クオリティフォーラム2022 登壇者インタビュー

QFDの真髄は「顧客志向」に徹し、
開発段階の「ムダなやり直しを省く」こと

〜実務経験から学んだQFDの有効性〜

株式会社アイデア
取締役の
福原 證氏に聞く

聞き手:伊藤 公一(ジャーナリスト)
福原 證 氏
福原 證 氏
株式会社アイデア
取締役
TQMシニアコンサルタント
1942年 富山県南砺市生まれ
1965年 名古屋工業大学 計測工学科 卒業
1965年 トヨタ車体(株)入社(1970年 デミング賞実施賞、1980年 日本品質管理賞)
品質機能総括、経営企画(経営管理・TQM推進)を担当
1985年 (一社)中部品質管理協会 事務局長・指導相談室長
1996年 (有)アイテムツーワン 設立
社長・会長を経て現職
2004年 (株)アイデア 取締役に就任

1. 市場要求と生産対応をつなぐのが計測

――福原先生はどのような経緯でQFD(品質機能展開)と出合われたのですか。
福原:私の社会人生活は1965年に入社したトヨタ車体から始まります。ちょうど会社が品質管理を勉強し始めた頃で、品質保証部の計測管理事務局に配属になりました。大学で計測数学を専攻していたからだと思います。
1969年に聴いた慶應義塾大学の富澤豁先生の講演に刺激を受けました。特に「いくら一生懸命に計測しても、お客様の要求に合わなければ、なんにもならない」というくだりが印象に残りました。その要点は「市場要求と生産対応をつなぐのが計測である」ということです。
――その「刺激」を実務ではどのように生かしましたか。
福原:まず取り組んだのは、量産車種の苦情解析です。その狙いは富澤先生の講演の趣旨でもあった「市場要求と生産対応」をドッキングすることです。たまたまトヨタ車体が生産を開始したバンタイプの車内にたまる埃に苦情が寄せられていました。
その原因を突き止めるため、評価のやり方としてパウダーを敷き詰めた50メートルほどのトンネルに車を勢いよく走らせる。その時に舞い込む粉塵を車内に取り付けた鏡の反射率で測る仕組みです。何回か繰り返して外から吸い込む穴をどんどんふさぐ。しかし、一向に改善されない。お客様の苦情も減らない。結局、自車の前輪で巻き上げた埃が車内にたまることが分かりました。
――穴をふさいで密室化するより、空気の流れを解析するべきだ、というわけですね。
福原:はい。評価の仕方そのものが違っていたのです。本来はお客様がどう使うかを念頭に置いて調べるべきです。にもかかわらず、われわれはメーカーの理屈で、なんとか外からの流入を防ごうとした。
つまり、苦情の内容と社内での評価方法の不一致が明らかになったのです。この経験を通して「顧客の要求内容を把握する」ことの重要性を学びました。この事例は後日、富澤先生や水野滋先生からも評価をいただいています。

2. 試作完了時の目標達成率65%⇒97%へ

——QFDの源流は品質管理項目の明確化と機能展開にあると言われますが、その真意は。
福原:一括りにすれば「顧客要求を起点として、製品開発に関わるさまざまな情報や業務がどのように連携するかを見える化し、一気通貫で管理する」製品開発の仕組みです。
商品企画で狙った顧客要求を実現するために、開発設計⇒生産技術⇒調達⇒製造⇒検査など、各ステップで何をすべきかを明確にして、顧客満足度の高い製品を確実に開発する体系的アプローチでもあります。
こうして1977年に「二元表」(マトリクス)を使って、顧客要求品質(ニーズ特性)を品質特性(技術特性)に変換し、設計目標値を検討する「品質表」の考え方を明らかにしました。それを出発点にFMEA表、QA表、工程管理表、QC工程表など組み合わせ「品質機能 展開」として発展していきました。
——埃評価のあり方から始まった取り組みはどのように発展しましたか。
福原:トンネル実験では、いわば要求品質を把握することを学びました。その上で力を注いだのが新製品開発活動の効率化です。
例えば1976年モデルは市場からは圧倒的に好評を得ました。しかし、開発段階では冷や汗の連続でした。ここで「やり直しのムダ」を痛いほど味わわされることになります。 
社内で一度も論議されなかったことにクレームがついたからです。つまり、要求品質がしっかりつかめていなかったということです。そこで、1979年モデルでは、5つの柱を掲げ、この考えに沿って開発を進めました。
その結果、試作完了時の企画目標達成率は1976年モデルが65%であったのに対し、97%という非常に高い成果を引き出しました。
このときの活動内容を紹介したレポートは1984年の「第12回SQC賞」(日科技連)を受賞。1985年からは国内でセミナーや企業指導などに携わるようになりました。

