インタビュー

コニカミノルタにおけるIoT時代のものづくり

コニカミノルタ 常務執行役生産本部長の浅井真吾氏に聞く(1)

(聞き手:ジャーナリスト 伊藤 公一氏)

浅井 真吾(あさい しんご)

大学卒業後、ミノルタカメラ(株)(現コ二力ミノルタ)入社。
生産技術開発部門にてカメラの高精度部品の要素技術開発・生産技術開発を担当。
樹脂成形プロセスや生産システムに関する特許多数。
またコア技術を社内に留めず、新規事業を通じ、自動車・製薬メーカー等に技術提供し、各社の新規部品開発・品質安定化やコストダウンに貢献。一貫して開発・生産部門で技術開発を担当。
その後、主力事業であるMFP・プリンタ分野の海外生産管理や調達の責任者を務め、コニカミノルタ統合後も生産拠点政策やサプライヤ政策を統括し生産・調達分野の構造改革をリード。
2012年より執行役として情報機器開発本部長を経て、情報機器事業生産本部長、2017年より常務執行役生産本部長として全社生産を担当。loTと自動化を軸にした次世代生産体制、及び革新技術による生産改革であるデジタルマニュファクチュアリングの推進を行っている。
――浅井常務はミノルタのご出身ですが、どのような仕事を担当されていたのですか。
浅井:主に要素技術や生産技術といった分野です。設計の主流がまだ2Dであった頃から3Dにのめり込んでいました。最終製品が立体なら最初から3Dで進めたほうが合理的という考えです。実際、ドラフターで図面を引いていた時代に米国航空機メーカーが開発したソフトを導入しました。家1軒が買えるくらいの値段です。それで、オートフォーカス一眼レフαシリーズの外観を自由曲面で一気に作り上げました。
 その後は「世界の工場」として1990年代半ばに加速してきた中国の生産拠点の運営に関わったり、海外管理業務や新規事業業務、子会社の立ち上げに携わったりしました。インターネットの普及で当時注目され始めたEコマースのビジネスにも乗り出しました。とにかく仕事が面白かったですね。ところが、2002年に突然、すべての業務をストップせよという指示が下ります。コニカとの合併に向けた準備の一環でした。私は知りませんでしたが。
――合併の一方の会社の当事者として、事態をどのように受け止められましたか。
浅井:チャンスが転がり込んできたと思いました。ミノルタは精密、光学、機械、電子制御が得意。コニカは素材や材料を含めた化学に長けている。それぞれの持ち味を生かせば、必然的に新しいものが生み出せると直感しました。うがった言い方かもしれませんが、自分の舞台が大きく広がると思いました。合併というとネガティブに捉える向きが多いけれども、私は極めてポジティブでしたね。
 「二流と二流が一緒になっても一流にはなれない。一流と認められるためには世界にないものを作らねばならない」という当時のトップの言葉は胸に響きました。新会社による「世界にないもの」が注目されれば、成功のビジネスモデルになると確信しました。

■すべてのデータをつなげ、産業に生かす

――現在は生産本部長というお立場ですが、ご自身はIoTをどのように捉えていますか。
浅井:自社ばかりでなく競合他社も含め、すべてのデータがつながることで、それをどこの誰もが共有し、産業の発展に生かしていくことだと思います。そのためにはまず、つながることです。そこで、これまでとは発想を変えて「人・場所・国・変動に依存しない生産」の仕組みづくりを考えました。
 例えば、従来のものづくりは「人手や個人」「特定地域や拠点」「ロスを生む変動」に依存していました。それを「標準化、数値化することで人や個人から脱却し」「消費地に合わせてグローバルに」「変動を分散吸収してロスを最小限にする」生産に改める。これこそが当社の目指す「依存しない生産」の姿です。
――人・場所・国・変動に依存する生産から依存しない生産への決め手はなんですか。
浅井:現場力+技術・技能データ+αです。現場力や技術、技能はどれも、日本の得意技です。日本にはチャンスなのです。これらが揃っていて日本が負ける道理はありません。それでも負けるとすれば、関係する各社の協力体制が取れないことです。だから、IoTを実践する前に、その素地を整えたり、仕組みを作ったりすることが大切だと思うのです。
 現場力+技術・技能データに続くαとは、まず、すでにある技術や技能データをすべての機器から収集し、IoTの考えに基づいて得られたさまざまな情報からワークフロー改革による生産性向上を図ることです。併せて、新たな付加価値を創出し、お客様のQDCEF向上を実現する。その姿をわれわれはデジタル・マニュファクチャリングと考えています。

■少子化が促したロボットへの置き換え

――「IoTの思想に基づいたものづくり」はどのような狙いで取り組まれたのですか。
浅井:ベースは少子高齢化です。ある試算によれば、二千何十年かには日本の人口が八千数百万人に減ります。そのうちの半分が60歳以上です。その時に、本当に今の産業のあり方のままでいいのか、と考えました。実際、私自身は仕事をしたくない。重いものを運んだり、同じことを繰り返したりもしたくありません。それを助けるのがデジタル技術です。例えば、毎回手作業で売り上げ集計しなくても自動集計できる仕組みを作ればいい。
 現場の自動化をというと、たいていの人は間接部門でなく、現場を思い浮かべると思います。現場の自動化は①人を減らす②時間を速くする③長時間労働をいとわない④単純作業でも作業品質を維持する――の4つで実現します。いずれもロボット(自動機)に置き換えることが可能です。要するに、人間が本質的にどうしてもできないことを助けるのがロボットの役割です。その分、本来、人間がすべき仕事をすれば付加価値が高まります。

■旧来の生産プロセスからの脱却を目指す

――新たなものづくりは豊富な労働力に依存した生産手法からの脱却といえますね。
浅井:その通りです。属人的なノウハウに頼った従来の生産プロセスからの脱却でもあります。先ほど、作業品質の維持について触れましたが、人間の関わる仕事は疲れたらどうしても作業品質が落ちます。統計的に見ると、だいたい13~15時ごろですね。そこで、この時間帯には海外拠点も含めて現場に音楽を流しています。気分転換を兼ねて作業品質の低下に歯止めをかけているわけです。
――日本らしい、小さな働き方改革ですね。
浅井:先達のトヨタさんはQC活動から始まり、TQC、TQMと現場の改革を進めてこられた。直接部門だけでなく、間接部門作業にも応用しながら、本当のプロセスの改革、つまりワークフロー改革に何十年も取り組んでこられました。どんなに自動化しても、絶えず変えていく。肝心なのは、それを積み重ねていくことです。これは新興勢力に負けない、日本の誇る特質だと思います。それをデジタル化していけば必ず大きな力になるはすです。