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クオリティフォーラム2021 登壇者インタビュー

QFDシンポジウム
『品質機能展開の基礎と活用』

木内 正光 氏
玉川大学
経営学部国際経営学科 准教授

聞き手:廣川州伸(ビジネス作家)
木内 正光 氏
木内 正光 氏
玉川大学
経営学部国際経営学科准教授
1975年生まれ。
2003年玉川大学大学院工学研究科生産開発工学専攻博士課程後期修了。博士(工学)。
2004年城西大学経営学部助手、助教、准教授を経て2019年より現職。
専門は生産管理、品質管理。日本科学技術連盟「QCの考え方に基づくIE手法活用による工程改善実践セミナー」運営委員長兼講師、日本規格協会「生産管理セミナー」運営委員兼講師などを歴任する。
著書に「生産現場構築のための生産管理と品質管理」(2015年日本規格協会)がある。

1.工場経営を支援したい気持ちが原点

――緊急事態宣言下、大学でも苦労されているのでは
木内:そうですね。新型コロナ禍も2年目となり、学生たちへの影響も少なくありません。昨年と比較して対面講義も増えていますが、大学でキャンパスライフをイメージしていた学生は多いので、戸惑いは大きいと思います。大学には専門を学ぶ以外にも多くの学びの場がありますが、例えば部活動については、かなりの制約の中で活動をせざるを得ない状態です。
――早く収まるといいですね……。さて、まず品質管理との出会いを教えてください。
木内:少し長くなってしまいますが…。祖父が、かつて大田区で工場を経営していました。小さな町工場でしたが、私の物心がついたときには工場は閉鎖されていて、祖父は別の仕事に就いていました。祖父は工場を経営していた頃の話はしたがらなかったので、相当苦労したのだと思います。そんなこともあり、もともと工場に興味がありました。私が経営を学ぶことで、祖父のような人を助けることができないか、それが研究者としてのスタート地点です。そして大学を選ぶとき、工場経営の学問を探していたら「経営工学」という分野を知り、玉川大学の経営工学科に入りました。
――工場の学問を学びたい、それが大学に通う動機になったのですね。
木内:はい。私は1994年に入学しましたが、卒業の頃は就職氷河期に突入するところでした。学者になろうと考えていた私は大学院に進むことを決めていましたが、まわりは大変でした。また、私が学んだ「経営工学」については、日本では町工場の衰退やITへの関心の高まりとともに、学科名が変わるなどだんだん減ってしまいました。今では「経営工学科」という名の学科は、日本では僅かしかありません。

2.生産管理で品質と関わるなかでQFDと出合う

――動機はすばらしいのに、研究の舞台が減っていったのですね。
木内:とても残念です。私は工場の現場に関心があり、生産の流れなどの効率化について研究をしていました。ただ、指導教授からは常々、工場経営を考えるには、QCD(Quality:品質・Cost:原価・Delivery:納期)のすべてを学び、トータルで工場を視れるようにならなければならないと教わってきました。玉川大学にはQFD(Quality Function Deployment:品質機能展開)を考案された赤尾先生をはじめ、品質管理を専門とする著名な先生方がおられたので、機会があれば品質管理についても深く学びたいと思っていました。
――最初からQFDの研究室にいたわけではなかったのですね。
木内:はい。ただ、先程述べたようにQCDの大切さを教わってきたので、そこから品質をとらえています。QCDの3要素は密接に関係しています。例えば生産性を上げ過ぎると品質が低下してしまいます。これはDとQの関係です。それではどちらを先に考えるかというと、やはり顧客が望む品質を提供する体制があることが第一であり、その上で生産性向上を目指すことになります。
――なるほど。生産管理の研究も、品質がカギを握っていたのですね。
木内:はい。大学院に進んでからは、生産の研究をしながら品質の研究室、原価の研究室などに個人的に顔を出していました。そのようなこともあり、大学に就職してから大藤先生(玉川大学名誉教授)や永井先生(玉川大学教授)に「QFDをやってみないか」と声をかけていただきました。その頃、日科技連でQFDの研究会が週末に開催されていたので、そこに参加をさせていただきました。それが私とQFDとの出会いでした。研究会では、企業のみなさんとディスカッションがあり、QFDに関するさまざまな意見を聴くことができました。

3.QFDが腑に落ちるまで、足掛け5年かかった

――生産管理が専門だった立場からみると、QFDはどう見えていたのでしょう。
木内:QFDになじむまで、時間がかかりました。私は、もともと言葉がなかなか入ってこないタイプなので、すっきりと理解することができませんでした。実は「QFDとは何か」という最初のところで、5年くらい悩んでいました。少しずつ理解は深まるのですが、いつも「まだ、わかっていない」という状態が続いていました。私の研究対象部署は「製造」や「生産管理」でしたが、QFDでは「開発」や「設計」であり、今まであまり関わり合いがなかったことも影響したと思います。
――5年もひっかかっていたのに、どこでブレイクスルーがあったのでしょう。
木内:私にとっては永井先生の「QFDは情報を整理整頓する道具」という言葉が大きかった。モノの流れと同じように、情報にも流れがある。そう考えることができれば、モノと情報の違いだけで、構造はあまり変わらないのではないかと思えたとき、それまでのもやもやしたものが吹き飛んで、前に進んだ気がします。QFDの対象が情報だとわかったら、すべてがつながっていきました。

