開催レポート
第54回 信頼性・保全性・安全性シンポジウムが
盛大に開催されました!
2025年7月17日(木)~18日(金)の会期で「第54回信頼性・保全性・安全性シンポジウム」をオンライン形式で開催いたしました。
本シンポジウムは、本分野におけるビッグイベントとして各方面から注目を集めており、2日間でのべ1000名のご参加者のもと盛大に開催されました。
一般発表は22件と本シンポジウムに対する関心の高さを伺わせました。
今回のシンポジウムは『DXで実現する持続可能な未来』というテーマのもと実施いたしました。
1.基調講演
本シンポジウム組織委員会 田中健次委員長(電気通信大学 産学官連携センター 特任教授)より「設計と運用・保守部門とのコラボによるサステナビリティ実現へ」と題して基調講演が行われました。
サステナビリティの実現に向けて、設計と運用・保守の連携に着目。運用技術者と設計・開発者との情報共有、仕組みづくり、そして仕掛けづくりの必要性について、長年の研究成果を交えて講演されました。
特に、運用技術者が現場で感じた設計の妥当性や経験情報を、設計者にフィードバックする仕組みがなければ、設計改善は促進されないと指摘。そのためには、懸念事項を遠慮なく口にできるような仕掛けが不可欠であり、組織的安全文化の形成(心理的安全性の確保)と知見を広げる「水平展開力」の向上が重要であると提言されました。
心理的安全性の確保においては、事実を述べることで罰せられたり評価が下がるといった心的負担を取り除くことが重要となります。さらに、感謝や称賛を通じて前向きな組織文化を醸成することで多くの賛同が得られ、ノウハウの蓄積にもつながると述べられました。
また、水平展開力の向上には、物事を深く考える習慣を持つこと、そして他者の立場に立って経験することが有効であると提案されました。

信頼性・保全性・安全性シンポジウム組織委員会 委員長
2.特別講演
㈱デンソー先端技術研究所所長の伊藤みほ氏より、デンソー社の2035年に向けた先端技術開発について、ご講演をいただきました。
お話を伺って、これまでの同社の車載電装装備品メーカー(自動車業界のTier1)という存在から、視座を高く、半導体やソフトウェアを含めたモビリティ社会のTier1へと進化することと、加えて環境問題や先進安全などの社会課題を含めて、「向こう10年先までの社会課題解決」に向けた先端技術開発を行うという同社の戦略の幹を伺い知ることができました。
その意味では、研究所と言えば、用途はともかく、先端技術やシーズの創造に集中するものという既存の認識から、2035年の社会課題を認識しそこからバックキャストして、戦略に対し合目的的に、どのような先端技術の開発を選択し取り組むのかという、これからの時代の先端技術開発の在り方についても、感じるところがありました。
そして具体的な開発事例として、例えば、環境問題に貢献するCN(カーボンニュートラル)に関しては、CO2吸収・貯蔵・活用(CCUS)の技術として、既存の技術と比べて、小電力な電解式CCU技術の開発や高効率なメタン化技術など、既存の技術のデメリットを克服するところにフォーカスして、事業化に向けた死の谷・ダーウィンの海を乗り越えることもしっかり押さえておられると感じました。
個別の技術開発項目も大変興味深いものでしたが、それ以上に、企業の成長戦略として、近い将来の社会課題である安全や安心、DXによる少人化・効率化など様々な課題にフォーカスして、事業化を前提とした先端技術開発に挑むという先端技術開発のあり方について、様々な気付きを得られるご講演でした。

執行幹部 先端技術研究所長
3.企画セッション
最初に国立研究開発法人産業技術総合研究所先進パワーエレクトロニクス研究センター 上級主任研究員の先﨑 純寿 氏 に「SiCデバイスの社会実装に向けて」の題で講演をいただきました。産総研のパワーデバイス研究グループを率いている立場から、SiCデバイスの全体についての幅広い知見についてのご講演でした。SiCがSiと異なりどのような点が難しく、それらを如何にしてクリアしてきたのか、さらには残課題への解決支援のため、パワー半導体ウェハ品質検査技術開発とその国際標準化の取り組みに関する自らの活動を紹介いただきました。
