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クオリティフォーラム2022 登壇者インタビュー

東芝インフラシステムズ株式会社での
失敗学取り組みの実際

東芝インフラシステムズ株式会社
品質企画部・エキスパート 荒井 信治氏に聞く

聞き手:廣川 州伸(ビジネス作家)
荒井 信治 氏
荒井 信治 氏
東芝インフラシステムズ株式会社
品質企画部・エキスパート
1994年4月東芝入社。浜川崎工場で電力会社 向け変電設備GIS(ガス絶縁開閉装置)の製造 技術、設計に携わる。
2012年10月イノベーション推進室に異動し、シックスシグマ手法の教育、改善プロジェクト指導等に取り組む。
2017年7月東芝の分社により東芝インフラシステムズへ異動。
2020年4月品質企画部で、品質・改善の人材教育等を担当。2021年9月に失敗学専門家研究会を立ち上げ事務局として推進中。

1. 失敗学取り組みの動機

――御社が失敗学に取り組まれたきっかけ、動機、背景などをお聞かせください
荒井(敬称略):当社は、東芝グループの注力分野である社会インフラ事業を担っており、上下水道・受配電・道路・通信・放送・気象・物流・鉄道等の様々な分野へ製品を提供しています。
当社の製品で一度事故が発生すると社会的影響は大きく、事故を繰り返さないために全社レベルで事故事例の横展開活動を継続実施していましたが、異なる事業部門にとっては他部門の失敗は他人事に思えてしまい、なかなか自分事としてとらえるのが難しい状況でした。
当社には不適合が発生すると、社長までタイムリーに共有するシステムがあるのですが、「あれ? 前にも別の部署で似た失敗があったな」ということが重なり、「何とかしなければいけない」という機運が経営層に高まっていました。
そのなかで、当社の品質統括責任者が日科技連のクオリティフォーラムに参加して「濱口先生の失敗学」を聴いて「他部門の失敗を自分事としてとらえるにはこれだ!」と強く感じました。

濱口先生の失敗学講演

――それで、失敗学の取り組みを開始されたのですね。
荒井:はい。濱口先生に社内イベントの品質情報フォーラムのメイン講演への登壇をお願いし、2020年8月31日に実現しました。
失敗のとらえ方と有効活用、失敗学のエッセンスを中心に、再発防止のみならず、どのように未然防止に活かすか、失敗学の基本的特徴を解説していただきました。半日たらずの講演でしたが、「マニュアルが整備されていなかったことが原因といった対策反転型の原因分析は結果論 であり、ダメ。その時それが大丈夫と考えて行動したのはなぜかという言い訳を聞いてほしい」「失敗学では、個別の事象を一般化して上位概念にすることで陥りやすいワナを見つける。このワナは他の分野の事象にも当てはまるので、他の方法では難しいリスクの想定ができる」という部分は、とくに琴線にふれました。

2. わかったと思ったが実際にやってみたら散々な結果で専門家研究会を立ち上げ

――失敗学への取り組みがどのように進んだのか教えてください。
荒井:濱口先生の「失敗学」の講演を聞くと、強くインパクトを受けて、わかったぞ! 先ずやってみよう!とみんな思っちゃいますよね。我々もその気になって、部門ごとに不適合事例を失敗学のフレームワークで分析して、濱口先生の指導会で添削してもらうことにしたんです。
――うまくいったんじゃないですか?
荒井:そう思いますよね。ところがどっこい、散々な結果だったんです。
例えば「起承転結」で論理的な展開をするのは、我々はエンジニアだから当然できていると思っていいたのですが、全然できていませんでした。
もっと基本的なところでは、事故のポイントを別の部門の人に説明することもできていませんでした。
起承転結の論理展開ができていないので、当然「ワナ(失敗のカラクリ)」を見つけることはできませんし、その先にある「未来の不適合」を想定するなどは、まったく無理な状態でした。
――困りましたね、その後どうしたんですか?
荒井:失敗学の分析ができるようにしたいメンバーを選抜して、再度濱口先生の実践セミナーを行いました。講演は半日でしたが、この実践セミナーは1日コースです。さらに、この選抜したメンバーで失敗学専門家研究会(70名)を立ち上げ、グループ討議で事例の分析の実践、全体会議で分析結果のレビューを繰り返し行いました。