4.生産管理の視点からQFDをみる

――木内先生のセミナーは、わかりやすいと評判です。今回のフォーラムでは、どんな人に聞いてもらいたいですか。
木内:これまでQFDを学んだことがない人にも、ぜひ聴いていただきたいと思います。とくに品質機能展開、QFDという言葉だけ知っているという方には、ぜひとも。QFDは具体的に何をするのか、どういうことができるのか、それを知っていただけたらと思います。品質管理では「後工程はお客様」という言葉があります。これは他部署のことを知り、理解することの重要性についても説いていると考えます。例えば設計と製造の関係では、自分が設計したものが実際にどのように製造されているのかを知ることの意味です。そして、そのような場を提供するのがQFDです。

5.聴講されるみなさんに寄り添いたい

――5年もかけて理解しようと悩んだからこそ、わかりやすく伝えられるのですね。
木内:私自身、QFDについて理解したいと5年も悩んできました。私は、日科技連のセミナーでもそうですが、QFDの基本概念など、わかりやすく伝えたい。それには、寄り添う気持ちで進めることを心掛けています。寄り添うということは、いわゆる空気を読むことが不得意な私には苦手としてきたジャンルです。ただ、一方で新型コロナ禍になってからオンラインのやりとりが増えた今、とても大事なことだと考えています。例えば、質問をされる方は、一人ひとり質問するときの背景や文脈が異なっています。質問に至るとき、どんな状況で、どんなことを考え、感じて、その質問に至ったのか。どんな想いがあったのか。そこを、なるべく理解した上でコメントを返すように心掛けています。
――たとえばオンラインでも、一人ひとりとの関係づくりが大切ということでしょうか。
木内:はい。たとえネットを通じての交流でも、ゆっくり、なるべく詳しく、ていねいに進めていきたい。それは、一人ひとりに時間がかかってしまうのですが、オンラインだからこそとても重要なことだと感じています。
――その寄り添うということは、昔から、されていたのでしょうか。
木内:特に新型コロナ禍になってから、進めてきたことです。セミナーでも講義でも、たとえ自分が答に相当するものをもっていなかったとしても、ねばり強く聴き、なるべく答に近いものを返せればと思っています。質問をされた方にも、納得が得られるように努力していきたい。このフォーラムでも、質問してくださる方がいて、意見を言ってくださる方がいれば、時間の許す限り対応していきたいと思っています。どんなテーマをもって、どんな気持ちで聴かれているのか、私も聴きたいし、丁寧に対応していきたいと思っています。

6.今後の動向を把握するために

――講演概要の最後に「今後の動向」とあり、とても気になっています。
木内:ありがとうございます。その言葉は、敢えて入れました。QFDについて、これまでのことを理解することは大切ですが、今後の活用の可能性についてお話させていただきたいと思っています。私が考えている講演のキーワードは「流れ」、「繋ぐ」、「未来」です。最初の二つについては、QFDにより情報の流れをどのように創り、どのように組織を繋ぐかです。最後は未来を見据えたQFDの方法論の活用です。産業界をはじめとする社会の未来に対して、QFDの活用法を提案する予定です。
――未来についての研究とは、わくわくします。
木内:現状把握はもちろん大切ですが、一方で未来志向をもっていないと、どうしても行き詰まってしまいます。今の延長線上で世界をみると、人口推移や技術開発傾向など流れは掴めます。ただ、それでは現状から未来を予測するだけとなり、そこで描けるのは現状が前提の未来となります。
――確かに、私たちは過去の経験に学ぶことで未来がわかると思いがちです。
木内:思考を少し飛ばして、未来の地点から現在を考えていくことで違う景色がみえ、気付きが得られる可能性がでてきます。世界中で誰も経験していない出来事に対して、現状把握から入れば、その対応が後手に回るのは仕方ないことです。

7.未来志向で、思考を飛ばす

――QFDを研究するなかで、未来に興味をもたれたのでしょうか。
木内:これについては、「イノベーション」と「人材育成」をテーマとする研究会で興味をもちました。そこで、今後の社会を考えるためのアプローチを研究しています。
――どんな研究なのか、さわりでいいのですが、ちょっと教えてください。
木内:そうですね。私はもともと想像力があるほうではなく、どうしても現在に引っ張られてしまうので、意識的に思考を未来に飛ばす必要性を感じています。一般的に、未来がどうなるかという根拠について考えていくと「わからない」という結論になります。そこで発想を変えて「飛ばす思考」を持つ。例えば30年後の価値観と、今ある価値観では異なる可能性は高いと思います。
――大変興味深いご指摘ですが、具体的に、どんなことをするのでしょう。
木内:まだ研究の途中ですが、未来で生活をしているつもりでグループディスカッションをすることを試みました。そのときは、2030年のつもりでディスカッションをしたのですが、すごく疲れました…。参加メンバーは、それぞれ2030年はこうなっているというイメージがあるものの、一人ひとり、その内容が異なります。その状況で会話することは、とても難しかったのです。一人の発言を受けたとき、「どういう未来を描いて、この質問をしているのだろうか」と、こちらは必死に推測します。すると、その分野について、自分が考えたことがなかったことに気が付いたりします。
――とても楽しみが広がりました。貴重なお話、ありがとうございました。