3. CAPDからPDCAサイクルへの転換を促す

——1979年モデルの開発で掲げ、高い成果をもたらした5つの柱とは。
福原:(1)市場ニーズの先取り(2)目標の明確化(3)事前検討の充実(4)品質伝達の適性(5)評価確認の徹底——の5つです。初めの2つは「要求への適合」、後の3つは「CAPDからPDCAの転換」を導きます。
「市場ニーズの先取り」は、顕在要求に留まらず、潜在要求まで掘り下げ、分析することで、開発する製品やサービスが備えるべき品質を検討できるのが利点。新たな付加機能の発想や品質保証の先取り検討もできます。
「目標の明確化」は、重要な顧客要求を実現するための品質特性を定めて、設計目標値として明確に設定するのに役立ちます。
——いずれも特別なことではなく、一種の仕組みとして展開されているわけですね。
福原:その通りです。続く「事前検討の充実」は、故障予測や再発防止のための方策です。開発設計に着手する前の段階で、重要な設計目標を達成するための技術課題が見える化されるからです。
「品質伝達の適正」は、製品開発の各ステップで果たすべき役割を開発設計着手時にそれぞれの部門関係者で共有し、納得した上でスタートを切れるのがメリット。品質が間違いなく伝達され、やり直しがなくなるために開発期間の短縮につながります。
「評価確認の徹底」は、開発着手時に品質表上に最重要評価項目が明記されることで、QA表や工程管理表、QC工程表などに円滑に反映され、徹底できるのが利点。結果的に、CAPDからPDCAへの転換を図ることができます。

4. フォード社を唸らせた簡素化提案

——QFDは「Fukuhara Method」として米国の産業界でも評価されていますね。
福原:歴史的に見ると1980年代、日本メーカーからの輸出攻勢に苦戦していた米国産業界でQFDの適用が進んだのは事実です。業種や分野を問わず、日本製品が誇る高い品質やムダのないモノづくりを支える要因の一つがQFDにあると考えられていたからです。
たまたま1986〜1996年にかけて米国に招かれ、自動車産業ばかりでなく、生活雑貨や軍需産業など、幅広い分野で指導やアドバイスをする機会がありました。1回あたり2週間、年4回、数多くの企業を訪問しました。
そのうちの一社が、ビッグスリーの一角を占めるフォード社でした。Fukuhara Methodはこの時期に付けられたニックネームです。フォード社では当時の副社長に「やり直しのムダは簡単に取り除ける」ことを説明しました。その後、技術関係者を集めた会議室でも同じ話をする羽目になりました。
——米国における指導の重点は。
福原:大前提として、実務の立場から活動を簡素化することを提案しました。まず、品質表作成方法を簡素化しました。QFDが敬遠される最大のネックは、要求品質のウエート付けの煩雑さにあったからです。
次に、重点事項の展開を説きました。言葉を換えれば、今までの開発活動でうまくいっているところはそのまま進めればよい、ということです。これまでのやり方を否定せず、自信を持つべきだと背中を押す。
そして「現状でもほぼうまくいっている」ことを認識する。それは「もっとうまくいくはず」と考える動機づけになるからです。

5. QFDの立ち位置は「競争」でなく「競走」

——DXに代表される新たな手法やデジタル化とQFDとの親和性をどう見ますか。
福原:業種や業界に関係なく、これまでに紹介されているさまざまな成果を踏まえると、DXは業務の効率化や市場に対するビジネスモデルの創出(事業戦略)に有効な手段であるように感じています。
例えば、アマゾンのネットショッピング化、資生堂のパーソナライゼーションなどですね。
QFDは、定めた市場商品の詳細を整理する手段と理解してみてはどうでしょうか。
——アナログ時代生まれのQFDはデジタル時代でも立派に機能するということですね。
福原:これまでの経験から、世界で一番良い製品は理論からは生まれません。各社の特長や強調点が異なっているからこそ、各社固有の「らしさ」が出てくると思っています。
そう考えると、QFDの立ち位置は、いたずらな「競争」ではなく「競走」です。新製品企画へのQFD適用の一案として、商品の活躍するシステムの検討を提案しています。デジタル化が今後、ますます進化するのは自明です。であればこそ、デジタル化という大きな潮流と「うまみ」を共有することを考えてはどうかと思います。

