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クオリティフォーラム2017 登壇者インタビュー

打てば響く会社には必ず優秀なトップがいる
 ~TQMの成果はリーダーの資質で決まる~

慶應義塾大学 理工学部 管理工学科教授の山田秀氏に聞く(前編)

(聞き手:ジャーナリスト 伊藤 公一氏)

山田 秀(やまだ しゅう)
慶應義塾大学理工学部管理工学科教授。
1993年 東京理科大学工学研究科 博士(工学)修得。東京理科大学工学部助手、東京都立科学技術大学工学部講師、東京理科大学工学部講師、助教授、筑波大学ビジネス科学研究科 助教授、教授、研究科長を経て2016年から現職。
専門分野は品質管理、特に実験計画法による設計段階での品質確保、顧客使用データの解析、統計的品質管理・改善の組織的展開、品質・環境マネジメントシステムの標準化など。
――デミング賞実施賞委員会の委員(審査員)の立場から、昨今のTQMに対する企業の取り組み姿勢をどのようにみますか。
山田:最終的な到達点としてデミング賞に狙いを定めた活動という意味合いでTQMに取り組んでいる企業、という見方をすると、残念ながら数は増えていません。一方で、TQMという言葉を使わなくても「顧客志向」に照準を合わせた取り組みを重視している企業はあります。デミング賞やTQM、日科技連などという用語の枠組みにこだわらなければ、多かれ少なかれ顧客志向は企業マインドとして根付いていると思います。逆に、根付いていない企業はないんじゃないかな。

 厳しい経営環境の中で、なんらかの価値を顧客に提供する。そういう姿勢を保たないで成功する企業はありません。その意味では、名称はどうあれ、かつてに比べて顧客志向は確実に、そしてかなり広まっているのではないか。お客様に価値を提供することが企業の生き残る道だという風潮は以前よりも徐々に広がっていると思います。
――デミング賞に取り組む企業が増えていない一方で顧客志向を重視する風潮は広がっている。こうした流れをどう捉えますか。
山田:TQMと経営との関係を考える時、活動の目的はあくまでも経営であり、TQMは手段にしか過ぎません。私は大学に所属するという立場から、ある企業にフィットするけれども、他の企業にフィットしない、あるいは多くの企業にフィットするというところを見極めなきゃいけないと考えています。ただ、ある程度の成果を挙げている企業は例外なく顧客志向を打ち出している。それは確かです。

■自社の提供できる価値を明らかにする

――顧客が求める品質の変化に対して、TQMをどう変えていくべきでしょうか。あるいは変える必要はないのでしょうか。
山田:考え方やフィロソフィーの部分は変える必要はないと思います。一方で、それを実施する推進方法などは変えていかねばならないでしょうね。むしろ、変えるべき部分はかなりあると思います。経営環境に応じて顧客に価値提供していくために、企業はどう臨めばよいのか。簡単なことですが、まずはその企業なり組織なりが置く軸足を明確にして、そこを共有することです。

 問われるのは顧客への価値提供です。例えば、パソコンなどIT関連製品の品質に対して、以前は故障がないとか、メモリが大きいとかいったことが求められていて明白でした。それが明白なら共有する必要はありません。今は、価値提供にはいろんな手法があります。だから、わが社はこっちの方向に行くという信念を明確にして、ひたすらそこに向かう。それが第一です。
――さまざまな手法のある価値提供を顧客に受け入れてもらうための方策は。
山田:自社のスタンスを明確にすることです。ある会社の担当者から聞いた話ですが、その会社の社長からビッグデータを使って何かを探れと上司を通じて命ぜられたそうです。しかし、データがあってもそれをどういう側面で解析するかを決めないと何も進められません。それと同じで、顧客に価値提供しろといってもいろんなやり方がるので、わが社の価値はこういう側面にあるときちんと訴えることが先決です。そこがはっきりしないと、にっちもさっちもいきません。

 これまでに関わってきた企業のトップの顔を思い浮かべると、一般的に優秀と評価されている企業や組織のトップはやはり立派ですね。要するに道理が通っています。今回の企画セッションにご登壇される3社を含め、私が学ばせてもらっている企業はそのあたりの仕組みがきちんと整えられています。そして、決まって優秀な部下がいます。

■良い成果はやる気と進め方で決まる

――山田先生の指導や助言に対して、打てば響く会社と響かない会社、つまり暖簾に腕押しの会社との差はなんですか。
山田:基本的な部分では大差ないと思いますが、強いて言えば、打っても響かない会社の一因は、社長にやる気があるのに推進の仕方がうまくない。例えば、A地区で成果を挙げても、それがB地区やC地区に展開されない。推進本部の役割は2つ。第一にベストプラクティスを作ることです。第二に成果を挙げた地区のベストプラクティスを横展開することです。

 私が訪問した時、議論をするのはA地区です。彼らが持っている目線に私の外部の目線を入れると、彼らは賢いのでうまくすすめます。しかし、それが他地区に推進されないのです。上はやる気があるので、訪問時には活発に議論をします。事例にも真剣に取り組む。しかし、広がらない。これは、HOWに近い部分での課題です。
――要するに、トップの意識と推進の仕方がうまく噛み合っていないということですね。
山田:でしょうね。実際、打てば響く会社はいずれも自律的な判断能力に秀でています。訪問すれば社長との話が弾む。一対一で盛り上がります。ご自身にやる気があるからです。それを部下が意をくんで展開します。私が関わっている会社のうちでも最上位クラスの数社の共通点です。

 だから、推進担当者だけが頑張っても空回りする。考えてみると、社長には自社の方向性を社内で共有できるようにきちんと説明できるかどうかが問われているのではないでしょうか。

■デミング賞は目的ではなく、活動の触媒

――経営目的を達成するための手立てとしてさまざまな賞に挑むことが果たす役割についてどのようにお考えですか。
山田:顧客の求める品質のモデル化を提唱したことで知られ、恩師でもある狩野紀昭先生は、デミング賞は目的達成のための触媒だと説明されています。私もその通りと思います。その例え話として引き合いに出されたのが、1964年の東京オリンピックです。それを招聘したのはオリンピックを見るためではなく、戦後の東京復興のためだという見方です。デミング賞に挑むのもそれに似た面があります。

 賞に挑むことに対して初めは社長も管理職も一般従業員も気持ちの上では合意形成がなされています。しかし、少し進み始めると混乱が起こる。この時、推進担当者は万全を期するため、AからEまでのすべてに取り組む必要があると考える。一方、実務的にはAからCで十分ではないかという声が出る。
――どこまで関わるべきかの判断を下すのは悩ましいですね。
山田:うまい会社は十分かどうかをより上位の経営目的との対応で見極めます。基本的にはAからEだが、実際はAからCでも十分に結果が出るという見方もある。場合によってはDEを省くという選択もあります。要するに、切り分ける。あくまでも経営目的なので、目的志向が浸透しているかどうかがカギになる。そういう判断が意外と難しいのです。

 日常管理くらいならなんとかなるが、方針管理のチャレンジングなトピックをやろうとすれば推進側は「全部やれ」。しかし、言われたほうは「なんでやらなきゃいけないんだ」となります。効果が明瞭になっていないので、どこまでやれば十分かという判断が下せない。だから、推進側は全部やれと言い、言われた実施側は疲れてしまう。そんな仮説を持っています。