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日刊工業新聞連載記事

顧客価値創造と現場力(2)脱単品ビジネス

この記事は日刊工業新聞社の転載許諾を受けています。

「顧客の現場で何が起こるか」に着目

モノ志向が強い企業の場合、製品の機能がもたらす便益(モノ価値)を訴求したがる傾向がある。その一方で、モノそのものの価値ではなく、モノが顧客の手に渡った後に「顧客の現場で何が起きるか」という観点から、モノの使用を通じて得られる価値(コト価値)に着目して成功を収めた事例がある。パナソニックの家電事業が2008年に展開を始めた『Panasonic Beauty』だ。

サービス・ドミナント・ロジック(SDL)が登場して以降、「製品・サービスは、価値を実現するための手段である」という考え方が、マーケティング分野で共通認識になりつつある。「ながらビューティ(時間をうまく使って効率的に美容ケアしよう)」という価値テーマを掲げ、その実現手段としての美容家電製品を豊富にラインアップ化したPanasonic BeautyはSDLに基づく価値創造だ。

価値テーマに基づきカテゴリー(商品群)を形成する効果は大きい。単品勝負を続ける限り、必ずと言っていいほど競合他社が存在する。各社の技術力が拮抗(きっこう)している場合、銘柄間の品質格差が認識されづらく、価格競争に陥る危険性が高い。しかし、筆者の調査研究によれば、企業が提案する価値テーマに対して共感した顧客は、その企業が提供する商品を価値実現手段として受容するだけでなく、その企業が新たに編み出す実現手段の誕生を心待ちにする。つまり、魅力的な価値テーマで束ねられた商品は「価値実現手段の群」として受け入れられ、持続的な脱コモディティー化をもたらす可能性を秘めている。

「現代社会を生きる忙しい人々が美しくあり続けるために、自分たちはどのような要請に応えるべきか」という観点から、自らの事業の位置取りを定め、価値実現手段としての製品ラインアップの充実を図っているパナソニックの美容家電事業は、外部適応の象徴的な成功事例と言えよう。

職業能力開発総合大学校 客員教授 加藤雄一郎