クオリティフォーラム2021

登壇者インタビュー

過重労働から“超”ホワイト企業へ!
~「残業ゼロ」「男性育休100%」を達成し、
幸せな「増収増益」を実現した取り組みとは?~

株式会社サカタ製作所
代表取締役社長 坂田 匠に聞く

聞き手:安隨 正巳(日本科学技術連盟 品質経営創造センター 部長)
※記事まとめ 菅田 未優(日本科学技術連盟 品質経営創造センター)
木内 正光 氏

坂田 匠 氏

株式会社サカタ製作所
代表取締役社長

1960年2月、新潟県生まれ。
日本大学工学部機械工学科卒業後、1983年に大道エンジニアリング入社。
1985年、サカタ製作所に入社。
常務取締役を経て1995年に社長就任。

1.社長になる前の経験と、現在活かされていること

――坂田社長は、やはり幼少期から、“将来は社長になる”ということをイメージされ、いわゆる「帝王学」のようなものを伝授されながら育ったのでしょうか?
坂田:もともと“親の会社を継ぐ”という感覚はあまり持っていませんでしたね。 ただ、大学は機械工学を専攻したことを考えると、もしかしたら潜在的な意識はあったのかもしれません。
――では、そのころは将来何を目指されていたのですか?
坂田:もともとは、ロボットエンジニアか、経営コンサルタントを目指していました。
ロボットエンジニアを目指した理由は、労働災害を減らしたい、という思いからです。もう少し言うと、当時、実家と会社の工場が隣接しており、幼少期から会社の状況を自然と目にしていたのですが、当社のような小企業でも、労働災害が多く発生していました。例えば、指の欠損事故などを目の当たりにしたのです。
労働災害を無くすためには、機械と人間の接点を、限りなく少なくすれば良いのではないか、という発想からロボットエンジニアに行き着いたのです。
経営コンサルタントについては、会社の在り方やマネジメントを変えることで、労働災害を減らせるのではないかと思ったためです。ただ、実際は機械工学科へのコンサルタントの求人は皆無でしたが(笑)
――お若いころから、将来の目標が明確だったのですね。
大学を卒業されて、すぐにサカタ製作所へ入社されたのですか?
坂田:いいえ、違います。しっかりと就職活動をしましたよ。私が所属していた大学の研究室は、教授が推薦する企業に就職するのが習わしでした。ただし推薦された企業に入社しない場合は、自身で探すという暗黙のルールがあり、私は推薦された企業で行きたいところがなかったため、自力で就職活動を行い、ありがたいことに応募した企業からは全て内定をいただくことができました。
――その中で選んだのは、どういったお会社だったのでしょうか?
坂田:最後に知り合いに紹介された、規模は一番小さい会社でした。
大きい会社だと、当然ながら役割分担が明確に分かれていていることが多いですよね。逆に小さい企業だと、大変ではありますが、トータルに色々な経験をさせてもらえると思い、その企業に決めました。
――その後、25歳で退職し、サカタ製作所へ入社されました。
坂田:父親から、そろそろ戻ってきてくれないか、という連絡があり、戻ることにしたのです。当時、社員も十数名しかいなかったこともあり、実は、「その頃既に実質経営を任されている状態」でしたので、悩むことはなかったですね。
思った通り、前職で多岐に渡る経験ができたことが、サカタで大いに活きました。
――そこから社長に就任されるまでには、どういったきっかけがあったのでしょうか?
坂田:社長になることを決めたのは自分自身なのですが、きっかけは単純でした。
当時帝国データバンクに「年男(としおとこ)社長ランキング」というものがあったのですが、そこに載りたい!という動機だけで社長になることを決めたのです(笑)

2.働き方改革への取り組み

――御社では、ほぼ一年という短期間に「残業ゼロ」を成し、その後「男性育休100%」が常態化し、現在は「健康経営」「ダイバーシティマネージメント」へ邁進されています。「働き方改革」を進めることになったきっかけを、お聞き出来ますでしょうか?
坂田:始まりは、2014年の11月でした。
全従業員が集まる翌年の目標を掲げる年一回の全体集会会議の際のことです。当時、残業体質が常態化してしまっており、残業時間は常に三六協定で定める上限ギリギリでした。そこで、残業を前年比20%減らすという方針が役員会議で決定し、全体会議で私が説明するはずでした。
――はずだった??
坂田:はい。20%削減を方針として説明する予定でした。
しかし、そのあと、株式会社ワーク・ライフバランスの小室淑恵社長に働き方改革について講演をしてもらったのです。これが、全てを変えるきっかけとなりました。

