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クオリティフォーラム2025 登壇者インタビュー

株式会社アリーナにおける競争力の源泉

~狭隣接高密度実装技術を実現する
オープンイノベーションと
できないとは言わない、組織文化の醸成と人財育成~

㈱アリーナ
代表取締役社長
高山 慎也 氏に聞く

聞き手:安隨 正巳(日本科学技術連盟 品質経営創造センター 部長)
高山 慎也 氏
高山 慎也 氏
㈱アリーナ 代表取締役社長

1965年福島県相馬市生まれ。相馬高校卒業後、千葉商科大学へ進学。
株式会社TOAへ入社。
その後、創業者である父の会社、株式会社アリーナへ入社。
2003年に代表取締役社長に就任。

同社は、高精密電子部品の製造・生産会社。車載部品や携帯電話の部品を中心に製造しており、主に無線LAN、Bluetoothなどを製造。電子部品を搭載する表面実装技術に注力し、世界最小部品を超狭隣接で搭載する技術を保有。また、産学連携により、半導体に匹敵する部品内蔵基板型インターポーザーの製造に成功し、製品化に向けて挑戦中。

1. 「社長の息子」と呼ばれるのが嫌で、継ぐ気はなかった

――まずは高山社長のご経歴についてお聞きします。大学で経営学を専攻されています。
高山:はい。大学では商経学部の経営学科に進学しましたが、会社を継ごうということは想像していませんでした。どちらかというと嫌だと思っていました(笑)。
ただ、単純に私の父がこの会社を創立したものですから、まあ、なんとなく子供心にその企業を無駄にはできないのだろうなという気持ちはありましたし、心のどこかに、経営という選択肢があって、大学の専攻もそこを単純に選んだのだろうなとは思っています。
――幼い頃から工場や現場に出入りして、自然とものづくりの空気を吸ってきた…というタイプではなかった?
高山:全然そんなことはありません(笑)。本当に小さな頃は、操業して町工場というか内職からスタートしていて、その頃の記憶はおぼろげながら覚えているのですが、物心ついたころには会社には近づきませんでした。「社長の息子」と呼ばれるのが嫌で、とにかくこの街から出たいと考えていました。
――大学卒業後は、一般企業に就職されたと伺っています。
高山:はい。新卒でTOAに入社し、OA機器やコンピューター関連製品の営業を担当しました。当時は、パーソナルコンピューターがスタートした頃で、NECのPC-9801や東芝のダイナブックといったパソコンが市場を賑わせていました。その頃にITの最先端に身を置けたことは非常に刺激的でした。
――その経験は、現在の経営にも活きていると感じられますか?
高山:当時の経験は活きていますね。営業としての経験もそうですが、東京で様々なお客様と接する中で得たビジネス感覚や技術への理解は、今の経営判断の基礎になっています。
――そして、社長に就任されたのは2003年ですね。
高山:そうです。父が病気で入院したことを機に、実家に戻る決意をしました。それまで自分から会社に関わることは避けてきましたが、あのときは「自分しかいない」と感じて戻りました。正直、父から「帰ってこい」と言われたわけではありません。ただ、自分しかいないという事実を突きつけられ、覚悟を決めました。

2. 真似できない技術を育んだ「オープンイノベーション」と「現場力」

――御社の技術の中核をなす「狭隣接高密度実装技術」についてお聞かせください。
高山:平たく言えば、いかに多くの機能を小さな電子基板に納めていくかという技術です。私たちは、この分野において世界一であると自負しています。現状では、『0201(=0.2mm☓0.1mm)』という極小サイズの部品を50μ(ミクロン)の間隔で正確に並べていくことが私たちにはできます。
――その技術を獲得するまでの道のりがあったと推察します。
高山:はい。これは長年の積み重ねの結果として体得した技術ですが、アルプスアルパインさんに助けていただいたというところが大きいですね。アルプスアルパインさんの相馬工場(高周波事業部)が1960年代に完成し(当時社名:アルプス電気)、当社も取引を開始しました。電子部品の組み立てやはんだ付けといった業務からスタートしたのですが、アルプスアルパインさんからお願いを聞いてそれを実現していったら、いつの間にか難しいことをやっていたというのが本音なのです。