6. 「仕組み」であって「手法」ではない

——QCやTQMなどに比べると、QFDが「食わず嫌い」され易いのはなぜでしょう。
福原:米国における指導のところでも触れましたが、最大の課題は展開の複雑さにあると感じています。
QFDはかつて「手法」として教えられていた時期がありました。手法だとセオリーが重視されます。実際、開発の最も多忙な時期に複雑な展開を強いられると、どうしても敬遠されてしまいます。
ですから、学問としての追求は学者先生にぜひとも続けていただきたいのですが、実展開では運用の簡略化を検討すべきであると考えています。
Fukuhara Methodはこの点に注目したものでした。QFDは顧客が感動する製品を効率的に開発する仕事の進め方です。進め方ですから、つまりは「仕組み」です。仕組みであれば、哲学さえ共有していたら、実活動は企業の文化に合わせて展開を工夫すればよい。事実、私がお付き合いしている企業では熱心に展開されています。
——ムダのない開発を進める上でも、関係部署間のきちんとした情報共有は必須ですね。
福原:かつてヒット商品を生む要因は「品質やコストをいかにマネジメントするか」でした。やがて、その重点は「いかに競合商品に対して差別化するか」に移り、現在は「いかに新しい顧客価値を見出し、製品・サービスで実現できるか」に変わっています。
要するに、より戦略的な視点にシフトしています。そうした視点の変化に呼応する形で、より上流の「顧客価値を 決める」段階が重視されるようになってきたと思います。

7. 「要求への適合」から「需要の創造」へ

——これまでの実務経験を踏まえ、QFDを活用する際の留意点をお話しください。
福原:端的に言うと、期待する効果が共有できていたら、特に留意することはありません。強いて言うなら、第一に「一人相撲を取らないこと」、第二に「スタート時点から『できる、できない』の議論をしないこと」、第三に「進捗の管理を徹底すること」です。
そうすれば、関係する各部の働きがそれぞれ有機的につながって、トータルで良い結果をスマートに実現する結果を導くことができるはずです。そのためには、QC的なアプローチで臨むことが大切だと思います。
——新たな市場環境におけるQFDの役割は。
福原:新製品開発におけるQFD適用の軸足を「要求への適合型」から「需要の創造型」に移すことです。需要の創造とは、自分たちから市場要求品質を発信することです。
これまでお話ししてきたように、これからの新規製品開発の着地点はお客様に対する「新たな感動の提供」です。
アプローチの仕方として3つの提案をしています。「提案型」「市場誘導型」「新規市場創造型」です。
提案型は、自社の得意技術をアピールできる市場への進出を狙います。市場誘導型は、現製品の将来像予測から要求を先取りします。そして、新規市場創造型は、自社製品の保有する機能を活用できる社会空間のシナリオづくりが欠かせません。

8. 技術開発ステップからの新製品開発

——将来的に、QFDはどのように進化していくとお考えですか。
福原:現時点では4つの視点を感じています。(1)技術開発段階の要求品質と技術開発との連鎖(2)新規市場を目指した製品開発への適用(3)品質特性の整理法(4)原価企画のQFD的な仕組み――です。
今や新製品開発は技術開発ステップからスタートしています。製品企画から始まった従来との大きな違いです。また、新市場開拓の商品企画が増えています。ですから、QFDアプローチで支援できる方法の確立が重要になっています。
――品質特性の整理法と原価企画における役割は。
福原:従来の品質特性は「メカ」と「エレキ」が共有できる表現になっていました。ところが近年はこれらに「ソフトウエア」が深く関わってきています。しかし、ソフトには品質特性という言葉がなじみにくい。強いて言うなら要求機能です。そういう、ソフトとハードの連携を企画段階から議論できる品質表の在り方を具体化していただきたいですね。
QFDでは、企画段階で品質と原価のバランスを取って目標を設定するステップが実務者には難解なように感じます。従って、企画段階では「原価を創る」、詳細設計段階からは「原価を下げる」というアプローチで臨むことが大切だと思います。

9. 自社製品や企業文化に応じて活用を

――本講演で聴講者に伝えたいメッセージがあればお話しください。
福原:QFDは難解で、面倒なことを要求するものではありません。むしろ、効率的な開発を行うには当然配慮すべき事柄が並んでいるだけです。これまで、何度も申し上げてきたように、手法ではなく「仕組み」であることを理解していただきたいと思います。
また、QFDは「忍術」でもありません。これまでもほぼうまく開発してきた活動をさらに良くしたいと考えています。決して特別なことをしようとしているわけではありません。自社の扱う製品や会社の文化などを加味して自社に合うやり方を工夫していただければよいと思います。