起承転結の論理展開のための秘策

――研究会の分析の実践でうまく、分析できるようになりましたか?
荒井:5回のグループ討議と全体会議で、起承転結の論理展開とワナを導くところまでは、なんとかできるようになったと思っています。22年2月の濱口先生の指導会では、この点についてかなり良くなったと評価いただいています。
――なにか、秘策はあったのですか?
荒井:研究会で初心者向けのツールやノウハウを考案しました。これらの知見は、失敗学トラの巻にまとめて、分析に活用したり、新規メンバーの教育に使用したりしています。
特に効果のあったのは、「ラフフレームワーク」と、「起と転からワナを導くノウハウ」です。これらは講演で紹介します。
出来なかった起承転結の論理展開がこの「ラフフレームワーク」を使えば、初心者でも、易しくできるようになります。また、ワナの導きは初心者にとって、最も難しいところですが「起と転からワナを導くノウハウ」ではステップを踏むことで、初心者でも、使えるレベルのワナが導けます。
ラフフレームワーク

3. わかりやすいとおもったら馴染んでもらえずワナをハイライト

――失敗学の取り組みの横展開を行った品質情報フォーラムについて教えてください。
荒井:当社では、年に2回、社内イベントとして、品質情報フォーラムを行っています。「品質情報共有を通じ、品質風土の醸成、個人の感度アップ、再発防止の効率化」を目的として、不適合事例紹介、品質に関する取り組みの紹介等を行っています。濱口先生の講義を聞いて、失敗学のフレームワークで説明すると、とてもわかりやすく腑に落ちたので、品質情報フォーラムの不適合事例紹介でも失敗学のフレームワークを用いて説明を行いました。
――わかりやすくて、好評だったんじゃないですか
荒井:そう思いますよね。ところがどっこい、これも散々な結果だったんです。
失敗学を学んでいない一般の人にはむしろ馴染にくく、思ったほど理解してもらえませんでした。
事象からワナまでのプロセスを説明したのですが、失敗学を学んだことのない人は既成概念があるので、原因はルールを守っていないからなんじゃないか!基本ができていないよ!と感じて、せっかく導いたワナに納得してもらえないアンケート結果が大量に寄せられました。
――困りましたね、どうしたんですか
荒井:濱口先生のスピンオフ物語の説得力がすごかったことを思い出して真似することにしました。スピンオフ物語では、フレームワークは使用せずワナをハイライトして説明していました。陥りやすいワナを強く印象付けることで、「そのワナ、俺もハマるよ」といった具合に納得しやすくなります。
ビジュアル資料①
ビジュアル資料②

さらに、ビジュアル化

――わかりやすいといえば、資料にあるイラストが楽しいですね
荒井:デザイン部に協力を要請し、ビジュアル化も行いました。デザイナーに失敗学実践編セミナーに出て勉強してもらったところもポイントです。
これらの対策は、とてもうまくいき、皆さんに陥りやすいワナを納得して、共有してもらえました。
ビジュアル化の効果も絶大で、これに味をしめて21Bは、失敗学の説明、22Aはフレームワークを使わなくても活かせる失敗学の考え方をビジュアル化しました。
ビジュアル資料③
ビジュアル資料④

4. なぜなぜ分析との比較、住み分け

――難しいテーマかもしれませんが、なぜなぜ分析との住み分けについてお願いします。
荒井:失敗学のフレームワークによる分析は、不適合の原因分析に切れ味抜群ですし、未来の不適合の想定もできます。なによりも、得られた知見が「他人事」にならないメリットがあります。しかし、フレームワークによる分析ができるようになるには、ある程度の実践訓練が必要なため、先ずは、選抜した専門家が研究会でスキルを磨いていくやり方を考えています。
一方で、なぜなぜ分析は、すでに全員が使えるツールになっていますし、生産性の向上や受注拡大といった改善活動にも適用できます。
そのため失敗学、なぜなぜ分析の両方を活かしていきたいと考えています。

なぜなぜ分析の弱点を失敗学の考え方で補強

――両方のメリットを活かしていくということですね。なぜなぜ分析を行う際に工夫をされているとのことですが、どんな工夫ですか。
荒井:発想法としてみた場合、失敗学は、どうして大丈夫だと思ったの?と問うことで結果論的な分析になることを避けながら、探索範囲を上手にせばめて、発想しやすくしています。これに対し、なぜなぜ分析は、なぜの展開方向が無限にあるため、NGワードで、原因探索範囲を狭めます。改善可能な範囲を超える以下のような原因はNGです。「・売上が落ちた原因は他社の進出・人が足りない、・時間が無い、・お金が無い」等です。初心者は、NGワードがあると思っただけで、発想が止まってしまいます。ここが、なぜなぜ分析の弱点なのではないかと思っています。失敗学的な応用でこの弱点を補強するやり方を、講演でお話ししようと思っています。

取り組みの実際を講演

――最後に本講演を受講する聴講者に伝えたいメッセージがあればお話ください。
荒井:これは行ける!と思って取り組み始めた失敗学ですが、実は、いろいろな失敗があり、試行錯誤しながら取り組みを進めています。これらの取り組みの実際は、案外役に立つのではと考えています。是非、聴講ください。