「SiCデバイスのチャレンジとシステムのイノベーションの共創」をテーマに実施いたしました。本シンポジウム企画小委員会として、日本製のデバイス・材料から競争力のあるシステムの創造がAll Japanで可能かを考えるきっかけになればと考え、日本が未だ競争力を保有しているパワーデバイス特にSiCデバイスを主役に据え、SiCデバイスの研究者と SiCデバイスを使ったシステム開発者に登壇いただき,最後にパネルディスカッションを行い、部品・材料からシステムまでの共創力の発揮をテーマとすることといたしました。
本セッションに先駆け、チュートリアル講演において電気通信大名誉教授の木村忠正氏に、「SiCパワーデバイスの基礎と信頼性」の講演をプログラムしたことも、聴衆の理解度向上に寄与した様子でした。
最初に国立研究開発法人産業技術総合研究所先進パワーエレクトロニクス研究センター 上級主任研究員の先﨑 純寿 氏 に「SiCデバイスの社会実装に向けて」の題で講演をいただきました。講演の中では、SiCがSiと異なりどのような点が難しく、それらを如何にしてクリアしてきた、さらには残課題に対して解決支援のため、自らの活動として パワー半導体ウェハ品質検査技術開発とその国際標準化の取り組みについて紹介いただきました。
次に東海旅客鉄道株式会社総合技術本部 技術開発部 理事の佐藤 賢司 氏に「SiC素子を適用したN700S新幹線車両の駆動システムの開発」と題し新幹線の歴史から、詳細な構造までご紹介・ご講演をいただきました。時代が進むにつれて駆動系がいかに進歩していったかについて、パワーIC、モーター、給電システムなどの変遷を理解することができ、さらに信頼性を向上してきた歴史も紹介いただき、 新幹線がいかに総合力で進化してきたかについてわかりやすくご説明をいただきました。
パネル討論では、主に「性能」「サプライチェーンを含むコスト」「信頼性」について以下のような議論が交わされました。
- たとえ安くなってもサプライチェーンが不安定な国から調達することはリスクが高いので、基本的には国内メーカーに少しでもコスト改善をお願いしたい。
- 信頼性の課題はいくつかあるが、すべて解決するにはまだ少々時間がかかる。そのためデバイス側としても全力で進めているので、システム側にご理解をいただき引き続き使用をお願いする。
- 信頼性の実績は最終的にはシステム側に表れるので、具体的にどうすればよいかについてユーザー側の提案が欲しい。
など様々な意見が交わされ、システム開発者、材料デバイス研究者にモデレータも加わり実に風通しのよいディスカッションができたと実感しています。





~活気と熱気にあふれる企画セッション
「講演」「パネルディスカッション」~
4.チュートリアルセッション
講演1
島川邦幸氏のチュートリアル講演「初めて学ぶ信頼性―その要点と手法―」は、信頼性工学に初めて触れる参加者のために企画されたものでした。会場、及びオンラインでは多くの参加者が集まり、氏の語り口に熱心に耳を傾けました。
講演は、第二次大戦中に真空管の故障が航空機の稼働率を著しく下げた歴史的エピソードから始まり、工場で検査に合格した部品が現場で次々に壊れてしまった事実が「信頼性」という新しい概念を生んだことを紹介され、参加者が「品質と信頼性の違い」を直感的に理解できるよう工夫されていました。
信頼性とは「与えられた条件のもとで、一定期間壊れずに働き続ける能力」であり、顧客にとっては“あって当然の品質”である。ひとたび欠ければ不満や不信が広がり、企業の損失は甚大になる。島川氏はこの点を図解しながら説明し、信頼性が顧客満足と企業存続の土台であることを強調されていたのが印象的でした。
続いて紹介されたのは、具体的な設計の工夫です。部品数を減らす単純化設計、実績ある部品の採用、余裕を持った使用条件(ディレーティング)など、初心者にも理解しやすい事例が次々と示された。また、誤操作を防ぐポカヨケやフェールセーフ設計など、日常生活に近い例も交えて説明されました。
