企業価値向上経営懇話会(旧:品質経営懇話会)

開催実績

開催実績

第21回会合

~旭化成、デンソーの「品質経営行動」のかたちを講演!
「令和大磯宣言」の要諦と企業価値最大化についての討論が行われる!~

1.第21回開催概要


第21回会合は、2025年7月7日(月)に経団連会館(東京都千代田区)とオンラインでの同時開催として実施した。

今回も、第109回品質管理シンポジウム(2020年12月)にて発出した「大磯令和宣言」、第116回品質管理シンポジウム(2023年12月)での「令和大磯宣言2023」(右図)を受け、その後の日科技連での取り組みや、現状の議論の内容に加え、品質経営(顧客価値創造+組織能力の獲得・向上)に取り組んでいる企業での実践事例を通じて、今後の日本企業が生き残っていくための検討を行った。

継続して本会で議論を進めている「企業の存在価値最大化を目指す品質経営行動」について、旭化成、デンソーにおける事例発表と質疑が行われた。

2.経団連会員からのオブザーブ参加

今年度も本会は経団連とのタイアップを進めていることもあり、経団連会員企業からのオブザーブ出席を募ったところ、以下の2社からの参加があり、自己紹介が行われた。
  • (1)㈱ARROWS 事業開発 マネージャー 高柳 圭 氏
  • (2)東洋紡㈱ 執行役員 品質保証本部本部長 岩崎 正一 氏
メンバー一覧はこちら

3.「企業の存在価値最大化を目指す品質経営行動」

佐々木委員長から、「企業の存在価値最大化を目指す品質経営行動」の説明を行った。この品質経営行動はサブタイトルとして「価値変化に追従できる品質経営行動の研究」とある通り、本会でも複数回議論して考え方には賛同を得てきたものだが、今後具体化に向け以下の検討が不可欠と位置づけている。(以下、図2点を参照)

1)実際の企業活動としてどんな組織で何をアウトプットとして経営判断に結び付けているか、を示す
2)それを一般解に落とし込み、どのような手順で行動するか、を提示したい

4.「企業の存在価値最大化を目指す品質経営行動」ご発表および討論
事例発表:旭化成における「企業の存在価値最大化を目指す品質経営行動」

旭化成㈱ 上席執行役員 品質保証部長 仲二見 裕美 氏

「品質経営行動プロセス」に照らし合わせた企業の事例として、旭化成㈱ 上席執行役員 品質保証部長 仲二見 裕美氏から発表があった。メンバーからの質疑応答、意見交換が行われた。発表のポイントは次の通り。

旭化成は、多様な事業領域を持つコングロマリット企業として、「全員主役の品質経営」 を掲げ、現場密着型の品質保証活動を展開している。本社品質保証部(2017年設置)は、事業部の弱点把握や成功事例の横展開、文化醸成などを通じ、組織全体の品質保証力を底上げ。「現場力を高める8箇条」を軸に、品質を“守る活動”から“価値を生み出す活動”へと転換している。

品質保証活動のリーン化にも注力し、チェックの重複をなくしつつ担当者の責任感を高め、限られた人員で最大効果を発揮する仕組みを推進。品質保証を“お客様の目の代替”と位置づけ、社員が自分の仕事の価値を理解し、主体的に行動できる文化を形成している。

【主なポイント】
  1. 「全員主役」の文化形成
    現場一人ひとりが自分の仕事の意味を理解し、価値提供を実感できるよう支援。
  2. コーポレート品質保証部の役割強化
    事業横断的に弱点を補い、優良事例を展開するハブ機能を果たす。
  3. リーンな品質保証体制の構築
    重複チェックを排し、チェック担当者の質を高める。
    “多くの人員投入=安心”という発想から脱却。
  4. データとAIの活用
    Power BIや生成AIで3万人分の品質関連データを解析し、150部門長へレポートをフィードバック。
  5. 品質保証人材の育成
    品質保証フォーラムなどを通じ、物流・営業・研究・製造など多様な職種から人材を育成。「品質保証=お客様視点」を持つ若手リーダーを計画的に輩出。
  6. “言いやすい文化”の定着
    現場が困りごとを挙げやすくするため、「言ってくれてありがとう」を合言葉にする心理的安全性の醸成。

5.「企業の存在価値最大化を目指す品質経営行動」ご発表および討論
事例発表:旭化成における「企業の存在価値最大化を目指す品質経営行動」

㈱デンソー 安全・品質・環境本部長 上席執行幹部 竹村 秀司 氏

「品質経営行動プロセス」に照らし合わせた企業の事例として、㈱デンソー 安全・品質・環境本部長 上席執行幹部 竹村 秀司氏から発表があった。メンバーからの質疑応答、意見交換が行われた。発表のポイントは次の通り。

デンソーは、創業以来「社会課題の解決」を軸に事業を展開し、品質を「社会や顧客のニーズと自社価値の合致度を測る尺度」と定義。品質を単なる意識ではなく経営の仕組みに組み込み、変化する社会課題と経済合理性のバランスを取りながら事業を推進している。同社では、DX推進や新規事業開発において「小さく始めて育てる」アプローチを採用。POC(概念実証)を通じて新技術の有効性を検証し、実績が確認できれば全社展開する。経営判断は、サステナビリティ会議・経営審議会などで行い、撤退基準を含めて透明な意思決定を徹底している。
また、長期的な中期経営計画(5年スパン)と10年先を見据えた長期計画を策定し、社会・環境変化に応じて柔軟に見直す体制を整えている。

【主なポイント】
  1. 品質=社会・顧客価値との合致度
    品質を経営の中核指標と位置づけ、社会的価値と経済的価値を両立。
  2. 挑戦を支える文化
    新しい技術への挑戦を支援する“助け合いのマネジメント文化”が根付く。
  3. DXと新事業創出の仕組み化
    POCで検証→効果確認→全社展開という段階的展開プロセス。
    ITデジタル部門が中心となり、実験・評価を標準化。
  4. ポートフォリオ転換と経済合理性の両立
    社会課題対応型事業を進める一方、収益性を冷静に評価し、撤退基準を明確化。
  5. サステナビリティと経営判断
    カーボンニュートラル等に対し、業界全体での「カーボンプライス」設定議論を主導。
  6. 柔軟な経営計画運用
    中期(5年)・長期(10年)計画を毎年見直し、外部環境変化(貿易・安全保障など)に即応。

6.第21回のまとめ

最後に、今回の議論を踏まえて今後の品質経営のあり方について佐々木委員長からまとめがあった。

◆旭化成 仲二見氏の発表について:
現場に密着した品質保証活動の実態と情熱に触れ、参加者が強い感銘を受けたと思う。特に、「全員主役」という考え方の実践が重要であり、現場で働く一人ひとりが、自分の仕事の価値や貢献を理解することが、働きがいにつながり、結果的に企業業績の向上に結びついている。

◆デンソー 竹村氏の発表について:
同社が社会課題に応じた事業展開を行っている点に着目。品質とは単なる心構えではなく、「社会や顧客のニーズと自社の提供価値との合致度」を測る尺度であり、デンソーはそれを経営の仕組みとして組み込んでいる点は素晴らしい。

7.その他(当懇話会・第二次報告書の作成)

事務局より、これまでの企業価値向上経営懇話会での検討内容、議論、事例発表などを産業界に発信するタイミングと考えており、「企業価値向上経営懇話会 第二次報告書」として取りまとめ、公開したく、その承認と協力をお願いし、全会一致で承認された。発行は2026年3月までに行う見込みである。
(報告・まとめ:品質経営創造センター 安隨 正巳)