第108回品質管理シンポジウム ルポルタージュ

産業競争力のさらなる向上を狙った品質経営活動の強化
~IoT時代における企業価値の最大化に向けたホワイトカラーの生産性向上のあり方~
ホワイトカラーの生産性について熱い議論が展開される!
第108回品質管理シンポジウム(以下108 QCS)は、大礒プリンスホテルにて 2019年5月30日(木)~6月1日(土)の日程で行われ、今回は121社230名を超える参加者のもと盛大に開催された。

特別講演1

1日目は、「麻生飯塚病院におけるTQMの挑戦~ESを起点とした明るい病院改革~」と題して、㈱麻生 代表取締役会長の麻生泰氏の講演からはじまった。
麻生飯塚病院はTQM活動を通して、基本姿勢として「日本一のまごころ病院」を目指している病院である。
本講演では、同病院のTQM活動の事例を2つ詳細にご紹介いただいた。日本の病院には多くの改善の伸びしろがあると考えている麻生氏は、同病院のような改善活動が日本の病院に早急に浸透し、多くの患者やスタッフの満足度が向上されることを望んでいると述べられた。また経営者として大切なことはとの参加者からの問いに対し、麻生氏は次のように述べられた。「自分や会社としての想いをカタチする、すなわち想いを実際に描き、印刷し、そして現場に配付することが大切である」と述べられ、スタッフらと思いを共有し、全員参加で同じ方向に進んでいくことが大切であることが大変印象に残った。また改善活動によってスタッフにも変化が見られ、ヒヤリハットやニアミスを多く出すようになり、リスクを減らすために自分に何ができるのか、病院内で考える文化が醸成されたと述べられた。
最後に麻生氏は2つの挑戦課題として、改善文化で日本の病院管理レベルを高め、生産性向上を図るとともに、地元医師と連携を強化し、包括医療ネットワーク構築することで地方創生を実現させたいと強く述べられた。

講演1

2日目は講演1から始まり、「仕事全体を見える化し、分析し、改善する~ホワイトカラーの業務改善「K30活動の取り組み~」と題して、安川電機代表取締役会長、108QCS主担当組織委員の津田純嗣氏が登壇された。
本シンポジウムの主テーマであるホワイトカラーの生産性向上のあり方にについて、安川電機で取り組んでいる業務効率30%アップを目指す「K30活動」を中心に紹介いただいた。
同社は1984年にデミング賞実施賞(現デミング賞)受賞企業であるが、2001年以降ホワイトカラーの改善活動が10年以上にわたって停滞していたため、2012年に全員参加によるK30活動を始め、品質経営活動の強化に取り組んでいった。
K30活動の両輪であるボトムアップ活動とトップダウン活動それぞれを丁寧に紹介いただいた。ボトムアップ活動では、改善の3ステップについて紹介され、業務の棚卸から日報による測定を行い、業務を見える化し、さらに業務の細分化と再測定を行うことで、低付加価値業務から高付加価値を業務へのシフトを実現させた。また、間接費あたりの付加価値推移を示され、参加者の関心を呼んでいた。
一方、トップダウン活動では、デジタル経営の実現に向けたリアルタイムやグループ一体による経営管理の仕組み、そしてグローバルデータベース構築について説明があった。
最後に同社の人材育成の仕組みとして、個人能力と組織能力の向上を図るためのスキルマップをご紹介いただき、講演を締めくくった。

基調講演

基調講演は「自工程完結によるホワイトカラー業務の質向上~より高度な業務へのチャレンジを可能に~」と題した、日科技連理事長でトヨタ自動車 元副社長の佐々木眞一氏による講演だった。
本講演では、自工程完結が生まれた背景からオフィスワークにおける自工程完結の5つのステップについて、各ステップで困難な点、うまく進めるポイントの説明もあった。
近年、お客様の期待や要望は複雑化し、良品の定義は刻々と変化してきており、さらにお客様の価値は変化しており、それらに対応するためには本当の困りごとは何か、お客様の立場で一人ひとりが考え、絶え間なく改善できる人づくりや仕組みづくりが必要であること、そのツールの1つとして自工程完結が有効であること、、目的・目標達成のために最適なプロセスを設計し、プロセス完了時の判断基準、プロセスの細分化などを行い、ムダを排除していく必要があることなど多くの示唆に富む解説があった。
最後にトヨタのDNAである“品質を工程で造りこむ”の実現ために、ひとり一人が主役となり、“現地現物”で愚直に地道に徹底的に改善を続けることが必要で、それにより自分の仕事に誇りをもって喜びを感じることが最も大切であると強く述べられた。

