クオリティフォーラム2022 登壇者インタビュー

楽天グループの品質経営と
それを支える仕組み

~「楽天エコシステム」内70のサービス品質の横串を通し、
経営に貢献するQCサークル活動で現場を強くする!~

楽天グループ株式会社 オペレーションディビジョン
グループ品質部 部長 菊池 佐知子氏に聞く

聞き手:安隨 正巳(日本科学技術連盟 品質経営創造センター 部長)
※記事まとめ 中村 紗英(日本科学技術連盟 品質経営創造センター)
菊池 佐知子 氏
菊池 佐知子 氏
楽天グループ株式会社
オペレーションディビジョン
グループ品質部
ジェネラルマネージャー
2006~ 楽天㈱ (現楽天グループ株式会社) 楽天市場事業 編成部入社
2012~ 国際部にて海外楽天市場の立ち上げ、PMI等に従事
2019~ コマースカンパニー 品質管理部 CS推進課 シニアマネージャー
2020~ オペレーションディビジョン グループ品質部 ジェネラルマネージャー(現任)
楽天モバイル㈱ 品質管理本部 ヴァイスジェネラルマネージャー(現任)

1. インターネットビジネスに惹かれ、楽天に入社

――菊池様はどういったキャリアをお持ちか、お教えいただけますでしょうか。
菊池:大学を卒業し、システムエンジニアなどの仕事に就いていたのですが、その過程で形のないサービスの提供に興味を持ち始めました。その当時、ITは新しい業界であり、中でもインターネットビジネスというものに惹かれ、2006年に楽天に入社しました。もともと、新しいものに興味を持つ性格であり、これから間違いなく発展していく新しい領域に挑戦し、自分自身の価値もそこで見出していきたいと思っていました。
――当初は、どのようなお仕事を担当されたのでしょうか。
菊池:当初は「楽天市場」の編成部にてキャンペーンや、メールマガジンの制作を担当していました。制作会社とのやりとりを通じてWEBページのリリース等もやっていましたね。
その後、2012年に国際部に異動となり、「楽天市場」の海外事業の立ち上げ、例えば楽天マレーシアや楽天シンガポール等の支社の立ち上げに関わりました。そこでは、現地のキャンペーンをハンドリングする編成部隊に日本のキャンペーンのやり方の教育をするなど貴重な経験をさせていただきました。
―― 一度、楽天を退職されたとお聞きしました。
菊池:そうなんです。2016年に退職しました。ただし、翌年に再入社しました。初めて楽天を外から見て、自身が今まで実践してきた「楽天主義」や、社員が同じ方向を向きチームワークよく仕事を進めていける社風など、私にはとても合っていたんだなぁ、と離れてみて強く実感しました。
楽天という会社は、外に出て違ったチャレンジをして復帰する人も多数おり、再就職者向けの案内が中途採用ページにあるほどです。多くの再就職者がいる背景は楽天がとても働きやすい会社だからだと思います。一つ例を挙げると、
育児休暇、出産休暇後の復帰率が男女ともに95%以上(2021 年実績)にもなるほどです。
再入社後は、楽天市場の品質管理部に所属し、コールセンターの担当管理をしていました。そこで初めて品質の仕事に出会い、2年ほどお仕事をしてから、グループ品質部で楽天グループの品質を統括する業務に就きました。

2. 楽天の大好きなところ

――楽天のよいところをあえて1つ挙げるとすると何でしょうか。
菊池:「楽天主義」ですね。これは、楽天グループの事業を通じて実現しようとしている価値観・行動指針を提示したもので、「ブランドコンセプト」「成功のコンセプト」の2つで構成されています。

ブランドコンセプト

①大義名分 -Empowerment-
②品性高潔 -気高く誇りを持つ-
③用意周到 -プロフェッショナル-
④信念不抜 -GET THINGS DONE-
⑤一致団結 -チームとして成功を掴む-

成功のコンセプト

①常に改善、常に前進
②Professionalismの徹底-
③仮説→実行→検証→仕組化
④顧客満足の最大化
⑤スピード!!スピード!!スピード!!
「楽天主義」は社内の第一線からトップまで全員の共通認識価値観や文化であり、皆が同じ方向を向いて仕事を進めていけるところがよいですね。外の会社で、これを一から説明しなくてはならなかった時に驚きました。世の中では決して「当り前じゃないんだ!」と。
したがって、皆が自然に助け合ったり、スピード重視の急ぎ案件時もコンフリクトが起こらない所も働きやすい理由の一つです。
――「ダイバーシティ」という言葉がトピックとなる前から、貴社はダイバーシティの実現に取り組み、日本企業における先駆け的な存在といえると思っています。
菊池:その通りだと思います。100を超える出身国・地域の方で構成されていて、そういった方々とディスカッションするのはもちろん、その方々の意見で会社のルールや体制に活かされています。
また、かなり優秀な人材がダイバーシティになったおかげで獲得できてますので、競争力は高いと感じますね。
――「社内公用語の英語化」もその一つですね。
菊池:会議や組織によっては外国籍の方がマジョリティーになることもあり、自然な感じで英語が公用語になっていったので全く違和感はありません。

