(品質経営総合大会)クオリティフォーラム2020 同時開催/第26回品質機能展開シンポジウム

クオリティフォーラム2020
登壇者インタビュー

方針管理とはどんなツールなのか
-その意義と難しさ-

早稲田大学理工学術院教授
日本品質管理学会会長 棟近雅彦氏に聞く

聞き手:ビジネス作家 廣川州伸氏

1. 感性品質を求めて


棟近 雅彦(むねちか まさひこ)

東京都出身。
東京大学工学部反応化学科卒業。東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。
現在、早稲田大学理工学術院 教授を務める。趣味は球技全般。
――まず、棟近先生のプロフィールを教えてください。
棟近:大学に入ったときは応用化学でしたが、卒論のときに希望して入った研究室が、日本の品質管理の創始者と言われている石川馨先生の講座を引き継いだ研究室でした。
すでに石川先生の弟子である久米先生に代替わりしていましたが、その研究室では品質管理をやっていたこともあり、私は学部4年のときから専門が品質管理で、化学とは離れました。その頃、日本初のパソコンができた時代で、コンピュータに憧れていたこともあります。
――それは、1980年代前半、バブルが始まる頃のことでしょうか。
棟近:はい。研究を始めた1982~3年頃、日本は品質で世界一といわれていました。日本で発展したTQC、TQMの全盛期です。アメリカにクルマを輸出し過ぎて貿易摩擦で大変でした。そのころ、さかんに品質ではどんなことが問われるかを議論していました。
やがてバブルが崩壊し、日本企業は経営が苦しくなってコストダウンに走った。お金をかけずにモノを作るという考え方をとり、日本の製品品質は一時、落ちました。そのうち、他国の製品品質も良くなり、テレビや携帯電話の市場も奪われるようになる。
そうなると製造業の品質管理もやりつくした感もあり、サービス業の品質であるとか、ソフトウェアの品質管理が大事だということになりました。そのなかで感性という、すぐに定量化できないものがあるという話から、感性品質に取り組んでみたのです。

2. 数値化できないものを研究する

――定量化できないことを研究するのは、難しそうです。
棟近:感性だけを研究するわけではなく、品質管理の流れのなかで感性という定量化しにくいものを取り上げたのです。品質管理で一番重要なところは新商品開発ですが、それにかかわる話として感性品質というものを考えていました。
不良品を出さないことも品質管理の重要な要素ですが、それだけで満足を得るのは難しい。より魅力的な製品であるため、お客様のそれ以上の要求を満たさなければなりません。
その際、お客さんの様々な要求のうち、簡単に数値化できるものとそうでないものがあります。たとえばクルマなら燃費はリッター何キロという形で品質が数値化できます。しかし乗り心地がいいクルマという要求を数値化するのは難しい。
――確かに、雲をつかむようなところがあります。
棟近:かっこいい携帯電話がほしいと言っても、何がかっこいいのかを測る基準がありません。こうした人間のイメージやフィーリングで評価される品質、計測器で測れない人間の感性で測られる品質のことを「感性品質」と呼んでいます。
乗り心地のいいクルマというだけで設計でがきるわけではなく、製品の材料や寸法などに落ちないといけないけれど、そこがそんなに簡単ではない。どうやって設計のパラメーターまで落としていったらいいか、それが感性品質の研究テーマです。
――感性は、どうしたら測れるのでしょうか。
棟近:人間がイメージで評価しているものですから、人間の頭の中を探るしかありません。脳波で測ればいいといっても、それも難しい。そこで私たちはオーソドックスに利用者に聞いています。
いわゆるアンケート調査を実施し、品質について聞く。その評価の結果と、製品の物理特性や工学的特性がどのような関係にあるのかを統計学的に分析しています。
主観的に評価されているものですから、燃費とか馬力などの数値で測れる特性より、ものすごくバラツキが大きく個人差も出てきます。
そうしたバラツキや個人差については、同じ内容とみられる要素をグルーピングし、セグメント化するなりして、さらに分析します。このような分析を通じて、どういう商品を作っていけばいいのかが見えてくると考えて、研究しています。

