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クオリティフォーラム2025 登壇者インタビュー

AEIを用いた製造業の生産性向上

~AIと品質経営の融合がもたらす新たな可能性~

㈱pluszero
代表取締役 会長兼CEO
小代 義行 氏に聞く

聞き手:赤穂 啓子(フリージャーナリスト)
小代 義行 氏
小代 義行 氏
㈱pluszero
代表取締役 会長兼CEO
東京大学工学部を卒業後、NTTDATA、Microsoftなどの日米のITトップ企業と企業再生ファンド、Venture Capitalなどを展開するINSPiREでの業務を経験。自ら起業したユニークでは17年間に亘り、IT、AI、遺伝子医療、次世代教育、システムトレードなど、先端技術を活かした事業立上に従事。次世代リーダー養成をライフワークとし、これまで30人以上の社長を輩出。2020年6月にプラスゼロの代表取締役に就任。

1. 起業の背景と動機

――起業に至ったきっかけや、pluszero設立に込めた思いを教えてください。
小代氏:もともと小さい頃はサッカー選手になりたいとか、世界一のエンジニアになりたいとか、ありがちな目標を立てていましたが、ある程度時間が経つと、自分の目標を見失ってしまいました。ITの会社はITだけ、マーケティングの会社はマーケティングだけというように、専門性を崇拝してその枠組みの中だけで物事を解決しようとする姿勢に疑問を感じ、自分が本当にやりたいことは何かを悩みながら考え続けました。人生は一度きり。死ぬときに笑える人生にしたい。そう思って、自分の生き方を見直し、目標を再設定しました。

「日本の一人あたりGDPを世界トップにする」——これを最終目標に据えました。
そのためには締め切りが必要だと考え、60歳にそうなるという目標を置き、50歳までに1兆円企業をつくる、40歳で他社から経営の依頼が来る、35歳までに起業する、27歳までに世界一の企業で専門性を磨く、という中間目標を設定しました。自分の得意分野として「知的な競争」や「フェアプレー」が好きで、競争して世界を目指すというのはサッカーの影響も大きかったですね。価値を出していくことが目標になりました。そして31歳で実際に起業しました。

2003年に起業してからは、「次世代リーダーを100人育てる」という目標を掲げ、2年目には経営者育成の「志塾」を立ち上げて若者の育成を始めました。これまでに50人以上が育ち、その中の2人(pluszeroの森遼太代表取締役社長と永田基樹取締役副社長CIO)とは大学1~2年の頃から関わっています。二人がpluszeroを立ち上げ、そこに私も途中からジョインして、今も一緒にやっています。私はそれまで、ディープテック系企業など複数の起業を経験していましたが、彼らとは信頼関係が築ける、一緒にやって世界で戦うチームという思いで、腰を据えて事業を行っていくことにしました。

2. AEIの特徴と可能性

――AEIの特徴について教えてください。柔軟なAIは、従来のAIとどう違うのでしょうか?
小代氏:pluszeroが開発・推進する「AEI(Artificial Elastic Intelligence)」は、従来のAIとは一線を画す、柔軟性と信頼性を兼ね備えた次世代型の人工知能です。AEIは、単なるツールではなく、人間と協働しながらタスクを遂行する“仮想人材”としての役割を担うことを目指しています。

従来のAIは、ルールベースの「左脳的AI」か、機械学習による「右脳的AI」のいずれかに偏りがちでした。AEIはこの両者を統合し、状況やタスクに応じて最適なバランスで活用する「二重過程モデル」を採用しています。これにより、直感的な判断力と論理的な整合性を両立させることが可能となり、より人間に近い思考プロセスを実現しています。

このAEIを活用した代表的なサービスが「仮想人材派遣」です。これは、AIが人間のように言葉を理解し、ユーザーと対話しながら業務を遂行する仕組みで、次世代チャットボットや事務作業の自動化などに応用されています。AEIは、ユーザーのニーズを理解し、PDCAサイクルを自律的に回すことができるため、業務効率の飛躍的な向上が期待されています。
――多数の企業と連携してサービスを開発しています。その狙いは何でしょうか?
小代氏:多様な業界・企業と連携することで、AEIの汎用性と実用性を高め、現場のニーズに即したソリューションを提供することが狙いです。現場の知見を取り入れながら、より高精度で信頼性の高いAIを構築しています。
――AEIを導入した企業からの評価は? 顧客企業のニーズをどうやって反映させているのでしょうか?
小代氏:導入企業や導入準備中の企業からは、「業務の原理原則に基づいて、自社の本当の強みを見つめ直す良い機会になる」、「信頼性の高いAIの導入のイメージが具体的になった」といった評価をいただいています。顧客の声を定期的にヒアリングし、フィードバックをもとにモデルを改善しています。
――今後のAEI開発の方向性は?
小代氏:今後は、より多様な業務プロセスに対応できるよう、マルチモーダルな情報処理や、暗黙知の形式知化を進めていきます。また、品質保証やトレーサビリティの強化にも注力していきます。

