インタビュー

失敗学を活用した未然防止活動の取り組み

三菱重工業 バリューチェーン本部QMS推進グループ主席部員の廣岡秀樹氏に聞く(1)

(聞き手:ジャーナリスト 伊藤 公一氏)

廣岡 秀樹(ひろおか ひでき)

1991年 三菱重工業株式会社 技術本部 広島研究所 入社
印刷機械や製紙機械の研究・開発に従事。
2010年 汎用機・特車事業本部に異動し、2011年 品質保証部 品質マネジメント推進グループ長。
相模原におけるQMSの推進とシステム開発他の各種プロジェクトに従事。
2016年 本社に異動し、バリューチェーン本部 バリューチェーン革新部 QMS推進グループ 主席部員として現在に至る。
本社では、失敗学をはじめ、全社の品質部門の教育や情報横通し活動に従事。
――未然防止活動のための人材育成になぜ失敗学の分析手法を活用されたのですか。
廣岡:当社はさまざまな事業を有していますが、事象は異なるが根本の原因は限られており共通化できること、かつ品質コストを低減させるだけでなく、人の行為に起因する失敗を防ぐことが人財育成にもつながることから、重点的な取り組みとなっていきました。
 ここからは濱口先生(濱口 哲也氏:㈱濱口企画 代表取締役)の受け売りですが、不適合を未然に防ぐためには、事前にリスクを抽出することと、発生した不適合を分析し、同じような不適合を起こさないように対策を講じることが大切です。不適合の原因には、物的原因と人的原因の側面があります。物的原因とは製品が劣化、損傷、破損などに至るメカニズムの起点となったもの。形状、構造、システムなどですね。
 一方、人的原因とは不適合を招く誤った判断や行動など、まさに人間の失敗を指します。物的原因は物理現象で起こります。しかし、使われた材料や部品が勝手に不適合現象を起こすわけではありません。その材料や部品などを選んだのは、他ならぬ人間だからです。つまり、すべての不適合には人的原因が関わっているということです。ですから、確実な未然防止策を導くために、人間の失敗に着目した「失敗学」の分析手法を活用した人材育成活動が役立つと考えたのです。
――そもそも失敗学に着目されたのは、どのような経緯からですか。
廣岡:原動機を手がけている高砂製作所の品証担当が、2011年度の品質月間で日科技連に未然防止テーマでの講師をお願いしておりましたが、濱口先生の失敗学の講演をいただいたことがきっかけです。講演内容は非常に面白く聴衆をぐいぐい引き込むものであったため、高砂に続き、当時の原動機事業本部内の長崎、横浜でも講演会を開催するようになりました。
 当時、私は、相模原製作所に在籍をしておりましたが、原動機の横浜での講演会の案内が相模原にもあり、たまたま聴講させてもらったのが私の失敗学との出会いでした。
 実際に聴講すると、確かに面白い内容だし説得力がある内容だと感銘を受け、相模原製作所(当時は、汎用機・特車事業本部)での講演をお願いしました。相模原内での講演会の反響は非常によかったのを覚えております。
 その後、2013年度より、本社(当時は、もの作り革新部)主催での講演会がスタートし、社内の各事業所で講演会を実施するようになりました。これにより、一気に失敗学という言葉は、社内の全地区で通じるようになりました。

■不適合事例の人的原因を分析する

――失敗学に対して、ご自身はどのように受け止めておられますか。
廣岡:ここも半ば、濱口先生の受け売りですが、なんらかの失敗が起こった時、その原因は人間にあります。機械に原因があるならば、それは人の失敗ではなく、故障です。講演会が好評なのは、根底に流れる発想の面白さや独自の視点によるものであると思います。そこで、失敗学を推進する部署の立場として、一人でも多くの聴講者にまず、失敗学の考え方を理解してもらうように努めています。
――失敗学の有用性をどのように見ますか。
廣岡:大切なことなので繰り返しますが、失敗学はすべての不適合に人的原因が関わっていると考えることから始まります。人的原因を分析するには、なぜその失敗行動をすることになったかを周りの状況や心理面を含めて解明し、対策を打つ必要がある。不適合の人的原因は多くの場合、製品、部門にわたって共通性があります。しかし、発生部門固有の情報のまま事象や対策を伝えても、自部門の不適合リスクとして認識しにくいため、不適合の未然防止につなげるのが難しいのです。
 その点、失敗学の考え方を用いると、不適合事例の人的原因を分析して、製品や部門を限定する固有の情報を外した上で一般化することができます。これを教訓として表現すれば、異なる製品や部門でもリスクとして認識し易くなり、効果的な不適合未然防止策の展開が可能となるはずです。

■講演会⇒訓練⇒指導会⇒発表会

――改めて、貴社が失敗学を活用した未然防止に取り組まれた足取りをご紹介ください。
廣岡:時系列的に言うと、2011年11月から2013年半ばまではある1つの事業本部の単独の活動だったのですが、2013年から本社主催でも講演会を実施するようになりました。2014年に三菱日立パワーシステムズ(MHPS)が設立されると、同社で従来の講演会に加え、実事例を用いた訓練・指導会、上位概念の理解度を競う競技会などを開くようになりました。
 一方、本社主催活動も2013年から講演会ばかりでなく、MHPSを真似て自前の訓練・指導会も始め、2017年以降はMHPSの活動と統合し、本社活動にシフトしています。
 研修全体は大まかにいうと、講演会⇒訓練⇒指導会⇒発表会というステップを踏みます。おおむね、年度の上半期に濱口先生の講演会を各事業所で開きます。1回あたり3~4時間。それを受けて、本社 バリューチェーン本部主催で自前の教育訓練を行います。それを踏まえて行うのが指導会で、自部門の実際の不適合事例を分析し、フレームワークにまとめ、濱口先生にレビューしていただきます。指導会事例で参考になりそうなものは年明けの発表会で横展開をしております。