クオリティフォーラム 2021

インタビュー

「品質中計2022」の中で、
「攻め」と「守り」の品質を磨きながら、
「品質部門としての顧客価値創造への挑戦」を続けています!
~コニカミノルタの顧客価値創造と組織能力向上~

コニカミノルタ株式会社
上席執行役員 品質本部長 杉江 幸治氏に聞く

聞き手:安隨 正巳(日本科学技術連盟 品質経営創造センター 部長)
 ※記事まとめ 菅田未優(日本科学技術連盟 品質経営創造センター)
杉江 幸治 氏

杉江 幸治 氏

コニカミノルタ株式会社
上席執行役員 品質本部長

1987~ ミノルタカメラ㈱(現コニカミノルタ)入社 生産技術
2000~ 経営企画
2003~ コニカミノルタ統合
以降、経営企画/経営管理、新規事業開発などに従事
2017~ 執行役 産業印刷事業部長/プロフェッショナルプリント事業本部長
2020~ 執行役 品質本部長
(2021~ 上席執行役員 品質本部長)

1.自身のキャリアを形成した3つの部門と集大成としての品質本部

――まずは、杉江上席執行役員は、どのようなご経歴をお持ちでいらっしゃいますでしょうか。
杉江: 私は、生産技術からスタートし、次に経営企画、その後、事業部門、そして品質保証と、大きく分けると4つの部門を経験しました。
――その中で、ご自身の現在のキャリアを形成している「きっかけ」となった部署や仕事は何であるとお考えでしょうか?
杉江:「きっかけ」ということで言うと、3点あります。
まずは、「生産」です。もともと、モノづくりが好きで、精密機器の生産に憧れてミノルタに入社しました。その時に培った、「モノづくり品質」「品質第一」の考え方というのが根本にあります。

2点目の大きな転機が、経営企画部門で、狭い生産の世界から、一気に経営全体、会社のグランドデザイン等に、若いころから関わることが出来たことは幸運であったと考えています。

3点目は、事業の責任者となったことで、従来のマスプロ的なメーカーから、ソリューション企業に移る一つのきっかけを、現場体験できたことです。産業印刷とありますが、複合機のような大量生産・大量消費のものではなく、お客様にどのようにマッチさせるか。また、それも成熟したものではなく、新たな価値提案で、お客様もアーリーアダプト的な方も多く、市場・顧客とともに事業を創っていくことを現場で体験できたということがとても大きかったですね。
――モノづくりが好き、というお話でしたが、いきなり経営企画に異動されたときには、どうお感じになりましたか?
杉江:もちろん生産は好きで、ずっと生産でやっていきたい気持ちはありましたが、本社・経営企画でのチャレンジも大変魅力的でした。
そして、異動後、ミノルタとコニカの経営統合プロジェクトがスタートしました。このめぐり合わせで、両社の、社長や役員を含めたビックプロジェクトに、30代後半で直接関わることが出来たのは、正に貴重な経験でした。
――そして、現在は品質本部長の職に就かれています。 
杉江:はい。従来のメーカーの品質責任者は、開発・生産などの現場を長くしっかり見てきた(言わば狭義の)品質スペシャリストのイメージがありました。
ただ、これからの品質責任者として、先ほど申し上げた私の「生産・経営・事業」の3つのキャリアが活かせると考えています。これら3つの部門を経た集大成として品質本部に就き、「これからの品質経営」を考えていくことで、役立つと思っています。

