誇れるのはお客様や行政、地域などからいただいた、たくさんの賞状や感謝状です。その評価の内容はさまざまですが、いずれもTQMの成果であると思っています。品質に関しては、お客様から「品質のオティックス」と評価されることをめざした活動に力を入れた結果、毎年なんらかの品質賞をいただけております。

6. TQMを“自然体”の活動に落とし込む

――「VISION120」の達成に向けて、TQM活動をどのように推進していくお考えですか。
小田井:デミング賞大賞に挑んでいる時は、どちらかというと、役員直轄的なTQM活動という色が濃かった。「会社として頑張っていくぞ」という感じですね。しかし、受賞して、一段落すると、推進方法も変える必要があると思います。
これまで、会社の方針や戦略を担うのは経営戦略室でしたが、TQMには直接的に関わっていませんでした。しかし、会社として根幹の経営を考えるところが担当すべきだと考え、経営企画室の業務としました。
会社の方針として「どうあがいてもTQMから逃れることはできない」という仕組みに改めたのです。その上で、TQMを自然体の活動に落とし込んでいきたいですね。
――社長のおっしゃる「自然体の取り組み」とはどのようなものでしょうか。
小田井:理想的には、改善することが特別なことでなく、当たり前という社風です。無理やりやらされていては良い成果を導けるはずがありません。
そのためには、すべての社員が常に問題意識を持つことが大切です。言われたからやるのではなく、自分の仕事を楽にしたいから取り組む、というような。
例えば、最近は文章だけの真っ黒な資料に図や絵が入るようになったり、ギャグを入れた発表が増えたりしています。要するに遊びの要素が加わるようになってきた。そういうふうに楽しめる人が増えてきたという実感を持っています。

7. 「愚直な活動」こそがオティックス流

――改めて、貴社におけるTQM活動の特徴はどのようなことだと思いますか。
小田井:自らのことを正しく評価することは難しいのですが、他社の担当者からは「あきれるほど愚直」だと言われているようです。もちろん、この際の「愚直」は誉め言葉だと思っているのですが。
例えば、改善シートをここまで熱心にやる会社はいない、といったようなことを聞いたことがあります。当社では一人あたり毎月5件(現在は3件)を課したことがあるのですが、それを「6年も7年もよく続けられますね」と感心されました。
先に触れた11部門の横断的にな活動に対しても、それだけの数を同時に回せる会社はそうそうない、と言っていただいています。
――良い意味での愚直さが従業員の気持ちに染み込んでいるのでしょうか。
小田井:さまざまな意味で、他社には負けたくないという気持ちを持ってくれているとは思います。当社が取り組むべき、変革に対してもTQMの重要性を感じています。
ですから、これからもTQMを経営の根幹に置いて、活動し続けることが大切だと思っています。その意味でも「自然体での改善風土の構築」が重要だと思います。今後の活動も、そこに重きを置いて推進していく考えです。

8. 品質に対する取り組みを積み重ねる

――イコールパートナーと評価されるために外せない心がけとは。
小田井:最終的に問われるのは総合力だと思いますが、当社の存在意義を訴えるためには品質へのこだわりが絶対に外せないと思います。当社がめざすのは、お客様が困った時、何を置いても最初にオティックスの名前を思い浮かべていただけることです。
名前を出していただくのに奇手も妙手もありません。品質に対する取り組みを一つ一つ積み重ねていくしかないと思います。
――やはりここでも、愚直に取り組むオティックス流がモノを言いそうですね。
小田井:繰り返しになりますが、「安全と品質」は絶対に譲れない当社の経営の基盤中の基盤です。当社がイコールパートナーとして評価されるために外せない要点でもあります。
それを堅持していくためには技術力が問われます。しかし、技術力だけを捉えると、トヨタ自動車を取り巻く国際的なティア1クラスには歯が立ちません。では、どうするか。至って簡単なことですが、技術力に勝る対応力や、きめ細やかさといった当社の強みを訴えることだと思います。

9. 「入ってよかった」と感謝される会社に

――本講演で聴講者に伝えたいメッセージがあればお話しください。
小田井:しばしば言葉にしているように、当社の経営上の特徴は「愚直な改善の積み重ね」にあると思っています。ですから、講演では、そうした活動の流れをかいつまんでお話ししたいと考えています。その中で参考になると思われた部分を活用していただければよいと思います。
直接的な経営手法とはいえませんが、退職する時「オティックスに入っていてよかった」と言われる会社にしたいという思いは常に頭の中にあります。当社には、いわゆる二世、三世の従業員が多い。それは、取りも直さず、自分の子どもを入れたいと思っていただけたことの証しでもあります。
ですから、今後も「自分の子どもを入れたいかどうか」が指標となるような経営に力を注いでいきたいと思っています。