第2回 データサイエンスシンポジウム 開催レポート

デジタル社会で必要とされるデータサイエンス教育

開催日:2023年12月7日(木) 13:00~16:45
会 場:Zoomウェビナー(オンライン開催)
2023年12月7日(木)、「第2回データサイエンスシンポジウム」が開催された。今回も昨年同様Zoomウェビナーでのオンライン開催とし、500名を超える方々にご参加いただいた。

1. 主催者挨拶

冒頭の主催者挨拶では、日本科学技術連盟 理事の島田 尚徳から、今回はデジタル社会で必要とされるデータサイエンス教育に焦点を当て、実際に教育に当たられている産学の当事者の方々に、データサイエンス人材の育成における課題・取り組みについてご講演いただくこと、当シンポジウムを皆様のお会社の人材育成に役立てていただきたい旨の期待の言葉が述べられた。

2. 基調講演

千野 雅人氏(統計数理研究所 大学統計教員育成センター センター長・特任教授)が登壇され、「日本の危機的状況を救えるか?統計エキスパート人材育成」と題し、基調講演が行われた。

千野 雅人 氏
千野 雅人 氏

本講演では、データサイエンスに不可欠な学問「統計学」について、日本と米国との差、統計学をめぐる最近の世界の進化と日本の課題、統計エキスパート人材育成の取り組みについて、豊富な知見と経験を基にご講演いただいた。
文部省では統計エキスパート人材育成の取り組みについて、データサイエンス教育や統計学に関する専門教員の早期育成体制等を整備する必要があると考え、2021年4月より統計エキスパート人材育成プロジェクトの公募が開始された。事業期間5年間で約30名の大学統計教員を育成し、これらの教員が各大学でさらに人材を育成、10年間で約500人の統計エキスパートを育成することを目標としている。
2023年現在、プロジェクトは大学統計教員育成第2期研修に入り、教員の育成が進んでいる。10年後約500人の統計エキスパートが育ち、日本でもプロフェッショナルが輝ける社会になることが期待されている。

3. 特別講演①

松嶋 敏泰氏(早稲田大学 理工学術院 応用数理学科 教授、データ科学センター所長)が登壇され、「データサイエンスで拓く新たな社会への道程-科学的方法としてのデータサイエンス-」と題し、特別講演①が行われた。

松嶋 敏泰 氏
松嶋 敏泰 氏

本講演では、データサイエンスとは何か、その本質を科学的方法から捉えることで見えてくる社会変化の道程、データサイエンスが社会を変える源泉となる力はどのようなものなのか、またその推進を担う大学と企業の役割について、講演いただいた。
データサイエンス人材を育成することによりあらゆる分野で意思決定プロセスが変わり、新たな社会が生まれてくる。そこで早稲田大学では、データサイエンス学部を作るのではなく、文理関係なくすべての学部にデータ科学が必要であるとし、データ科学センターを2017年12月に発足した。考え抜かれた教育プログラムは学生だけではなく様々な企業で活用されており、産学で連携を取りながらデータサイエンス人材の育成に取り組んでいる。


松嶋氏講演資料より

4. 事例紹介

野中 大祐氏(株式会社ニコン 生産本部 品質・環境部 品質管理課)が登壇され、「ニコンにおけるSQC教育の推進」と題して事例発表が行われた。

野中 大祐 氏
野中 大祐 氏

本講演では、野中氏が自社で行ってきたSQC教育の企画、運営、社内講師などのご経験から見えた課題や苦労、SQC教育の重要性についてご講演いただいた。
株式会社ニコンでは、従業員の職種や階層、専門性に応じた適切な知識や技術の習得が重要と考えており、全従業員のSQCの基礎固めを目的とし、日本科学技術連盟のQC検定4級および3級レベル対応のeラーニング講座を必修としている。職種によっては実験計画法や回帰分析、品質工学などの専門知識も段階的に教育を行い、品質管理のエキスパートを育成している。
野中氏は自身が教育を受ける立場から、教育する立場になるまでの段階で経験したSQC教育の重要性について、「データサイエンスに繋がる『入力、出力』や『目的変数、説明変数』などの相関関係や因果関係を考える機会が得られる。後工程や顧客を含むすべてのステークホルダに対して、品質を通じて貢献するという品質意識を醸成できる。」と述べられた。

5. 特別講演②

伊地知 晋平 氏
伊地知 晋平 氏

伊地知 晋平氏(DataRobot Japan株式会社)が登壇され、「デジタル社会で価値を創出できる人材のスキルとデータサイエンティスト育成教育の動向」と題して、特別講演②が行われた。

本講演では、DataRobot Japan株式会社独自のデータサイエンティスト育成プログラムや、多くの顧客支援経験、教育経験をもとにデジタル社会で真の価値創出ができる人材に必須のスキルや人材育成の在り方についてご講演いただいた。
AIは今あるデータから未来を予測し相関関係を求めることは得意だが、そこに至る理由、要因などの因果関係を求めることは苦手とされている。AIの予測精度を向上させ、理由や要因に関する有力な仮説を求めるために必要となってくるのが、ドメイン知識である。その中でもSQCの知識は、AIが導き出した予測に対し正しい意思決定を行うため、AIモデル自体の運用監視と品質管理のためにも必須なものとなってくる。
また、ビジネス現場に価値を創出していくのは高度な専任データサイエンティストではなく、市民データサイエンティストであることが述べられた。

6. クロストーク

本シンポジウム最後のプログラムは、登壇者および昨年基調講演でご登壇いただいた椿 広計氏(統計数理研究所 所長)によるクロストークが行われた。
それぞれの立場、知見からお話しいただく中で、共通していたことは「目的の明確化」である。SQC、データサイエンス、AIそれら全てはツールであり、使うのは人間である。何に使うのか、何のために行っている事なのか、それを考えられる人材を育成することが重要であることが述べられた。
最後に椿氏から、「データサイエンスの育成は、SQCの人材育成と非常に親和性が高いということが今回の登壇者の皆さまの共通認識であり、人材育成の対象となる様々な階層、様々なドメイン知識を有する方々の活動とうまく融合することで、日本のこの分野での産官学の競争力を向上させたい。」と、期待の言葉が述べられた。