2.コニカミノルタの品質経営

――杉江様がメンバーとしてご参画いただいている「品質経営懇話会」で貴社の取り組みをご説明いただきましたが、「品質中計」という言葉が使われていました。品質部門の中期経営計画があそこまでクリアに描かれている例は多くないと感じていますが、これはかつて経営企画部門などを担当されたご経験が関係しているのでしょうか?
杉江:私が品質部門担当となる前から、「品質中計」はあります。
今までも、当社全体の中期経営計画と、品質中計の内容には、関連性を持たせています。
ただ、今回の品質中計は、一つの転換点であると感じています。
従来は、品質問題や事故・不正を防ぐために、どういったオペレーションをするべきか、という点が主でありましたが、今回は、日科技連で言われている「これからの品質経営」と合致する考え方や、我々メーカーとしての提供価値・ビジネスモデルの転換と大きく沿ったような内容になっています。これからは、そういったところに力を入れていきたいと思っています。
――御社の中での品質経営の推進ということで、「品質中計2022」において、以下の3本柱を提示されていました。
  方針1. 顧客価値創造への挑戦
  方針2. 品質リスク低減
  方針3. 品質重視の風土醸成
「攻め」と「守り」の品質ということで、明確に書かれておりますが、その中でも、「品質部門としての顧客価値創造への挑戦」というのは、特筆すべきかと思いますので、この辺のお話をお聞かせいただけますでしょうか。
杉江:先程もお話しした通り、品質部門の方針が独自にある、ということではもちろんなく、会社としての思想・方針があって、我々品質部門の機能・役割があります。そこからの必要性・身に着けるべき組織能力として、これが1番目に上がりました。最も大きな変化・挑戦でもありますので、1番目にもってきています。
コニカミノルタの看板を背負った、製品・サービスの提供をする上で、モノそのものの品質ではなく、品質・価値をどういった基準で判断するかということに変わってきていると思います。
つまり、モノの出来栄えが品質ではなく、そこからどういった価値を提供するか、どういう顧客価値・社会的意義を生むか、それが当社の価値・信頼となります。
品質中計2022 方針
――そうなると、品質部門の役割も、従来とは大きく変わってくることになりますね。
杉江:はい。その通りです。従来のモノ評価基準のゲートキーパーとしての役割だけでなく、品質・価値をどういう基準で評価するか、そしてその価値をどういうプロセスで創り上げていくか、という役割も重要になってきます。
ですので、品質部門も、決められたスペックを守る、ことだけではなく、何が「顧客価値」なのか、それを何で評価するのか、ということを理解して“品質保証”しなくてはいけないと思います。
――なるほど。例えば品質部門がPP(プリント・プロフェッショナル)事業部の顧客価値創造をする、ということではなく、評価するためには顧客価値創造とはどういうことなのか、を理解していないといけない、という話ですね。
杉江:わかりやすく言うと、これまでの品質管理は、市場に出す前に、これを本当に市場に出していいのかを確かめるというものでした。
もちろん、今でもこれは重要ですが、それだけでなく、これからの品質管理は、提供後のお客様の“使用価値”を高めるためのもの(継続的な価値提供サービス)である必要があります。そのため、品質部門としても、ゲート管理のみではなく、いかにカスタマーサクセスを獲得できるかを意識する必要があり、そのために今、どういった基準で評価するか、を考え、事業部門と品質部門が一体となって実施しています。

3.コニカミノルタ流品質経営の普及に向けて

――いわば「コトづくりにおける品質保証」は、一筋縄ではいかない部分もあり、各社苦労しているところですが、貴社ではこれが確立できる手ごたえのようなものはありますか?
杉江:手ごたえはありますね。品質部門ですので、当然、許されないミスは多くあります。
しかし、今やっている顧客価値検証は、ある意味 試験的な意味合いがありますので、失敗を通じててあっても、検証の知見がどんどん溜まってきている段階です。
――先程、価値の評価のためのプロセスを創り上げていく、というお話をされていましたが、分かりやすく言うと、「コニカミノルタ版顧客価値創造」のようなものを作って、標準化するというイメージでしょうか?
杉江:そうですね。
ただ、業界の動きやベンチマークすべきものありますので、一から独自のものを作り上げるというのではなく、世の中あるものをしっかり学んだうえで、当社の要素を付け加えていくという形になると思います。新たな挑戦にはアンテナ高くすることも重要な要件です。

例えば、商品サービスの定着ということで言えば、実際に顧客に入り込んで、サービス提供後の顧客が良いと感じているところ、足りないと感じているところを、捉えるだとか、どういう要件定義やプロセス設計をすればいいのかを考えていきます。
普通の日系メーカーだと、日本の製品を各地で販売するのがメジャーだと思いますが、そうではなく、その地域に合わせてサービスを展開するので、「メーカー販社」ではなく、その地域の「事業会社」となっていくイメージです。
――それは、わかりやすい例えですね。
杉江:そうして作ったプロセスや要件を、グローバルに展開してガバナンスを利かせるというのが、重要な点となります。