例えば、電子基板を小さくしたいと言われた時に、アルプスアルパインさんから設計図面が渡されます。もっと小さくするために、じゃあその部品も小さくしましょう。狭く置くところも、もっともっと狭くしていきましょう、としてきて、苦労しながらなんとか実現していきました。
本当に大変でしたが(笑)。
――アルプスアルパインと貴社との協業の中で実現できたのですね。
高山:そうなのですが、私の恩師である高山金次郎さんの力なくしてはあり得ませんでした。
高山金次郎さんはソニーのエンジニアなのですが、講演のためにアルプス電気を訪れた際、講演後の懇親会で生意気を言ってしまったのです。「いろいろとあなたはおっしゃるけど、現場はもっと大変なんですよ」と。それで、私はすっかり目をつけられてしまいました(笑)。「それでは、お前のところの現場を見せてみろ」と言われ、その自身の言葉に忠実に、何度も我が社に3年間足を運び続けいろいろと指導してくださったのです。
――高山金次郎さんはソニーでも伝説のエンジニアと言われている方です。
高山:高山金次郎さんは、「そんなこと簡単にできるよ」という話をされて、設備メーカーさん、部品メーカーさん、材料メーカー、いろんなところが一緒にオープンイノベーションでビジネスをやっていくことになり、それが達成できた要因でもあると思います。全然違う分野の方々が一つの基板を作るために集まって、ああでもないこうでもないって自分たちの技術を結集した結果なのです。
最初は「こんなの無理だろう」と思うような要求でも、「とりあえずやってみよう」という姿勢で、皆で少しずつ工夫を重ねていく中で、徐々に難易度の高い製品にも対応できるようになり、気づけば誰にも真似できないような技術が社内に蓄積されていました。社内でも「気づいたらできていた」という言い方をよくします(笑)。
――他社には真似できない。その違いはどこにあるとお考えですか?
高山:やはり、「人」ですね。機械や設備だけでは再現できない領域に踏み込んでいるからこそ、そこに携わる社員一人ひとりの感覚や技術が大きくものを言います。「できないとは言わない」という企業文化があって、誰もが「やってみよう」という姿勢で挑戦してくれる。この文化が、最終的にはお客様の高い要求にも応えられる組織の強さになっていると思っています。
――実際、海外で同様の装置や材料を使っても、なかなか再現できないという話も伺いました。
高山:そうなんです。同じ装置と材料を使っても、なかなかうまくいかない。日本国内でも、同じ結果を出すのが難しい場合があります。それだけ、この技術は単なるレシピや設備ではなく、人間の力が集まって、すべての技術が集まってそのトップスペックができると思っています。

3. 「できないとは言わない」文化が技術力を育てる

――「できないとは言わない」という企業文化は、どのようにして根づいてきたのでしょうか。
高山:社員に対してはいつも、「できないとは言わない。まずやってみよう!」と言い続けています。
――それは素晴らしいことですね。
高山:実際には、「できないわけにいかない」のです(笑)。できませんとは言えないっていうだけの話なのです。ただ、それを社員が難しいことをやり、それを達成すると、私も社員も喜ぶのですよね。「できた!」と。
――そうした積み重ねが人材の成長を促進し、貴社の競争力となっている気がします。
高山:確かにそうした部分はあるのかもしれません。達成できたことを私が整理し、これは世界でも誰もやったことがないし、「この先10年間は誰もできないでしょう」という情報のもとに、自分たちのプライドとして出てくるんですよね。それを何度も何度も繰り返していって、他社で断られたのだけどできますか?といった、そういう大好物な話をいただき、一つひとつ乗り越えて達成していくのです。お客様も「これができたのだったら、今度はこれできるよね」と持ってきてくれるんです。それにより、我々の技術が蓄積され、技術開発ができてきたのかなと思います。
――社員の皆さんも、やりがいを感じられているのではないでしょうか。
高山:そうですね。私が「これはさすがに無理だろう」っていうことも。実際にやってしまったりしますので、達成感ややりがいと言ったものも感じているのだと思います。航空機や医療機器、自動車など、社会インフラに関わる部品も多く、責任も大きいですが、それがモチベーションになっている側面もあると思います。
――とはいえ、すべてがうまくいくわけではないと思います。失敗との向き合い方についても伺いたいです。
高山:もちろん、すべてがうまくいくはずがありません。社内では、社員から「失敗しました」という報告は聞くことがないのですよ。実際は、失敗しているのですが、失敗したという報告しないのですよ(笑)。途中で話を聞くと、「まだできません」と言います。それは失敗なのですけどね(笑)。ただ、試行錯誤しているということで失敗しているのは過程の話で、成功させるためにその失敗をしているわけですから。
――社長がおっしゃる「筋のいい失敗」ということでしょうか。
高山:「筋のいい失敗」は、実は先代の社長の言葉なのです。私はその言葉をよく使いますけど、やはりチャレンジした失敗のことを言っています。単純には。チャレンジしないで失敗するよりも、チャレンジして失敗する。こうやってみた、ああやってみたという試行錯誤は、最近航空宇宙分野を手掛けているので身にしみて感じます。航空宇宙分野では何度も失敗するのは織り込み済みなんですよね、例えば、そのロケットを打ち上げるために3回失敗することもあります。しかし、4回目に成功させますよっていうのがあって、その“織り込み済みの失敗”というのは、考え方として面白く、我々に近いところがあるなと思います。こうなったらこうなるだろうなっていう最悪のところは持っていて、それは想定内であって、失敗という名前、言ってしまえば失敗なのかもしれませんけど、想定内の失敗ですから、じゃあここにその目的を達成するための過程という考え方をすれば、失敗にはならないと考えています。
――挑戦を促す組織風土と、それを支える信頼関係があるのですね。
高山:ええ。失敗を責めるのではなく、プロセスを評価することが大切だと考えています。だからこそ、みんなが前向きにチャレンジできるのだと思います。