3. 新型コロナ禍で苦労が絶えない


――今回の新型コロナ禍で、先生の仕事にどんな変化がありましたか。
棟近:そうですね。感性品質は、新型コロナ禍と直接的な関係があるわけではないのですが人が頭の中で考えたことを、実際に調査で確認する必要があり、その調査ができなくなってしまったことで、重要な影響をもたらしています。
たとえば卒論で感性品質をテーマにした学部生は、これまでならとっくに調査に入っている。しかし今年は外出が自粛、調査対象者に質問することもできなくなりました。
オンラインで調査できるものならいいのですが、実際にモノを見て触って、使って経験してもらって聞く調査が多い。オンラインでも視覚は測れますが、臭覚や触感はだめです。
――卒論は大変そうですね。授業はいかがですか。
棟近:新型コロナ禍で最大の影響は、授業がオンラインになったことかもしれません。理工系の学生の場合、実験がともなうので難儀しています。
私の学科の場合は、ここでなければ絶対にできない実験ではなく、演習問題を工夫したり、リモートで学生に身体を動かしてもらったりして何とか対応していますが、それでも難しい。
私は卒論・修論のテーマで外部の病院と共同研究をすることが多いのですが、そもそも病院に入れません。
テーマは2月か3月に決めましたが、当時はまさかの非常事態になるとは思っていなかった。共同研究も進まなくなりました。
ようやく非常事態宣言は解除されて、いよいよ現場に行こうというときに、先方から「こういう状態なので、東京から来るのはご遠慮願えますか」となっています。

4. 方針管理とはどんなツールか

――講演のテーマになっている方針管理について、教えてください。
棟近:方針管理については、よくわかっている方が多いと思うので、講演の当日は、あまりゼロから説明することはしません。
念のため、ここで確認しておくと、方針管理とは一般にはTQMのコアツールであり、経営方針を達成するために用いられる仕組みと説明されます。
私は,TQMに関わらず,方針管理が持つ機能は組織経営に不可欠なもので,どの組織も実践する必要があるととらえています.それゆえ、すでにJIS規格にもなっていて、理想的な方法論は示されています。
方針管理は、ごくふつうの企業なら、すべての企業が必要な基盤となるツール。企業の経営トップが「今年はこういう方向で」という方針を出し、目標を定め、それによって進めなければ経営は成り立たないというものを打ち出す。
それをマネジメントするわけですが、それは「TQM活動をやるぞ」と宣言している企業だけが展開するものではありません。
――すべての企業に、考えてほしいテーマなんですね。
棟近:例外はありません。私は去年の品質月間のテキストを書かせてもらいましたが、そこではTQMは経営の基盤となるフレームワークであると説明しました。それはどこの会社でもやっている。要は、ちゃんとやっているかどうかの違いということです。
このフォーラムの自分の講演では「こういう規格ができている」とご紹介することにしている。規格ですから、そこに書いてあることは基本的なことばかりで読めばわかるようになっています。
要は当たり前のことを当たり前にやることですが、それがまた難しい。では、どういうところが難しいのか。なぜ、できないのか。そこが重要であり、企業の中でやっていくには、そこに一工夫も二工夫も必要となります。
――今回のセッションでは、そこを考えて聴講すればいいのですね。
棟近:私のセッションでは実践例を語っていただき、それを通じて「こういうところが重要だ」と知っていただくことになります。
具体的には、元祖方針管理ともいえる(株)ブリヂストン様,近年デミング賞やデミング賞大賞を受賞された(株)キャタラー様に、方針管理の実践事例を紹介していただきます。そのとき、方針管理を実践する上で困難な点は何か,それを克服するためには何をすればよいかについても、討論を通じて紐解いてみたいと思っています。