また、AEIは日本語・英語をはじめとする多言語対応が可能であり、グローバルな展開も視野に入れています。さらに、AEIの技術は2021年に特許を取得しており、その独自性と先進性が認められています。

AEIの特徴の一つは、「意味の欠落を防ぐ」ことにあります。従来のAIでは、文脈の理解不足や誤解釈による誤動作が課題でしたが、AEIは意味理解を重視することで、より正確で信頼性の高いアウトプットを実現しています。これにより、製造業やコールセンター、IT運用など、正確性が求められる現場でも安心して導入できるAIとして注目されています。

今後、AEIは「人間のように考え、動くAI」として、さまざまな業界における業務の高度化と生産性向上に貢献していくことが期待されています。

3. AIと品質経営 ~AEIでモデル化~

――AEIを製造業の生産性向上にどう役立てますか?
小代氏:「品質」をどう定義するかによって話す内容は変わります。狭義では「モノのクオリティの良さ」、広義では「経営に関するあらゆるステークホルダーの要求にしっかり応えること」が品質です。

その流れの中で、製造業のパートナーであるアビストさんや部品供給のミスミさんなどと連携し、AIを用いて品質テストの自動化や、設計そのものの自動化を進めています。効率性と品質を両立しながら、安価に実現することを目指しています。

ここで重要なのは、AIはざっくり言えば「最適化手法」です。目的が明確になれば、最適化が可能になります。そのためには、「何が品質のポイントなのか」を明確にし、品質自体を可視化・言語化する必要があります。言語化できればできるほど、AIを活用して最適化が可能になります。つまり、「価値のモデル化」「価値の構造化」が重要であり、そこにAIが活きてきます。

たとえば、アビストさんとの取り組みでは、設計段階での品質チェックリストを活用しています。ミスミの場合、設計モデルを出す前に、部品ごとに本質的に従うべき原理原則があり、それに従って設計することで、価値や品質を担保しています。アビストさんの顧客の自動車メーカーに、パイロットプロジェクトを試験的に使っていただいています。そこでわかってきたのは、各社ごとに品質管理の方言があるということです。それを吸収して標準化していくことを目指しています。それぞれのメーカーで社内ではある程度標準化ができていますが、第三者的な視点からみれば、業界全体で標準化ができているとはいえないと思っています。もちろん全体的にすべてのものが一致することにはなりませんが、AIが支援しながら標準化を進めていければと考えています。
――暗黙知を数値化・言語化するには?
小代氏:現場ではすべてをルール化・形式知化できるわけではありません。しかし、現場の方がさまざまな場面で柔軟に対応できるならば、そこにはノウハウがあるということです。現在のAIは、動作やマルチモーダルな情報(映像・音声・テキストなど)から法則性を抽出できます。たとえ言語化できなくても、「こうした方が良い」という形式知を導き出すことが可能です。それを人間の成長と融合させることで、現状を超えることができるのです。さまざまな技術を使いながら、可能な限り言語化し、未来を形づくっていくことが重要です。
――品質保証における「標準化」「再現性」「トレーサビリティ」に対して、AEIはどのように貢献できるとお考えですか?
小代氏:大規模言語モデル(LLM)のようなAIは、何を入力すれば何が出力されるかを学習しています。これを品質保証に応用するには、2つのアプローチがあります。まず、1つ目は品質チェックリストの整備です。チェック済みの項目を組み合わせて製品を構成すれば、再テストの必要がなくなります。2つ目のアプローチは、テスト済みのものを組み合わせて用いてテストを不要にする考え方です。数学で言えば、証明済みの定理を使って新たな証明を構築するようなものです。

他に、品質保証において有効なことは、プロセスの限定と最適化です。できることを限定し、その範囲内で最適化すれば、品質保証の効率が上がります。汎用AIではなく、目的特化型のAIを組み合わせることで、業界ごとの品質向上が可能になります。標準化されたプロセスの中であれば、AIが関与しても同じインプットから同じアウトプットが得られ、再現性が担保されます。トレーサビリティについても、思考や会話の流れを言語化・構造化することで、どの処理で何が起きたかを追跡可能になります。

4. 組織変革と導入戦略

――AEI導入によって、業務プロセスや組織構造にどのような変化が起こると予測されますか?
小代氏:AEIの導入によって、劇的な変化が起こると考えています。たとえば、これまで人間が担っていた知的作業の一部を、無尽蔵に働くAIが代替できるようになります。これは、まさに新たな労働力が生まれたということです。pluszeroでは、ソフトウェアのコーディングを行うプログラマーが多く在籍していますが、一定レベル以下の業務は、もはやAIの方が圧倒的に効率的にこなせるようになっています。範囲を限定した中であれば、AIが担った方が良い業務は確実に存在します。

ただし、AI時代における差別化は「AI以外の分野」にあります。AIは人間の能力を増幅するツールであり、元々の人間の能力が高ければ高いほど、その効果は大きくなります。つまり、AIに飲み込まれないためには、人間側の「付加価値創出能力」が問われるのです。たとえば、飛行機のパイロットのように、離陸と着陸は人間が担い、巡航中は自動運転に任せる。全体を理解している人が最終的な責任を持つという構造が、今後の知的労働にも求められます。