講演内容を大まかに言うと、家庭と仕事を両立することのメリット、仕事によって家庭が犠牲になることのデメリットについて、お話しいただきました。
あとは、残業することはどれだけ生産性が悪いかについても説明があり、とてもわかりやすく、感銘を受けました。
が…。
――「が…」と言いますと? 
坂田:小室さんがお話の最後に、「サカタ製作所は、これまで見てきたどの企業よりも、一番ダメ」という事をはっきりとおっしゃったのですよ。散々な言われようでした。でもグウの音も出なかったですね。私は、それを聞いて、“挑発された”と感じました。というよりも、そういう体をとってもよいかな、逆にチャンスではないか、と反射的に思ったのです。
講演直後、私は立ち上がり、社員全員がいるその場でいきなり「残業ゼロを目指す」と宣言したのです。会社方針をひっくり返したことになりますね。
小室さんに久しぶりにお会いした際に、この話をしたら、「そんなこと言ってないわ」とおっしゃっていましたけどね(笑) 

とにかくチャンスだと思いました。実は、もともと、20%の削減という目標には違和感があったのです。
――いきなり「残業ゼロ」と宣言したのですね。
坂田:そうです。10~20%の削減は、少しの努力や我慢で、何とかなるんです。でも、“残業ゼロ”は、通常の我慢や努力でどうにかなるものではなく、達成するためには、革新的なアイデアが必要です。
――とても大胆な舵きりでしたね。社員の方の驚きは想像に難しくありません。
坂田:驚いたでしょうね。ただ、残業ゼロを実行する理由は、小室さんの講演で共通理解ができていたように思います。全員が同じ場所で同じ講演を聴き、刺激を受けた。その直後に社長が目標を掲げた、という事が重要なポイントです。次の日から、雰囲気が一変しました。
――そうはいっても、進めていく上で、障害となった点はあったのではないでしょうか?
坂田:色々ありましたが、“お客さんの信用を無くす”と言われた時には、さすがにウッとなりましたね(笑) 唯一、悩んだところでもありました。
納期が間に合わない、売上に影響を及ぼす、といった意見が出ていた時には、それでも構わない、と明確に言いました。
ここで折れてしまっては、絶対に達成できないという一心からでした。
――一般的には、「生産性を上げることで、残業が減る」という考え方をする方が多いと思うのですが、今回はそれでいくと、一見、目的と手段が逆という印象もありますが、今回は「残業ゼロ」ありきだったのですね?
坂田:そうです。私は、「生産性を高めて残業をゼロ」というやり方では、絶対に達成できないと思っています。
「残業ゼロ」という大きい目標があるから、そのために必死で色々なアイデアを出すんです。実際、「残業をゼロにするためなら、利益は気にしなくていい」と公言していましたが、うちの社員には、それでいいと思う人間は一人もいませんでした。
どうやったら残業ゼロでも利益を出せるか、ということを自分たちで考えてくれていました。実際、社長からのトップダウンで、こういう風にやれ、と言うよりも、結果的にこの方が上手くいくと思いますね。
――社員を心から信頼されていたという証ですね。
坂田:そうですね。これほど大きな決断は初めてだったかもしれませんが、それまでにも、似たような決断はしてきました。だから、私の中で社員を信頼していました。 とは言うものの、内心少しだけビクビクしてましたけどね(笑)

3.残業ゼロにより、増収増益をもたらす

――社員の皆様の努力により、1年で達成できたとのことですが、売上、納期の面ではどうだったのでしょうか?
坂田:“ほぼ”達成しました。売上、納期面でもむしろ良くなりましたね。当然なことですが、利益に関しては、絶対的に増収増益になります。
――“ほぼ達成”とはどういうことでしょう?
坂田:やはり我が社にも抵抗勢力がいたのです。実は上層部の人間です。
会議の場では賛同するものの、部署に戻ってからは、一切やろうとしなかった。
“自分たちの部門は特別”という意識があったんですね。
残業ゼロを達成できないことを追及すると、「やろうとしてはいるのですが…」といつも言葉を濁していました。
――その上層部の方にはどう対処したのですか?
坂田:何度か話し合いはしたものの、最終的には会社を辞めてもらいました。
実際、その人に辞めてもらってからは、すぐ残業ゼロになりました。
結局、やればできる、ということなのですよ。
――この取組みを行なって、良かった点はどんなところでしょかう?
坂田:有形の効果としては、先ほどもお話ししましたが、増収増益ですね。あとは、社内の仕組みを大きく変えられたところです。「残業ゼロにするためだったら、何でもやっていい」と宣言していたので、大きい仕組みの変更にもあまり抵抗なく進められたと思います。