さらに、ワイブル解析などの統計的手法や、FMEA・FTAといった未然防止の仕組みも紹介され、数式よりも「なぜ必要か」「どう役立つか」に重点が置かれた初心者が抵抗なく学べる構成となっていました。
最後に氏は「信頼性を向上させるということは、信頼性の実績をきちんと把握し、信頼性目標との差異(問題)を発見してこれを解決するためにプロセスを改善する、というサイクルを回すことに他ならない」と語り、組織全体の協力が重要であることを強調されました。
講演で紹介された各種手法は、氏が講師を務める日科技連「信頼性セミナー基礎コース」で、学べるとのことですので、興味ある方はぜひ。

講演2
「SiCパワーデバイスの基礎と信頼性」と題し、木村 忠正 氏にご講演いただきました。本講演では、近年注目されるSiCパワーデバイスの基礎と信頼性について、開発の歴史からSiCの特徴である高耐圧、低損失、高温動作など従来のSiとの性能比較を豊富な図解を交え、お話し頂くことで、半導体業界以外の方々にもSiCが注目される背景や信頼性課題が理解できる講演でした。
特に電気自動車や再生可能エネルギーなど信頼性を必要とする分野での活用事例から信頼性課題へ続く講演の流れは聴講者の信頼性への関心を高め、続く具体的な信頼性課題の講演をよりひきつけるものにしていました。
講演では、SiCと関連性の高いPiNダイオードやショットキーバリアダイオード、MOSFETなどの基本構造も紹介され、構造理解を深めた上での信頼性課題である酸化膜経時破壊やバイアス温度不安定性への解説は半導体の専門家にも価値あるチュートリアルとなっていました。質疑ではスクリーニングやプロセス改良への取り組みに対する、より深い質問も行われ、初心者から専門家まで幅広い聴講者の満足を得ていました。

5.表彰式
第53回(2024年度)シンポジウムにおける、優秀報文(事例)賞、奨励報文(発表)賞の表彰式が行われました。
はじめに、報文小委員会の弓削哲史委員長(防衛大学校)より、表彰制度の目的と各賞の審査結果に関する報告がありました。続いて、組織委員会の田中健次委員長(電気通信大学)から賞状と記念品が授与されました。
今回は、残念ながら技術貢献賞、学術貢献賞の受賞者はおりませんでしたが、この表彰制度は報文の質的向上と発表技術の向上に寄与し、参加者の皆様が推薦投票を通じてシンポジウムに積極的に参加することを目指していますので、これからも素晴らしい内容の研究・事例の発表をお待ちしております。
受賞者からは、「幅広い業界の方からフィードバックを頂き成長につながった。今後も精進していく」「社内にノウハウとして留めていたことが発表を通じて、世の中の役に立つことが分かって嬉しい」「社外の方から評価を頂いたことは大変嬉しい。これを励みに研究開発に頑張りたい」「信頼性、保全性、安全性は非常に重要と考えている。今後も業界活性化につながるよう努力する」といった喜びの声が寄せられました。
受賞された皆様、心からお祝い申し上げます。

受賞の皆様 誠におめでとうございます。
6.研究報文・事例発表


【Session1】信頼性試験
本セッションでは、信頼性試験における事例報告が行われました。いずれも市場における要求品質を満たすための取り組みであり、信頼性試験の重要性を証明する有意義な時間となりました。
1つ目は計量抜取信頼性試験の有効性の報告でした。主流である計数抜取信頼性試験からの改善と共に、大きな試料数を準備せずとも、耐用年数を高精度に調査できる点は非常に興味深い内容でした。データに基づく品質保証は今後重要であると感じる内容でした。
2つ目はポゴピンの短寿命化事例紹介でした。独自開発した試験機の導入により高抵抗を検出し、断面解析よる腐食起因の導通不良を確認した点は非常に興味深い内容でした。FTAに基づく再現試験から未然防止策を導き出しており、非常にわかりやすい内容でした。
3つ目はHALT試験の事例紹介でした。加熱ヒーター線の断線不具合が材質変更を伴う碍子起因であることを特定した点は非常に興味深い内容でした。比較試験としてHALTを活用し、材質改善碍子の信頼性が証明できた点は今後の適用拡大に繋がると感じました。
【Session2】故障解析