4. 技術営業の力が組織を一体化する

――営業活動のスタイルもユニークだと伺っています。技術者が営業も担っているとか。
高山:そうなんです。私たちは「技術営業部」という部門を設けていて、現場のエンジニアがそのままお客様対応にあたります。お客様の要望を技術者が直接ヒアリングし、そのまま試作や工程設計、製造まで一貫して対応する。これにより、情報の伝達ロスが減り、スピードも精度も向上します。
――中小企業ならではの柔軟な体制とも言えますね。
高山:おっしゃる通りです。組織の壁がないので、営業と技術、製造が一体となって動けます。これは私たちの強みの一つであり、お客様からも「とにかくレスポンスが早い」、「現場をわかっている人と話ができる」と高く評価をいただいています。
――お客様との信頼関係も深まりそうですね。
高山:そうですね。技術営業を通じて、「この人に任せれば大丈夫」と思っていただけることが多いです。結果的に、お客様と一緒に製品をつくりあげていく、いわゆる共創の関係が築かれていきます。

5. 地域を巻き込むアメーバ型の産業創出モデル

――近年では航空宇宙領域への進出や、地域連携でもリーダーシップを発揮されています。
高山:簡単に経緯を説明しますと、2011年の東日本大震災および原子力災害によって失われた浜通り地域等の産業回復のために、新たな産業基盤の構築を目指す国家プロジェクトとして「福島イノベーション・コースト構想」が立ち上がりました。6つの重点分野を位置づけ、福島ロボットテストフィールド等の拠点整備を含めた主要プロジェクトの一つに航空宇宙分野があります。
――甚大な被害を受けた福島県だからこそ得られる知見を生かし、国・県・地元自治体や関係機関と連携して、イノベーションを発信するプロジェクトと聞いています。
高山:補助金を投入して土地整備を実施し建物を建てました。様々な研究者、新規スタートアップ企業、県のスタッフも来て、マッチング会を年に何回実施したのですが、当初はそれで満足してしまっていました。我々地元の中小企業は何をしたのかというと、今から何が始まるんだろう、とずっと見ていました。
見ていたのですが、まあ、見ていても仕事にならないですよね。ただ、どこに手を挙げていいかもわからないし、彼らが何をしているのかもわからない。その状況は良くないなということで、誰かが手を上げなければいけないんだろうと思い私が手を挙げました。
高山:もともと南相馬市に「ロボット産業協議会」という組織があり、たまたま私がその傘下の「南相馬航空宇宙産業研究会」の会長を務めていたのですが、なかなかうまく回らないのでやめようと思っていたタイミングで、今申し上げた状況になったものですから、「あなた会長でしょ」ということになって現在も会長です。
――生まれ変わった「南相馬航空宇宙産業研究会」の活動は、現在本格化しているようですね。
高山:二人乗りの「空飛ぶクルマ」を開発するテトラ・アビエーションが、福島県に地元も企業を紹介して欲しいと連絡し、当社が紹介を受けました。同社の中井社長と話をしたところ私もとてもワクワクしましてビジネスをスタートしました。
――それが第一歩だったのですね。
高山:テトラ・アビエーションから部品をいただいて当社が電子基板を作ってお納めしました。
そうしたら中井社長が「あの、これだけ納めてもらっても困ります…」と。「何が困るのですか?」と聞いたら、彼らはサプライチェーンを何も持っておらず、基板だけでなく、基板を載せるアルミ台座、ねじ、プラスチックなど全てワンセットになった羽一枚が欲しかったのです。
――しかし、一社だけではなかなか難しい…。
高山:そうなのです。その時は、「我々は基板屋なので台座はできません」とお断りしたのですが、研究会の仲間に「もしかしてこの図面作れる?」と聞いたら「簡単だよ。なんでうちに回さないんだ」と言われました。ここから私は一切断ることはしなくなり、協議会メンバー全員に聞くようにしました。
――それでも、対応しきれないこともあるのでしょうか。
高山:ありますね。その場合は、上位団体の「ロボット協議会」のメンバーに聞きます。福島県にまで拡げるのです。県にできなかったら、今までできなかったことはないですが、東北に拡げる、東北でできなければ全国に拡げる、というスタイルを作っています。