5. 自分の会社に置き換えてみる

――具体的な事例があると、わかりやすいですね。
棟近:わかりやすいけれども、ちゃんと理解するのは易しいことではありません。そもそも、規格には当たり前のことしか書いてない。
年度の方針として打ち出すものは、社長だけが言ってもしょうがない。社員に浸透しなければなりません。では、いきわたるためにはどうしたらいいか。そのやり方は、それぞれの各企業の実情に合わせて、たくさんある。
たとえば方針がでたら、スタッフは、どの階層にもちゃんと社長の意図を理解して、伝わらなければなりません。それが難しい。
――なぜ、そこが難しいのでしょうか。
棟近:規格の中には、方針管理では「こういう道具をつかったほうがいい」と書いてあります。たとえば「年度末の反省をするときにはこういうフォーマットで進めるといい」とフォーマットが出ています。ポイントもでている。一つの事例なのでそれに従う必要はないものの、あえて規格に書いてあるのは最低限、その道具が必要だとみていることです。
うまくやるためには、こうしたほうがいいとも書いてある。そこで一つひとつフォーマットを使いながら方針を書いてみる。
たとえば年度末になったら反省をしなさいと書いてある。いわゆるマネジメントをするには、年度末に反省をするのは当たり前。しかしその内容は年度末に「これはこうだった。あそこは、ああだったね」と、ふつうは起きたことを列挙して終わってしまう。それでは反省になっていません。
――確かに列挙できると安心して、その先にいかないかもしれません。
棟近:そこが問題なのです。規格というものは、当たり前のことを当たり前に書いてある。そこで具体的なところは、自分でアレンジして変えていく。むしろ変えなくてはいけない。ただ列挙するだけでは意味がないのです。
たぶんブリヂストンの場合も、規格そのものではなく、自分なりに工夫をしている。「それはブリヂストン方式」なので、うちでは使えないと思うかもしれない。しかし「当社で同じことをするにはどんな工夫が必要か」と自分で考えることが大切なんです。
すべての企業に通用するツールが規格として書いてあり、一つの事例であるブリヂストンの使い方、工夫の仕方はわかった。そこから自分の会社でまったく同じように進めても、うまくいかない。100社あれば、100社の違った工夫が必要となるはずです。
――すべての企業が必要ということの意味が、よくわかりました。
棟近:方針管理について、どういう効用を期待して使うかは企業の状況によって異なります。たとえば「うちは、社長の言ったことがなかなか伝わらない」という会社なら、方針管理をコミュニケーションの手段として重要だと考えて使うことになります。
そうではなくて「わが社は儲かっているわけではなく、経営目標をちゃんと立てて実現していく能力が欠けている」というのなら、そこを強化することになります。
方針管理を検討するなかで、それぞれの企業の実態に合わせた課題がでてきます。そこで、実際の活動のなかで、課題解決を進めることになります。
――自分事として、カスタマイズして考えるのですね。
棟近:そう、例えばコロナ禍で「わが社はどういう方針で経営を進めていけばいいか」という課題が出てきます。その課題を解決していくのは従業員であり人なので、教育するツールとしてみることもできます。そこで「コロナ禍でも働けるような人材を育成しよう」と考えて教育ツールとすることもできるでしょう。もちろん人財育成の前に、情報伝達のツールであってもいいし、いろいろな課題を解決するツールとして使うということでもいい。
要は、自分の会社の実情に合わせて、ツールを選択し、使いこなせるかどうかということにつきます。方針管理のなかで使うツールも、各社でそれぞれ異なってきます。
――他社の事例をそのまま真似をしても、成果はでない。
棟近:その通りです。たとえばブリヂストンの事例でみれば直接的には「タイヤのこと」で役立つ企業は限られています。
しかし自分の会社に照らし合わせて、たとえば「グローバル化をどう実現していくか」という部分で間接的に参考になるところがあるかもしれません。生産拠点を、どういう見方で置いているのか。そのあたりは参考になるかもしれない。
要は聴く側が、自分の会社と照らし合わせて、その本質を読み解こうとするなかで、「こういうことかもしれない」という気づきになるでしょう。

6. 方針管理を正しく実践する方法


――理想的方法論が実践できればいい。でも、その実践が難しい。
棟近:なぜ難しくなってしまうのか。それが「人間の特性」だからです。たとえば、社長が方針を出す。そのときに「いくつ出しますか?」と聞いたとしましょう。
常識的に考えて、100も出すわけにはいかない。そのとき、よく言われるのが「重点課題にしぼって」方針を出すこと。10も20もあっては集中してできません。
ところが、たいがいの会社は「うちも本腰を入れて方針管理をする」と決めたら、もの凄い数の方針が出てきてしまう。私もときどき企業に行ってコンサルをしていますが、出てきた方針をみて「これは無理でしょう」ということが少なくない。
――ついついたくさん挙げてしまう。一つや二つでは心細いのでしょうか。
棟近:初年度は方針を出すため「当社は、どういうことが問題なのか」と考え始めるわけで、今までやってこなかったことを真剣に考えると、ふつうはかなりの数になる。そのなかで、「重点をしぼって」と言われるけれど、重点をしぼることは、見えている課題を捨てることになる。「これは捨てて、ここだけにしぼって」ということですが、人間は見えているもののために動くもので、捨ててしまうのはやりにくい。「こんなに見えているのに、これをやらないというのは許しがたい」となって捨てられなくなるものです。
――何となく、わかる気がします。
棟近:それが、人間の特性なのです。見えてしまったら、思い切って捨てようとは言いにくくなります。あえてトップは「これでいくぞ」と選択しなければなりません。
ただ、この選択するところからが難しくなります。各社とも、どんどん成長しているときに「しぼれ」というのは、そんなに難しいことではありません。息もたえだえの状態で、これをしたらいいとして出した方針を削るのが難しい。そこをやり切れるかどうかが、経営トップの資質、責任、覚悟となります。