本セッションでは、半導体デバイスおよび電子部品の解析手法に関する発表が行われました。いずれも先見性に富み、日常の解析業務にも応用可能な実践的内容であり、大変有意義なものでした。
最初の発表は、THz-TDR(Terahertz Time Domain Reflectometry)法を用いた高密度半導体パッケージの故障解析手法に関するものでした。テラヘルツ波の高い空間分解能を活用することで、故障部位の特定精度を向上させるとともに、良品波形と不良品波形の差分をプロットすることで、真の故障位置を明確に示す事例が紹介されました。この手法は、半導体解析分野において今後の展開が期待される有望な技術と感じられました。
続いての発表は、CAEとL18直交表を用いたMLCC(積層セラミックコンデンサ)の電歪による基板変形解析事例についてでした。MLCCに電圧を印加すると、セラミックスに電圧歪みが生じ、「鳴き」と呼ばれる現象が発生します。この鳴きの影響を評価するため、L18実験手法とCAEによる応力解析を組み合わせ、基板の変位量を指標として解析した事例が紹介されました。各因子の影響度が明確になり、実装設計へのフィードバックに有効な手法であると感じられました。
【Session3】異常検知と予測
本セッションの発表は異常検知・予測に対して新しい手法を開発・活用して、成果につなげたものでした。どれも今後の発展・水平展開につながる事例でした。
1件目はMT法を応用した手法の研究報告でした。環境の変化があると単位空間がまとまらないという現象がおこります。これに対し動的に単位空間を生成するということを行っています。モデルの劣化がおこるという課題がありましたが、将来の動作環境を予測することで、この劣化時期の予測を実現しています。予測精度の向上のために更なる貢献を期待いたします。
1件目は車載コンピュータのソフトウェア開発で、この検査に非常に時間がかかります。データの異常検知にニューラルネットワークを使っています。ニューラルネットワークには様々なものがあるため、4つの学習手法を比較し正常データと異常データのRMSE(二乗平均平方根誤差)を確認しMTAD-GATという手法の精度が良いことがわかりました。これを使って異常検知率91%、過検知率5%を実現できています。他の分野にも活用を期待します。
3件目はボルト締結の信頼性を題材に機械学習を取り扱っています。自社スキルで内製化することを推進してきました。予測と実績の結果も満足できる結果が得られています。また予測に影響している因子の明確化もできています。製品開発側とデータサイエンス側のコミュニケーションの重要性がよくわかった事例でした。
【Session4】リスクマネジメント
本セッションでは、リスクマネジメントをテーマに2件の事例報告が行われました。
1件目は、次世代冷媒プロパンの取り扱いについての発表で、冷媒プロバンは地球温暖化係数が低く冷媒性能が高い一方で、可燃性が高いため慎重な取り扱いが必要です。ライフステージ全体における着火リスクを分析し、複数のリスクの識別と対策が示されました。さらに、社会全体での安全対策の必要性を提唱し、関係者との連携を強調しています。この発表に対して、『プロパンは他の冷媒に比べて、どのような地域で優位性があるのか?』という質問があり、『地球温暖化係数の低さや冷媒性能の高さから、特に環境意識の高い地域や規制が厳しい市場で選ばれる可能性が高い』旨の回答でした。
2件目は、航空機の乱気流による負傷事故防止のためのリスクマネジメント手法についての発表でした。ボウタイ・モデルを活用し、乱気流発生から負傷に至るシナリオを分析し、対策を明確にしました。これにより、負傷防止のための「揺らさない」「揺れに備える」「怪我をさせない」等の対策を実施し、負傷発生便数の減少に繋がりました。気候変動による乱気流の増加が予想される中、課題への継続的な取り組みが重要となっています。この発表に対して、『乱気流発生予測に関して、航空業界全体での取り組みは?』という質問があり、『最新の気象予測方法の導入や、航空会社間での情報共有などは、業界を全体で行っている』旨の回答でした。
【Session5】信頼性評価手法の改善