無形の効果としては、社員の考え方の変化と、業務の属人化解消ですね。
考え方の変化として一番効果が出ていたのが、改善活動です。残業ゼロのために色々なアイデアを出した経験が活きたのか、改善活動の質も大きく変わりました。繰り返しになりますが、少しの努力と我慢で出来る目標だったら、新しい発想や工夫は出てきません。残業ゼロの効果の筆頭が、先程申し上げた「業務の属人化解消」なのですが、この考え方も、実は社員から出てきたものなのですよ。
――そういった「残業ゼロ」への取組みに加えて、2018年に厚生労働省の「イクメン企業アワード・両立支援部門グランプリ」を受賞されたように、「男性の育休取得」にも力を入れていますね。
坂田:そうですね。でも実は、私は男性が育休を取れることを知らなかったのですよ(笑)
これも、社員から言ってきてくれたことです。

最初は、「育休を取りたいのだけど、取れるような雰囲気じゃない…」という相談を受けました。そこで、私自身がその部署に足を運び、相談してきてくれた彼に育休を取らせて問題が無いか、という事を現場に行って、みんなの前で上司に聞きました。やはり周りの反応は、特に問題はないとのことだったので、育休をその場で取ってもらう約束をしました。
最初の2人まではそのやり方をしましたが、あとは自然と皆取るようになりましたね。 「取らないと社長が来る!」といった感じで(笑)
――「男性の育休取得」は、まだ世間的にはハードルが高いかと思いますが、御社ではどのような工夫をされているのでしょうか?
坂田:当時は、育休を取った本人と、取らせた上司を表彰する制度がありましたね。今はむしろ、育休を取ることが当たり前すぎてやっていないですけど(笑)
ただ、一番の要因は、属人化解消により、育休取得のハードルが無くなったのだと思います。ハードルが“下がった”のではなく、“無くなった”のです。
――なるほど。ここまでの一連のお話で、社長の思い切った決断・それに応える社員の皆さん、そしてそれを信頼して任せる社長のスタンス、それぞれが非常に参考になりました。

4.自分で出来る範囲で、何かを始めることが重要

――今回、坂田社長にご登壇いただくクオリティフォーラムは、参加者の約半数は部・課長層です。そういったお立場の方ですと、お話を聞いても「話はためになったが、私にはそれを進める責任と権限がないので難しい…」という感想を持つ方がおられるのですが、坂田社長ならこんな時どのような説明をしますでしょうか。
坂田:今まで話したことは、確かに社長という立場でやってきたことですが、部・課長だから出来ない、という話ではないと思っています。
例えば、こんな話があります。
挨拶をしない職場で、新人の方が大きい声で挨拶を続けていると、最初の内は“うるさい”と疎まれていたものの、次第に周りも感化されて、挨拶をするようになった。そうすると社内の空気が変わり、風通しのよい職場になった、という話です。

大学卒業したての新入社員でも、会社の雰囲気を変えることが出来るのですから、
部・課長ならもっとたやすく出来るはずです。
部・課長だから・新人だから、と言うのは自分で逃げ道を作っているのです。
まずは自分で出来る範囲で、何かを始めること。そうすれば、誰だって絶対に変えられるはずだと思います。

5.地球を救うため、世界が参考にする成功例をサカタがつくる

――将来、サカタ製作所をこうしていきたい、といったビジョンはお持ちでしょうか?
坂田:実は、私はずいぶん前から引退の時期を模索しているんですよ。
この世で一番信頼してはいけないのは自分自身だと思っているので。

きっかけは、以前高名な経営者が逮捕された時のコメントです。報道によると、「自分は偉大な経営者だったため、周りがイエスマンばかりで、自分の間違いを正してくれる人がいなかった」と言っていて、大きな衝撃を受けました。
どうしても社長という役職の人間には、周囲はなかなか意見を言うことが出来ないので、周りがイエスマンばかりになってしまいがちなんです。
それ以来、自分がおかしくなってしまった場合は、有無を言わさず、周りが排除できる仕組みを作っています。

とはいえ、ビジョンは持っていますよ。
――では、改めて将来ジョンについてお聞かせいただけますでしょうか。
坂田:当社が、なぜこんなに多岐に事業を拡げているかというと、世界(地球)を救うためです。これを言うと笑われてしまうこともあるのですが(笑)もう少し具体的に言うと、そのうち人口が減少に転じ、世界規模で少子高齢化になります。そうなると、人間が人間らしく生きていくために何をしたらよいか、という事を考えなくてはならなくなります。
そうなったときに、世界各国は日本を参考にしてほしいのです。じゃあその日本はどこを参考にするのか、と言ったときにサカタ製作所、ということにしたい。世界の練習台(成功例)を目指したいと思っています。また、今「製造部門のテレワーク」にも挑戦していて、いつかこの成果をお見せできればと思います。
――貴重なお話をありがとうございました。フォーラムでの講演が本当に楽しみです。