講演2

講演2は「産業競争力のさらなる向上を目指したTQMの強化~グローバル企業経営におけるTQMの役割と活用~」と題した、中央大学教授の中條武志氏による講演だった。
事業環境の変化に伴い、多くの企業では様々な経営課題を抱えており、その経営課題を克服するためにもTQMは最良の手段だと中條氏は明言された。グローバル化が進んだ昨今、企業経営におけるTQMの役割は重要であり、グローバル企業経営におけるTQMの役割と活用、開発・営業・スタッフの小集団改善活動を中心に説明がなされた。
グローバル企業経営におけるTQMの役割と活用については、デミング賞受賞企業におけるTQMの実践例をもとにこれまでの受賞企業の取り組みの7つの特徴を詳細に述べられた。
また開発・営業・スタッフの小集団改善活動を実践するために必要なテーマ選定や推進方法については体系的にご説明いただいた。
最後にまとめとして、組織を取り巻く経営環境の変化に応じて、経営目標・戦略を明確にし、組織を変えていくことが必要で、変化に対応できる組織能力を獲得するためにもTQMを活用してもらいたい、その上で過去のデミング賞受賞企業の事例が参考になると述べられた。

特別講演2

特別講演2では「夢みる力が「気」をつくる」と題して、九州旅客鉄道㈱代表取締役会長執行役員の唐池恒二氏にご講演いただいた。
本講演では、逆境と夢は人と組織を強くするという信念のもと、JR九州が夢を描いて成長と進化を遂げてきた物語を説明された。
JR九州は、①九州新幹線、②ななつ星、③株式上場という3つの大きな夢を掲げた唐池氏が2009年に社長就任後にまず行ったことは、ななつ星のイメージDVDを上映し、、世界一寝台列車をつくりたいという夢を部課長の前で語ったことで、これは世界一を目指すにはそれに見合う品質が不可欠とも強調したそうである。
周囲に反対されながらも信念を貫き、ななつ星を完成させた当時の様子を、ユーモアを交えながら語る一方で、職人がつくる洗面蜂の技術伝承、応募してきたクルーの想い、地域重門との一体感など、多くの感動を呼んでいました。
さらに、唐池氏は「ななつ星には「気」がつまっている」とも述べられ、「気のエネルギーは感動のエネルギーに変化する。それが価値創造つながっている。」と心に響く説明をされた後、気を高める以下の5つの法則も紹介された。
  • ① 夢みる力
  • ② スピードあるきびきびした動き
  • ③ 明るく元気な声(挨拶や会話)
  • ④ スキをみせない緊張感
  • ⑤ よくなろう、よくしようという貪欲さ
これら5つを個人や組織で醸成された結果、顧客に感動を与えられる商品・サービスの提供が実現できるのだと感じた。
最後に九州新幹線開業前日に起こった東日本大震災被災者に対する想いとJR九州として対応について当時を振り返りながら、経営トップとしての判断、意思決定に至るまでプロセスを語られ、再度参加者を感動の渦に巻き込んでいた。

講演3

講演3では「組織の経営基盤を確立する人材改革~最適品質を創出する人づくり~」と題し、清水建設㈱代表取締役会長の宮本洋一氏にご講演いただいた。
本講演では、建設業を取り巻く環境と現状を踏まえ、建設業就業者数の減少傾向が進み、さらには高齢化が進む中で、いかに建設業の担い手を確保するか、その手段として同社のICTを活用したi-Constructionを紹介いただいた。
同社がかかげる「シミズマインドー私たちの約束―」は先人たちから受け継がれてきた精神や考え方など20テーマあり、その内容は参加者にとって考えさせられるものであり、多くの方がメモをとる姿が多くみられた。
最後に、同社の課題としてグローバル人材育成のための取り組みを紹介し、講演を締めくくった。

総合討論

総合討論では,各班からの発表後、フロアを交えての多くの討論が行われた。フロアからも多くの質問が出され、活気あふれた総合討論となった。
本シンポジウムの主担当組織委員である津田氏によるまとめは、こちらをご覧ください。
(まとめ 日本科学技術連盟 広報・国際グループ 鈴木 真)