このセッションでは、5-1「有限要素法解析と冷熱サイクル試験によるQFNはんだ接合部の耐熱疲労性改善」、5-2「腐食分極曲線の測定ばらつきの改善」の2件が報告されました。
5-1では、カスタムQFNデバイスの樹脂剥離に関してや冷熱サイクルの温度勾配等会場及びチャットによる質問が沢山あり、QFNパッケージの樹脂剥離及び樹脂変更に関する最適性の質問など活発な意見交換が行われました。終了後も多くの参加者が発表者と議論されていました。
5-2では、腐食データのばらつきよりも、測定用試料の作成にばらつきがあるのではとの意見が会場やチャットで沢山ありました。改善策に関しても、会場やチャット一体となった意見がでて、非常に良いディスカッションができました。
本セッション全体は、本シンポジウムらしい、報告側―聴講側一体となった多くのディスカッションにより、良好な関係ができたセッションでした。今後の改善結果も継続して報告頂けることを期待いたします。
【Session6】パワーデバイス
本セッションでは、パワーデバイスおよびSiC MOSFETにおける欠陥・劣化解析に関する先進的な発表が行われました。
6-1では,富士電機の馬場氏が、パワー半導体製造プロセスにおける欠陥密度分布の統計解析について報告されました。同氏は、工程内で取得されるQCデータを用いて欠陥密度およびパーティクル密度が対数正規分布に従う傾向を示し、これを工程管理に応用可能であることを示しました。質疑では「パーティクルの影響を負の二項分布で評価する方法が一般的ではないか」との問いに対し、ウェハ内の均一性に依存した分布形状に関する議論がありました。また、ゼロ欠陥が多く観測される場合の分析方法などの議論もありました。
続く6-2では、沖エンジニアリングの武井氏が、SiC MOSFETのAC-BTI(交流バイアス温度不安定性)評価に関する国際規格の差異とその影響について市販品を用いた実験結果を報告されました。質疑では、市販品に対するACストレス評価の必要性が強調され、従来規格が実態に即していない可能性について議論が及びました。特に、実機使用環境に近い条件での信頼性評価と,標準化の重要性が認識されました。
両発表は、現場データを基盤とした実務的アプローチにより、信頼性評価の高度化と管理手法の進化に寄与するものでした。
【Session7】標準化と安全性
本セッションでは、ものづくりの基盤を支える設備安全や、国際的な標準化についてご発表いただきました。
1件目の発表では、メーカーにお勤めのご経験から設備安全に対して強い思いをご説明いただきました。教育の徹底や体制が十分でない企業もある中、具体的な回路構築例を示しながら、実務的な設備安全教育や設計段階から設備安全を考慮する必要性について説明いただきました。
また、2件目の発表では、企業間で協力して国際的な標準の策定に繋げていく取り組みについてご説明いただき、競争力が激化しているこの時代にふさわしいご発表でした。また航空機の電動化という新分野における安全性や信頼性の評価方法について紹介いただきました。
【Session8】事故報告の活用
本セッションでは、収集された事故やインシデント情報をいかに活用するかという視点での研究報文と事例報告が行われました。
8-1の研究報文は、医療業界のインシデント情報データベースの利活用方法に関する研究報告でした。個別の病院でのインシデント情報活用にフォーカスし、院内のデータベースと業界全体のデータベースを対比して、類似性と有用性の観点から、対策の有効性や将来の同様事象の発生可能性を評価し、必要な未然防止に繋げるという着想の良さ、膨大なデータを効果的に類似性・有用性評価するためのシステム作りなど、実践的な利活用方法の開発であり、一般化して適用すれば様々な産業のインシデント情報の利活用にも含意のあるご研究、今後の発展の可能性を感じるご研究であったと思います。
8-2の事例報告では、船舶事故の公開データベースを活用して、機関関係の故障にフォーカスし、その「故障モード」と「故障の発生要因」それぞれの高頻度抽出ワードから、共起ネットワークを介して自動的に因果関係を結びつけることを可能にするご研究でした。