7. 講演はスタートにすぎない

――講演に先立ち、自分の会社の方針を改めて確認し、自分事として事例に向き合うことが重要なのですね。
棟近:そこまで準備して臨めたら理想的ですが、もっと気楽に考えてもいい。そもそも私は講演でいい話を聴こうという考え方そのものが問題だと思っています。
答えを聴きに行くのではなく、自分が持っている課題と向き合い、研究テーマと向き合い、自分の問題としてとらえて「ひょっとすると、その考え方で解決できるかもしれない」と気づくことが重要です。
いい話だから参考にするのではなく、いい話だろうがよくない話だろうが、自分の課題を解決するヒントになるかどうか、そこを考えながら聴くことで、自分ごととして、事例をとらえることができるようになります。
――それは面白いご意見です。
棟近:事例を聞いて、いい話だと思ったところで、それが自分の会社の事業とどんな関係があるのか、そこに思いがいたらなかったら聞いた意味がありません。
本当に話がうまくて、笑いもとって楽しませる講師もおられます。私は、そういうことはできません。しかし聴いてくれたみなさんが、いつか自分の会社の方針を決め、事業を推進するなかで「こういうことかもしれない」と腑に落ちることがあれば、それはそれでよかったと思うわけです。
今回のクオリティフォーラムの本「方針管理セッション」が、そんな発見につながる機会となることを願っています。本セッションは、あくまでもきっかけで、スタートを切れたら次につながります。

8. 顧客価値創造を進める

――視点を変えて、聴講するみなさんが期待している顧客価値創造、組織強化の連携などについても教えてください。
棟近:テーマとして方針管理を掲げていますが、方針で外すことができないのが顧客価値創造。それを私は「いい品質のモノをつくること」と考えています。それが私たちの最終的なゴールになります。
いい品質のモノをつくることで、今年度はこれくらいの利益をあげたいと思っている社長もいるかもしれません。それはあくまでも顧客価値創造が出来たら利益がでるという話で、目指すべきは顧客価値の創造です。
しかし、方針を立てるだけで、ただボーっとしていても顧客価値創造はできません。それを実現するためには、組織の能力をあげていかなければなりません。その道具として方針管理が使える、それも重要なツールになると私は思っています。
――方針管理は、顧客価値創造をする組織強化のツールでもあるということですね。
棟近:組織能力の強化としてみると、方針管理を人材育成の道具として使うことができますが、そこは重要です。
社長が方針を出し、社員がその通りにやれば成功しますというようになっていればいいのですが、社長がすべてにおいてこと細かに指示を出すわけにはいきません。
それゆえ結局は、実際にやってくれている人が問題。そこで組織能力が問われることになる。その意味でも方針管理というツールの使い方を日ごろから学び、使えるようにしておくことが必要とります。
――それを実現するには、どんな心構えが必要でしょうか。
棟近:言われたことしかやらない学生もいます。学生のなれのはてが社員だという見方をすれば、企業の中にもそういう人がいる可能性がある。細かい指示がなくとも、自分で考えて行動するという基本的なことができている組織が、言われたことをただやろうとする組織より強いことは明らかでしょう。
品質というと不具合がでないことだと考えがちですが、それは違う。品質とは、まさに顧客価値創造です。それは昔から変わっていません。顧客価値創造を中心に経営を考えるということは、品質を重視して経営を考えることでした。
これもまた口でいうのは簡単なのですが、顧客価値創造のためにどんな工夫をしていますかと問うと、そう簡単なことではないとわかります。とくに新型コロナ禍などがあると、品質の話が、どこかにとんでいってしまったりする。
――確かに、新型コロナ禍でも自分たちの事業や雇用をどう守るかに目が向きました。
棟近:ある時点では、それも仕方ないことですが、基本が顧客価値創造にあることは外せません。新型コロナ禍がいつ終息するのかは不透明ですが、企業はどんな環境の変化があっても、それに対応して新しい価値を創造していかなければなりません。
お客様を満足させるモノそのものが、新型コロナ禍で変わっていく。しかし、お客様を満足させる方法については普遍です。その意味で方針管理の重要性は、新型コロナ禍の状況にかかわらず変わりません。
――方針管理では、まず方向を定めます。経営トップは今、方向性を打ち出す必要があるのでしょうか。
棟近:私は、それが必要だと思います。新型コロナ禍でも、そこはブレないほうがいい。コロナ禍の今だからこそ、方針を明確にして管理していくことが必要となる。
方針がでてこなければ、大きな変化にながされていくだけで、社員はどのような行動をしていいか、わからなくなるでしょう。
新型コロナ禍にあってなお、会社は今までの方針通りに進むのか、別の方向に舵を切るのか。そこがまずわからなければ、どう進んでいいのか現場は混乱するばかり。繰り返しになりますが、そこで重点をしぼり「これでいこう」と方針を立てなければなりません。

