企業価値向上経営懇話会(旧:品質経営懇話会)

開催実績

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第15回会合

~「企業の存在価値最大化を目指す品質経営行動」について、楽天グループの事例発表が行われる~

1.第15回開催概要

第15回会合は、2022年10月4日(火)に東京都千代田区の経団連会館とオンラインでの同時開催として実施した。
今回は、第109回品質管理シンポジウム(2019年12月)にて発出した「大磯令和宣言」を受けて、日科技連「品質経営研究会」(委員長:佐々木眞一日科技連理事長)で検討を進めている「企業の存在価値最大化を目指す品質経営行動」にもとづき、㈱楽天グループの事例発表とそれを受けた質疑応答を中心に議論を進めていった。

2.新メンバー自己紹介

冒頭に今回から新たに本会のメンバーとなった以下の方から自己紹介が行れた。
  • 山下 隆一 氏(経済産業省 製造産業局長)
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また、新メンバーのため、坂根委員長から、本会の成り立ちについて補足説明があった。
  • 2017年に積水化学工業・大久保尚武氏、日科技連佐々木眞一理事長と共に、企業トップの「品質」への関心低下を憂慮し、「経営者のネットワークを作る」と目的で2017年10月に創設した。
  • 2020年6月に第一次活動報告書をまとめたが、この頃から「品質経営」というよりも、我々は「企業価値向上」「企業存在価値向上」を目指すべき、ということが議論を通じて明確になった。
  • 企業存在価値を目指すにあたり、すべての原資は顧客からいただいており、まずは「顧客価値」を創造し、適切な利益を得て、顧客を通じて社会貢献を実現し、分配の段階では、社員を含めた全ステークホルダーに公平に分配するためには顧客から適切な利益をいただかなければ成り立たないというロジックで、現在の「企業価値向上経営懇話会」と改称した。

3.昨今の品質不正、不祥事の等に関して

前回、経済産業省の藤木製造産業局長(会合時)から、「本来、法順守というのは企業価値向上を支える基本だが、それは自然にできるものではなく、大変な苦労と努力が必要となるのではないか。それらを是非議論すべきだ」という提案が出された。
これに関連し、坂根委員長から以下のコメントが述べられた。
  • コマツの社長時代に経験したのは、不正や不祥事ひとつで、真摯に取り組んでいた企業価値向上、顧客価値創造が、すべて無になってしまう。
  • この経験を踏まえて、これまであったコマツの「ミスや不正をなくせ」という行動基準書を、「コマツウェイ」という形に変え、冒頭に「人間だからミスはある、不正もある。しかし、かつては許されたことが許されない社会に変化している。だから不正は存在する。存在するのだから早く見つけてトップに上げてほしい」とした。
  • トップ自身が「ミスは人間だからある、不正も社会の基準がかわるのだから必ず存在する」と認めることが重要と考える。
  • 「Bad News」がトップにきちんと届くために定例報告書などは冒頭に必ず環境安全コンプライアンスに関することから書くこととしていた。
  • 自動車産業や電機産業では国の規制も細かく、本当に難しい判断があると思う。どの業界においても、恐らくかつては許されたものが現在では許されないというケースが存在しており、それを社内で「隠蔽してしまうこと」が一番悪い、という価値観に変われるかどうか、がキーである。

4.「企業の存在価値最大化を目指す品質経営行動」の事例発表とディスカッション
(1) 事例発表「楽天グループにおける企業価値向上への取り組み」

「品質経営行動プロセス」に照らし合わせた企業の事例として、楽天グループ㈱ オペレーションディビジョン グループ品質部 ジェネラルマネージャー 菊池 佐知子氏から事例発表があった。

楽天グループは、日本発のインターネット・サービス企業で、Eコマースをはじめ、フィンテック、デジタルコンテンツ、昨今では携帯キャリア事業など、多岐にわたる分野で70以上のサービスを提供しているが、これらサービスを、楽天会員を中心としたメンバーシップを軸に有機的に結び付けることで、独自の「楽天エコシステム(経済圏)」を形成していることは広く知られている。
楽天エコシステムを利用するお客様の期待を超えるサービスや製品を提供できるよう、品質保証体制の構築、QCCなどのグループ横断の品質活動を通じたTQMの導入、NPSやVOCを改善する全社横断活動などを紹介いただいた。
IT企業である楽天グループが進める品質経営とそれを支える様々な仕組みを、事例と共にご紹介いただき、メンバーからは「品質経営にここまで取り組んでいるのか」という驚きの声もあがっていた。

5.「品質経営研究会」の検討内容の報告:
テーマ「コト価値創造を、全員参加で実施するための組織能力の検討活動状況報告」

日科技連「品質経営研究会」のメンバーであるトヨタ自動車・鈴木浩佳氏から、以下の通り報告があった。
【1】 活動目的・目標
【2】 これまでの取り組み内容
【3】 5つの主要課題を受けての取り組み
【4】 これまでのまとめ
コト価値創造のためのストーリー、そのストーリーに対応して必要な組織能力(16項目)について検討内容の報告があった。また、この組織能力を獲得・強化していくためにTQM活動要素(トップのリーダーシップ、方針管理等の9項目)をどう使っていくのかをマトリクスを作成し、検討を進めており、この対応整理表を5つの主要課題を抜き出し、重点を置きながら議論を行っているとの説明があった。
戦後間もない頃からTQCとして日本の産業界の競争力を高めてきたこの素晴らしい活動,財産を,激変する価値観(モノの価値からコトの価値へ)の中でも役立てていかなければならず、そのための手段が今回の取り組みである。

最後に、品質経営研究会の委員長も務める佐々木副委員長から、以下の説明があった。
  • 2023年12月の「品質管理シンポジウム」において、品質経営研究会の集大成の発表と討論を実施する予定である。
  • この研究成果を産業界に発信しているのは、現在「エグゼクティブセミナー」1本である。
  • いろいろな階層の方に「これからの品質経営」を実践するためにはどのような組織能力、事業発想をしなければならないのか、というセミナーを計画している。
  • また研究会の集大成として、一冊の本に纏めたいと考えている。

6.まとめ

閉会にあたり、坂根委員長から以下のまとめがあった。
  • 1963年にコマツに入社した頃は、品質管理の分野では石川馨先生や朝香先生がトヨタは、NECはこういうことをやってる、というような事例を挙げられて、各企業が業種を問わず切磋琢磨してやってきた。当時は、日本全体が生き残ることに必死でやっていた。
  • 現在は各業界の中で、どこかが勝ち抜くしかないというような中で、異業種間の情報交換の機会が少ないが、まさに本会は産・官・学のトップが集う非常に稀な場であり、大変貴重な存在といえる。是非有意義に活用していただきたい。
  • 本日の議論は、コーポレートガバナンスの基本といえる。企業がどういう価値創造を目指してるのか、そういった中でBad Newsがいかに大きなダメージになるか、ではそれをどうやって防ぐのか、という点も引き続き議論していきたい。
(報告・まとめ:品質経営創造センター 安隨 正巳)