現時点では、「故障モード」と「その発生原因」を繋げるところまでは到達していない段階かと思いますが、それぞれに高頻度ワードや関連性は自動抽出できる段階まで来ており、これらの間の因果関係が結ばれれば、未然防止に向けた事故情報のメタ分析ツールとして有益なものになると思われます。
いずれのご研究も、事故やインシデント情報の収集や利活用に関する意識が向上し、多くの情報がデータとして集まってきた以降に直面する「利活用方法」の開発の嚆矢になる意欲的なご研究であり、同様の研究の加速を期待したいところです。
【Session9】異常検知システム
本セッションは異常検知システムを構築するためのプロセスに関する事例報告で、1件目は自動車の組み立てライン、2件目は工作機械を対象としておりました。運用しているシステムから異常と関係のあるデータを見出し、データを上手く分析することで新たな異常検知の方法や仕組みを提案し、これをシステムとして実装するという問題解決の大きな方向性や流れは同じでしたが、作業の進め方に違いがあった点が興味深いと感じました。
1件目のケースでは発表者自身が工場に常駐していた関係上、常に現場と意見交換しながら作業を進めるという方法だったため、言わば特定の工場にカスタマイズしたシステムの構築を目指していました。
これに対し、2件目のケースでは開発本部という工場の外から現場の声を聴きつつシステムの構築を進める形であり、当初から特定工場だけを意図して開発しているわけではない点が特徴と言えます。
ただし、1件目のケースも将来的には他の工場への展開(応用)を想定しているとのことでしたので、細かいプロセスに違いはありますが最終目標は同じと言えます。よって、この辺の相違と共通点を中心に聴講者からの質問や意見を上手く引き出すことができれば、発表者を含め参加者にとってより意義のあるセッションになったかもしれません。しかし、会話のキャッチボールが難しい環境だったため、この司会者の目標を達成できなかった点が今後の課題と感じました。
【Session10】未然防止と保全性評価
7.ネットワーキング
(発表者 × 司会者 × 組織委員交流会)
今年も1日目、2日目の講演終了後に行いました。両日とも各所で名刺交換や発表内容について話し合う姿が見られ、大いに盛り上がりました。

~ 交流・名刺交換が積極的に行われました ~
8.最後に
今年度のシンポジウムは「DXで実現する持続可能な未来」とのテーマのもと、2日間に渡り多様なセッションを開催しました。各講演を通じて、信頼性・保全性・安全性が多様化していることを実感し、これからの信頼性・保全性・安全性技術が果たすべき役割を再確認するとともに、デジタル技術活用の有効性を確認できたシンポジウムでした。ご参加いただいた皆様、ご講演・ご発表いただいた皆様、改めてお礼申し上げます。異業種の課題・問題点とその対策に関する発表を聞くことは皆様の業務遂行にも何らかのヒントを与えてくれるものと信じています。皆様にとって、本シンポジウムが有意義な場となっていましたら幸いです。
また、レポート執筆をご協力いただきましたセッション司会の皆様、ありがとうございました。

報告・まとめ:
弓削 哲史(防衛大学校)
RMSシンポジウム組織委員会副委員長
年度別アーカイブ・開催レポート
- 第53回(2024年) パンフレット レポート
- 第52回(2023年) パンフレット レポート
- 第51回(2022年) パンフレット レポート
- 第50回(2021年) パンフレット レポート
- 第49回(2019年) パンフレット レポート
- 第48回(2018年) パンフレット レポート
- 第47回(2017年) パンフレット レポート
- 第46回(2016年) パンフレット レポート
- 第45回(2015年) パンフレット レポート
- 第44回(2014年) パンフレット レポート
- 第43回(2013年) パンフレット レポート
- 第42回(2012年) パンフレット レポート
- 第41回(2011年) パンフレット レポート
- 第40回(2010年) パンフレット レポート
- 第39回(2009年) パンフレット レポート
- 第38回(2008年) パンフレット レポート