ソフトウェア品質シンポジウム 2019

開催レポート・詳細版2

招待講演、企画セッション

招待講演 セッションD2
企画セッション E3 パネルディスカッション
デジタルトランスフォーメーション時代における
ソフトウェア開発と品質保証のあり方

《パネリスト》
瀧島 勇樹 氏 経済産業省 商務情報政策局
新田 哲 氏  JFE スチール株式会社
竹内 克也 氏 テルモ株式会社
神部 知明 氏 株式会社富士通ソフトウェアテクノロジーズ
梯 雅人 氏  株式会社日立製作所
《モデレータ》
野中 誠 氏  東洋大学
E4 講演
社会に広がる人工知能の現在・過去・未来

浦本 直彦 氏 株式会社三菱ケミカルホールディングス/人工知能学会

招待講演
セッションD2

この招待講演は昨年度のソフトウェア品質シンポジウムで受賞された方々の発表であり、昨年度からの改善点なども含めてお聞きしたいと思い聴講しました。
2018年度 Best Presentation Award 受賞

■D2-1 作成者の認知バイアスに着目したレビュー手法の提案

湯川 健 氏 ソーバル株式会社 PDF発表資料
この講演では認知バイアスという簡単に言えば「思い込み」による欠陥混入を防止するためのレビュー手法のご紹介でした。作成者の掛かっている認知バイアスを作成者の背景情報、成果物の特徴から推測することで欠陥の傾向を特定し、高リスクの範囲を重点的にレビューする手法の提案でした。

今回、改善点として、欠陥の傾向を特定するための表に記載されている欠陥の傾向の内容を具体化されることにより欠陥検出数が増加する効果を得たという結果を示されました。

認知バイアス=「思い込み」が開発における欠陥混入にもあてはまり、その防止に活用するという発想が非常に面白いと思いました。経験値から人の傾向を判断し不具合を防止している場面は多々あると思いますので、最後に発表者が話されていましたが、認知バイアスはレビュー以外の開発活動でも活用できる場面があると思いました。

会場からは次のような質問が挙がりました。
Q1:表を作成するときは個人で作るのでしょうか、チームで作るのでしょうか?
A1:個人でチェックできると考えていましたが、レビューアにも決めつけがある場合があるので、チームで集まって作成することは有効だと考えています。ただ、かける時間とのバランスは考慮する必要があると思います。

Q2:この手法を正しくやろうとすると、レビューアやマネージャーによるレビューイとの普段からのコミュニケーションが重要だと感じましたがどう思われますか?
A2:手法の中では作成者に関して難しいことは聞いていません。作成者の性格、プロジェクトの情報、各会社のドメインに特化したものが含まれてくるのだと思います。提案している表については欠陥を拾える情報を追加していくなど各会社で作り上げていく形になると考えます。
2018年度 Best Report Future Award 受賞

■D2-2 アジャイル開発における利用者価値が高いソフトウェアの
リリーススピード向上に向けた取組み

酒井 響平 氏 富士通株式会社 PDF発表資料
アジャイル開発の中にUX評価を組込み、後工程で発生する利用時の品質の問題を早期に摘み取ることでリリーススピードを上げる取組のご紹介でした。

UX観点でのシナリオを作成し、かつUXメトリクスとしてパフォーマンスメトリクスの導入をすることで目標とする利用者の価値を作り込むことを実践されていました。過去のプロセスでは開発スプリントで解決していなかったUX問題が新プロセスでは多数解決できたことで即リリースができたという成果を出されていました。

利用時の品質の作り込みを目的として、アジャイル開発にUX観点を含めたテストを適用しUX問題の解決に役立てた事例をお聞きすることができたことは非常に興味深く新たな観点を得られる発表でした。

会場からは次のような質問が挙がりました。
Q:パフォーマンスメトリクスとNPSには相関があるのですか?
A:おそらくあると思いますが製品の特性によると思います。ゲームであれば操作時間とNPSに相関は無いなどケースバイケースであると考えます。
(レポート:岡本 泰尚 氏)

企画セッション

E3 パネルディスカッション
「デジタルトランスフォーメーション時代における
ソフトウェア開発と品質保証のあり方」

左からモデレータの野中氏、パネリスト瀧島氏、新田氏、竹内氏、神部氏、梯氏
《パネリスト》
瀧島 勇樹 氏 経済産業省 商務情報政策局 PDF発表資料
新田 哲 氏  JFE スチール株式会社
竹内 克也 氏 テルモ株式会社
神部 知明 氏 株式会社富士通ソフトウェアテクノロジーズ PDF発表資料
梯 雅人 氏  株式会社日立製作所   PDF発表資料
《モデレータ》
野中 誠 氏  東洋大学 PDF発表資料
デジタルトランスフォーメーション(DX)とは「ITの浸透が人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」との概念ですが、日本企業のランザビジネス(既存ビジネスの維持や管理)とバリューアップ(新規開発)に使われるIT予算の割合が80:20で2014年度以来変わらず、約8割がレガシーシステムの維持管理に充てられ長期的な視野に立ったDXへの攻めの投資が出来ていないそうです。IoTやAIなどに代表されるITの急速な発展に伴い、産業構造やビジネスモデルがかつてないスピードで変革する時代。また技能労働者の離職やソフトウェア更新期限を迎える2025年の崖に向け、今我々がその変化に直面し生き抜くために為すべきこと、DX推進によってソフトウェア開発と品質保証の現場への影響、期待されることは何かについて、国と産業界の先駆者がどんな意見を交わすのか、大変興味深いセッションとなりました。
パネリストには、DX推進の立場から瀧島氏、ユーザー企業の立場から新田氏と竹内氏、ベンダー企業の立場から神部氏と梯氏が迎えられました。

討議の一部を以下にご紹介します。

議題1:内製化は進むのか?

