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日刊工業新聞連載記事

顧客価値創造と現場力(7)3C分析の出発点

この記事は日刊工業新聞社の転載許諾を受けています。

顧客の未来考え抜き自社の能力提供

これまでに取り上げた事例には興味深い共通項がある。一般的に外部適応というと、真っ先きに「対競合」を思い浮かべる企業が少なくない。しかし、本連載で取り上げた事例は、Customer(顧客)、Competitor(競合)、Company(自社)の三つの観点から、事業を検討する3Cのうち、Customer(顧客)が最優先されており、精緻な競合分析では、今のニーズだけでなく、長期的展望に立って未来のニーズに目が向けられている。

『マーケティング近視眼』と題した論文で世界を驚かせたセオドア・レビットは「事業を製品で定義してはならない。価値の観点から定義すべき」と説く。自動車メーカーが「自動車」という製品定義から「モビリティカンパニー」と自らの事業を再定義した例が該当する。先立つものは、長期的展望に立って顧客の何の実現にコミットするかという事業ドメインの価値定義である。

この定義に基づき、顧客の成長プロセスを定め、このプロセスを支える実現手段としてのハードとソフトを継続的に生み出す。こうした考え方が、これまでの単品販売ビジネスからの脱却と、複数の商材を組み合わせたソリューション提供型ビジネスへの移行をもたらす。

競合をまったく考慮しない戦略は現実的ではない。しかし、かつてのキャッチアップ型経営によって成功を収めた企業ほど「対競合差別化」が目的化される傾向がある。さらに、行き過ぎた競合分析は、競合と比較した自社の劣位を克服することに目が奪われてしまい、差別化どころか同質化を招く恐れすらある。これまで取り上げた事例は、「先立つものは顧客分析。徹底的に顧客の未来を考え抜き、自社の能力と提供する財を見極める。こうして打ち立てた仮説の妥当性を確かめるために競合を分析することが望ましい」ということを我々に示唆しているといえよう。

職業能力開発総合大学校 客員教授 加藤雄一郎