これまで品質部門がやっていたのは、市場や顧客の品質情報(品質問題や事故・インシデント情報)を取ってくること、そしてこれまでの品質部門の価値基準は、メーカーの仕様書通りに作れているかを確認することでした。
しかし、これからは仕様書によって品質要件が決まるのではなく、市場でお客様にどのような価値を生み出しているかどうか、を品質の基準としてどのように価値に繋げていけばいいのかを、事業側や開発側に提案することが必要になってくると思います。
――そんな中で、社内の様々な事業部に、顧客価値創造やコトづくり、ソリューションといったような考え方を普及していかなければいけないと思いますが、会社全体の浸透度はいかがでしょうか?
杉江:品質部門側からの展開、というより、もともと全社方針として、にそういった考え方があります。
以前から「課題提起型デジタルカンパニー」としてその変革をリードする企業を目指していましたが、全社のビジネスモデルがその方向に向かっていて、それと、日科技連さんも「令和大磯宣言」で発信している「これからの品質経営」の考え方もかなり合っていると感じています。
ですので、品質部門から改めてそういった発信をしても、全社的に共有された内容であり腹落ちしやすいのだと思います。
――これまで培ってきた“土壌”が出来ている、という言い方もできるかもしれませんね。
杉江:はい。そう思います。社内でも、私からこういった内容を発信する場もありますが、その場限りの話ではなく、社内ですでにあった思想と重なる部分があるため、「品質部門がなんか言ってるな」ではなく、「もともとうちにはこういう考え方あるよね」と共感してもらえる雰囲気になります。
――QCサークルのテーマ選定等でも、そういったことを意識して進められているのでしょうか?
杉江:はい。それは言えると思います。
大きく変わってきたのは、
① 製造・技術・品証だけでなく、事務・販売・サービス部門のサークル数が増えてきた
② 個々の閉じられた活動ではなく、拠点間や組織・会社間で連携したプロセス改善活動の様子が見られてきた
という点です。

また、狭義のモノづくりのプロセス改善ではなく、サービスづくりのプロセス改善と、それにDX推進をどのように絡めていくかを意識しています。やはり、1つのサークルだけの活動では限界があり、閉じられた意見になってしまうので、こういった大会を利用して、連携力を高めていきたいと思っています。まさに社内における“共創”と言えるかもしれません。

4.日本の産業界の課題

――視点を変えて、産業界全体という目線で、お考えをお聞きしたいと思います。
 「顧客価値創造」や「ビジネスモデルの転換」という話になると、以下のような反応が出るケースが意外と多いのですが、杉江様からご覧になってどのようにお考えでしょうか。
(1)「守りの品質もできていないのに、攻めの品質どころではない。」
(2)「我が社は、親会社から図面を支給されており、売上の大半が親会社。顧客価値創造よりも、親会社についていき関係性を強固にする方が重要。」
杉江:(1)については、ある意味、その通りだと思います。攻めの品質は必要ですが、守りの品質を飛ばして、攻めの品質に取り組むのは間違っていると思います。
守りは、企業の信用・信頼の根幹にも関わります。やはり守りがしっかりしていないと、いざ構想を考えてみても、それを実現する力がないのです。

(2)について、やたらと顧客価値創造を訴えることが目的ではないと思っています。
社会・業界の潮流・変化をどう読んで、どう手を打つか、正に経営そのものだと思います。
その部品メーカーさんが、これから自分たちだけでなく、周りの社会環境などが変わっても、そのままで全く問題無くやっていけるということなら、それでいいのではないでしょうか。そういった企業に、無理矢理訴求し続ける必要はないと思っています。
今の延長線上で、今までの知識と能力をつかって、速度を上げていけば良いということなら、それに越したことは無いでしょう。ただ、そのような世界があるとも思えず、その景色が変わっていることに気づくことが出来ないと、取り残されていってしまいます。
――(1)については、守りの品質ができてから攻めの品質に行くべきだと?
杉江:いいえ、違います。先ほど、守りの品質の重要性を話しましたが、守りを完璧に固めてから攻めにいくということでもありません。特に攻めに関しては、一朝一夕にできるということではないので、どれだけ先を見て、仕込んでおくかが大事だと思います。

これだけ自社を取り巻く環境が目まぐるしく変わっている中で、(2)のことが本当にそうなのかは今一度考えるべきです。

5.コニカミノルタが10年後に目指す姿

――最後になりますが、コニカミノルタが10年後に目指す姿はどういったものでしょうか。
杉江:コニカミノルタでは、2030年ビジョンというのを掲げています。
その中で、2030年どうなっているかというと、マクロな世界のトレンドを捉えて、何をするかということを考えています。当社の社会的意義として、「人間中心の生きがいの追及」と「持続的な社会の実現」に寄与する企業を目指し、その実現のために、自分たちの力・DNAをどれだけ生かせるか、ということを考え、それぞれの事業戦略を立てています。そしてその中でしっかりとビジネスモデルを考えていくことが重要です。
コニカミノルタ流の価値創造プロセス
――貴重なお話、ありがとうございました。フォーラムでのご講演も楽しみにしています。