そうなると、「テトラ・アビエーションと南相馬航空宇宙産業研究会は面白いことやっているよ」、「会長の高山は断らないらしいよ」という評判になり、お仕事も多くいただいて、それを全部みんなで拡げてきています。
――一味違うバリューチェーンが構築できた、という感じがします。
高山:京セラ・稲盛さんのやり方を真似させていただき、私は「アメーバ型」って言っているのですが、一社だけでなくアメーバ型のネットワーク体制で複数の会社が関わっていって、でも最終的にはそのお客様が必要としているものを作りましょう。目的はそのお客様が今困っていて、今欲しいものを作るということであって、どの会社が何を受けても構わない。
――売上も拡大していると伺いました。
高山:2023年度は、航空宇宙関連の売上が51件で8500万円約、2024年度は77件で2億円に達しました。もちろん、まだ始まったばかりの分野ですが、来年は5億円規模の事業に育てていきたいと考えています。単なる下請けではなく、技術的にもマネジメント的にも価値を出せるポジションを確立していきたいです。
――驚くほどの右肩上がりの拡大です。
高山:なぜこのように数字を発表しているかというと、もちろん補助金を出している皆さんに成果を見ていただきたいということはあるのですが、「福島イノベーション・コースト構想」を推進している中で、この浜通り地域での航空宇宙ビジネスはお金になるビジネスですよ、ということを発信したいんですよ。

6. 中小企業だからこそ、面白いことをしよう

――最後に、中小・中堅企業の皆さんに向けてメッセージをお願いします。
高山:会社ですから、利益を出さなければならないことは経営者として本業です。それに加え、「面白いか、面白くないか」を入れてほしいと常に話しています。でも、それ以上に「それをやってワクワクするか」「未来を感じられるか」が大切だと考えています。そのワクワクは今ビジネスにならなくても、こんな形でビジネスにして利益に最終的に持っていこうよ、という筋道が考えられれば、新規事業への恐怖はなくなると思うのです。もっと面白いことをしましょうよっていうのは中小企業の皆さんにもお話したいですね。
――中小企業だからこそできることがある、と。
高山:まさにそうです。中小企業ならではのスピード感や柔軟性があります。誰かが「やりたい」と言い出せば、すぐに動ける。
我々は目的を達成するのに、例えば「この技術を完成させる。この難しい基板を作る」というためには、ルールを逸脱してよいとは言いませんが、そのルールを工夫してまでものを作るということができるのです。たぶん、たくさんの中小企業の皆さんってそういう環境だと思うのです。
だから目的達成のためには、「社長ここまでこの条件こうやってもいいですか」とか、「これはどうですか」というのを、そのルールに対して相談を受けて臨機応変にできるようにしています。ルールを守るのが目的じゃなくて、その製品を作るっていうのが目的であって、目的を見失わないことはよく社員に話していることです。
――貴重なお話をありがとうございました。フォーラムでの講演が本当に楽しみです。