AIとスーパープログラマーのコラボレーションこそが、最も生産性の高い形です。AI単体では品質保証は難しく、品質保証ができる人材が必要です。生成AIが普及する時代だからこそ、「品質保証」の重要性が増しています。

人間の学習力がこれまで以上に問われる時代になっており、自分自身を鍛えることが重要です。私自身、ChatGPTを使う際には、まず自分でアウトプットを出してから、AIの出力と比較するようにしています。そうすることで、自分の理解度や強み・弱みが明確になります。
――一般的に日本の企業はAIの活用に消極的と言われています。その要因はなぜでしょうか。また、今後AI活用を進めるためには、どんな動機付けが必要だと思われますか?
小代氏:日本企業がAI活用に消極的な理由は、主に「失敗を恐れる文化」にあると考えています。日本は「ドラえもん」や「鉄腕アトム」のような親しみやすいAIキャラクターを生み出した国であり、AIとの相性は本来良いはずです。しかし、失敗を許容しない文化が、導入の足かせになっているのです。AIも人間と同じようにミスをします。たとえば、自動運転は人間よりも事故率が低いというデータがありますが、それでも「ゼロリスク」でなければ受け入れられないという風潮があります。

私は、AIに対してもっと寛容になるべきだと考えています。多少の失敗があっても、全体として大きな価値を生むのであれば、導入すべきです。たとえば、10億円の損失が出ても、1000億円の価値を生むなら、それは十分に許容されるべきです。そのためには、AI導入における「評価軸」を明確にし、善悪の判断をAIに任せるのではなく、人間が責任を持って設計する必要があります。社会全体が「多様な価値観を尊重し合う」ことが、AI時代の前提になると考えています。

5. 人材育成とリーダーシップ

――AI時代の人材育成はどうなっていくとお考えですか?
小代氏:AIに飲み込まれないためには、知的能力を高め続ける意識が必要です。個人や組織がその意識を持ち、学び続けることが、これからの時代において重要になります。AIによって人間の生産性は飛躍的に向上します。そうなると、社会全体として「その生産性の向上によって得られた価値をどう分配するか」が大きなテーマになります。人々の生活はより快適になり、エンタメやレジャーなど、可処分時間を楽しむ方向にシフトしていくでしょう。

その中で、「ベーシックインカムでゆったり暮らす」のか、「知的武装をして社会に貢献する」のかは、個々人の選択になります。いずれにしても、社会全体がより暮らしやすくなる方向に進んでいくと考えています。
――これまで多数の社長を輩出されたとのことですが、次世代リーダーに必要な資質とは何だとお考えですか?
小代氏:これまでに50人以上の若者を育成してきました。以前は「コミュニケーション能力」や「問題発見・解決力」や「ITリテラシー」が重要だと考えていましたが、今はそれに加えて「改善力」と「高い理解力」が非常に重要だと感じています。特に、「高い理解力」と人に説明できる「コミュニケーション能力」は、AIと共生する時代において不可欠です。AIに指示を出すには、物事を高いレベルで理解し、言語化できる能力が求められるからです。

また、「ITリテラシー」だけでなく、「論文リテラシー」や「技術的な深さ」も重要です。たとえば、エネルギーや材料、少量生産などの分野では、学術論文の価値を理解し、それを経営戦略に活かせる力が必要です。他社の真似をするだけでは競争に勝てません。技術的にハイレベルな経営者を増やす必要があります。私たちは、これまで「究極の飛び級教育」を実践してきました。グローバルスタンダードよりも早く、軸を持って優位性のある育成プランを実行しています。

たとえば、現社長と副社長は大学1~2年の頃から関わっており、まだ若いながらも15年の経営経験を積んでいます。人格形成の面でも、ステークホルダーを意識しながら、会社のビジョンや新規事業に活かしています。私たちの会社では、「規制の低いこと」や「倫理的に疑問のあること」は一切やりません。社会性が高く、かつ収益性も高いことを両立することが大切であり、それを実現するには本当に知恵が必要です。私たちは、そうした難題に積極的に取り組み続けています。

6. クオリティフォーラムへの期待

――クオリティフォーラム2025に登壇されて、何を伝えたいとお考えでしょうか?
小代氏:私が伝えたいのは、「価値」や「品質」をモデル化し、それをみんなで共有しながら、良質なものづくりを実現していこうということです。AIは、良質な目標があれば、それに向かって最適化してくれる存在です。だからこそ、まずは良質な目標を設定することが重要です。そして、その目標に基づいて「価値」や「品質」を構造化・モデル化し、それを軸に日本発で世界全体を盛り上げていきたいと考えています。
――参加企業とどのような交流を期待していますか?
小代氏:参加企業の皆さまには、ぜひ率直な意見や課題をぶつけていただきたいと思っています。技術的な観点からの疑問や、現場で困っていること、実際に感じている課題など、どんなことでも構いません。本音で語り合うことで、「本当はこう思っている」という部分が見えてきます。そうした対話を通じて、より良い未来を共に創っていけることを期待しています。