9. TQMは、全社的な品質管理

――最後に、全員参加の経営についても教えてください。
棟近:全員参加は、TQMでもずっと言い続けていることです。若いころ、私はよくわかっていなかった。ここ10年くらいで、その重要性を感じられるようになってきました。最初は全員参加というと運動会のように思いましたが、そこにはいろいろな意味があった。
方針管理と関係してくるのは「みんなが同じ方向を向いてやる」という点。バラバラに動くより、同じ方向を向いたほうが、組織は強くなります。
社長が方針を出したときに、みんなが黙って一つひとつの指示に従うのではなく、一人ひとりが自分で考えてやってくれたら、そのほうがいい。そこにもっていくのは簡単ではないけれど、それが経営に全員参加であたることだと私は思っています。
――一人ひとりが、経営トップの方針を実現することの意味を考えたら強そうです。
棟近:たとえばうちの大学で「経営方針」を学びたいと学生がやってくる。社長が何をするかを学びたいという。それはわかるけれども、経営というものは社長一人でするものではない。全員が経営者のマインドがもてる組織づくりが経営課題だと話します。
私は経営とは「組織の運営」だと思っています。組織の運営は社長がでてきて号令をかけたら動くかというと、そんなに簡単なものではない。
部長は部長の役割を果たし、課長は課長の役割を果たす。今年入った新入社員にも、それぞれ役割がある。それぞれがどう行動すればいいか、経営として考えなければなりません。
――TQMは、全社的な品質管理だといわれています。
棟近:そこで全社というのは、日本独自のことです。アメリカで始まった品質管理は、その道の専門家がいて、その人たちががんばって進めるものでした。ところが日本にくると、そうはならなかった。
最終的にお客様がよろこぶモノをつくるためには、製造だけがんばってもいけない。設計もあり保守もあり、販売もあり、みんなががんばることでお客様の満足を生む。そこで全社的という言葉がでてきました。
このあたりは、私の講演でもふれる予定です。TQMはTotalQualityManagementですが、QM(クオリティマネジメント)がトータルになるのは当たり前のこと。同じように経営が全員参加型なのは当たり前のことでしょう。
いつの時代でも経営課題はあり、もっとよくなろうという思いがあります。今はみんなが新型コロナ禍で、どうすればいいのだろうという迷いがあります。これは日本全国、初めての体験をしています。
――経済が大変なら、経営トップもまた、方針管理が大変になりますね。

棟近:東日本大震災のとき、このような悲劇は二度と起きないと思いました。でも新型コロナ禍が始まったとき、これは東日本大震災より厳しい経済状況になると感じました。
東日本大震災は、とても悲惨な出来事でしたが、それでも、みんなで元気になろう、復興をしようという行動を押さえるものはなかった。しかし今回は何もやるなといわれている。
経済的にはリーマンショック以来といわれていますが、それはすぐ超えると思いました。これだけ自粛で、何もやるなといわれると、何をすべきかわからない。金もない状況なので、方針を出すときに、しぼらざるをえなくなる。
私達が問われているのは、この時代にふさわしい方針を打ち立て、それを全員参加の経営で乗り切ることだと思います。
なかなか元気の出ない日常が続いていますが、エグゼクティブセミナーでは、ただ新型コロナ禍で大変だという話ではなく、方針管理というツールを使いながら、聞かれたみなさんが元気の出る講演とセッションにしたいと思っています。
――当日、事例の紹介ともども、楽しみにしています。ありがとうございました。