日本のIT人材の7割はIT企業に所属しています。一方で世界1位の銀行となったシンガポールDBS銀行を例に取ると、内製化率が15%(2009年)から85%(2018年)となった例もあります。今後、日本でも内製化は進むのでしょうか?

新田氏)
DXの領域に関しては各ベンダーが強みを持っており、開発生産性も3~4割高い。また、製鉄の24時間稼働システムは専門性が高いので、ベンダーに協力してもらっている。

竹内氏)
基幹システムにはなるべく自分達の要求を入れずにパッケージを取り入れるようにしている。古いシステムが効果を生んでいないわけではないが負債にはなっており全体最適のためにパッケージを採用している。一方でDXは究極の個別最適であると考えており、医療系の1人1人への適用は外部に任せるのではなく、内製化してさっさと作り提供する必要がある。それがグローバル人材を活用して展開していくことに繋がり、内製化は避けられない。

議題2:ユーザー企業が抱える品質面での課題とは?

新田氏)
複数環境(マルチクラウド)への対応、モダナゼーションアプローチ時の品質保証、セキュリティバイデザイン、AIの品質保証 などが課題。
一般論としてベンダーには3点、ビジネスの理解、アーキテクチャの理解、コミュニケーション重視 のお願いをしている。

竹内氏)
ベンダーへの期待としては、グローバル企業なので海外のソフトウェアやサービスに対する技術力や管理能力の向上、海外パートナーとの連携強化、セキュリティ品質の取り組み強化の3点がある。

議題3:ベンダー企業の期待とは?

神部氏)
コモディティ化のスピードは海外のベンダーには適わない。ただし、コモディティ化しない部分、人が関わる所、日本人の良さが活かせる部分を中心に強化すると良い。

梯氏)
お客様との協創によるDX推進や新ビジネス創出、豊富な研究者や専門技術者による新技術への対応、レガシー資産の保守やDX移行の支援、業務・運用ノウハウと言ったところがベンダーの強みだと考える。

竹内氏)
日本人のIT技術は高く、海外においても日本の良さ、品質管理能力の高さをうまく説明できればと考えている。

新田氏)
製造業のIT技術で、海外は標準化やERPなど大勢が同じ用途で使うものは強いが、日本の製造業は、生産管理や品質管理は海外を上回っている。業務を良く知っている、ビジネスを良く知っていることは強みである。

瀧島氏)
海外と日本でDXを伸ばしてゆくには、結局は世界をどう変えてゆくか、集中し積極的に関与して勝ってゆくことだろう。

まとめ:
DXとして内製化や経産省の取り組みなど大きな流れは間違いなくあり、ITエンジニアとしてスピードを持って力を着けることは必要です。ただ全部一人で対応するのは難しく、社内において成功・失敗の体験を積み重ねてゆくことによって、お客様に価値提供できる攻めの領域はまだまだあると認識しました。会場からも2025に向けてベンダーとユーザーの関係性や、IT人材のステータス向上など攻めの質問が多く挙がり、DXをキーワードに日本の産業界の一体感を感じる有意義なセッションだったと思います。
(レポート:大島 弘充 氏)

E4 講演
「社会に広がる人工知能の現在・過去・未来」

浦本 直彦 氏 株式会社三菱ケミカルホールディングス/人工知能学会 PDF発表資料
講演者・浦本氏
巷で何かと話題となっているAIですが、最新技術の動向と今後の方向性に興味があったので、本セッションに出席しました。

チェストとか囲碁などのゲームはルールがはっきりしていて、データも大量にあり、学習しやすいものでAIが強いです。麻雀はAIが苦手なゲームですが、現在は人よりAIが強くなっています。
摂氏を華氏に変換するのに、普通の場合、計算式を使いますが、AIでは大量データを取得し、統計的機械学習によって、計算式がわからなくても正しい結果を得ることができます。過去に起きていない事象を予測できないため、統計的機械学習は万能ではありません。
AIを支える技術としては、アルゴリズムの進展、大量のデータ、計算機パワーの増大の3つがあります。
深層学習とはモデル、アルゴリズムが不明な課題に対しても大量データから解を導きだすシステムです。データがあればモデルが作れて結果を出すことができます。
今までは、化学構造を考えてから実験を繰り返して作成していましたが、現在はマテリアルズインフォティクスを使って、作成したいものから化学構造をリコメンドしてくれるので、開発効率が飛躍的に改善されています。

AIについて、過去から未来の方向性までわかりやすく説明いただきました。マテリアルズインフォティクスを使って材料開発のスピードや効率が飛躍的に改善しているという話が一番印象に残りました。
アメリカがAIを乗せた戦闘機を作っているというニュースを聞きました。AIは素晴らしい技術なので平和目的で利用していって欲しいと思いました。
(レポート:鈴木 祐司 氏)