3. 楽天グループにおける品質の考え方

――菊池様は、グループ品質部オペレーションディビジョン・グループ品質ゼネラルマネージャーのお立場ですが、グループ品質の社内の位置付けや役割を教えてください。
菊池:楽天は70のサービスを持っており、これらサービスを、楽天会員を中心としたメンバーシップを軸に有機的に結び付けることで、他にはない独自の「楽天エコシステム(経済圏)」を形成しています。そのサービスの中にも品質管理部はあるのですが、多岐に渡るサービスを統一した基準や、楽天エコシステム全体での品質をリードし向上させていくところを担っているのがグループ品質部になります。
楽天の品質活動体制
楽天の品質活動体制(同社 webサイトより)
――非常に重要な役割を担っていますね。
菊池:当たり前の話なのですが、お客様はどのサービスを使っても「楽天」と思いますので、そこで品質レベルのばらつきを出すわけにはいきません。一定以上の品質に保ち、統一感を持たせようといったところが当部門の重要なミッションの一つです。一つのサービスでも満足度が損なわれることがないような品質保証をしなければなりませんし、リスク管理も徹底したいと思っています。それを実現できるのはグループ品質部だと考えています。
――貴社では、品質の定義はどのようになされているのでしょうか。
菊池:モノではなくサービスの品質、例えばUXや楽天ポイント付与キャンペーンのわかりやすさ、メルマガのコンテンツがユーザーに合っているのか、カスタマーサポートの質、システムエラーが起こらない等、このようなお客様の満足や期待を損なわないサービスを品質と定めています。

4. 三木谷社長の品質への思い入れ

――トップである三木谷社長の品質への思い入れも、大きいものがあると推察します。
菊池:品質への思いはかなり強いですね。当社で週に1回実施している全社員参加の朝会(あさかい)でも、常に「クオリティ」という言葉を発せられています。先日も「QCサークルは会社の最も重要なプロジェクトの一つである」と強いメッセージを発信してくれて、品質部門としてもとても仕事が進めやすい環境にあるといえます。

5. 「楽天エコシステム(経済圏)」内の70のサービス品質に横串を通す

――改めて、品質の横串を通す重要性をお聞かせください。
菊池:楽天は新しいサービスがスピード感をもって常に生まれてくる会社ですので、そのサービスの品質がお客様の要求を満たさないこともあります。したがって、我々は品質目標をどこに置くべきかを決め、サポートも必要となります。これは、事業体ごとの縦割りでは実施が難しく、横軸でないと出来ないなと思います。
――基準づくりも重要になってくると思います。
菊池:その通りです。全サービスの品質保証を見て、「楽天」としてはどうなのか、我々の定めている品質保証基準を満たすようにレクチャーや導入も我々が担っています。基準に関してはISO9000の認証取得はしていませんが、ISO9000以上をベースに品質保証基準を定めています。
――品質向上に関する様々な活動をご紹介ください。
菊池:まず活動の大前提として、当社では「全員参加」に注力しています。具体的な活動としては、NPS(Net Promoter Score)やQCサークルや品質保証などのキーワードがあるのですが、その活動を全員が参加するグループ朝会(毎週1回実施)にて説明しています。朝会の内容は、KPI・環境テーマ・各カンパニーの説明(活動の計画)等、毎回違った内容をシェアしており、グループ品質部としては「クオリティ朝会」として、前記活動の報告・進捗・NPSのスコア・QCサークルの参加人数等、品質のKPIを共有・展開しています。

また、各カンパニーには品質担当を置いており、強い連携をとりながら活動をしています。
現在、品質保証部は新たにグループ品質管理室(改善活動、リリースチェックプロセスの構築)・グループCS室(楽天グループの総合窓口)が増え、4グループ体制となりました。グループのCS部門として、カスタマーハラスメントの対応基準・苦情対応のサポートを企画作成し、現在は苦情対応部署の発足を進めている等、品質の重要性を鑑み、組織を拡大中です。
――品質向上委員会と品質保証分科会も設置されています。
菊池:品質保証分科会はリスクコンプライアンス委員会の直下にある会議体になります。
品質向上委員会は競合に勝つ顧客価値を提供するための魅力品質創生の役割を担っています。“魅力品質”は“攻めの”品質に値する品質になりますので、これからさらに重要になってきます。

6. 価値創造、企業価値創造における品質保証

――価値創造、企業価値創造における品質保証に関して、事例があればご紹介ください。
菊池:「サービス品質」向上に重点を置いておりますが、様々な企業様でなにを基準にするかは悩まれるところだと思います。一つの事例ですが、メールマガジンの中にお客様の評価・アンケートがすぐ即座に取れるアンケートボックスを用意し、良し悪しを見て基準作りを行っています。メールマガジンの状況と基準さえわかれば、その基準を上げていくことに注力すればよいわけです。
方針・基準策定事例
このように、まず「みえる化」をして、その上で目標設定を行う。そこでベストプラクティクスが生まれれば、横展開をして改善の効果、スピードを上げていくようにしています。
――メールマガジンと一口でくくっても、貴社の中で膨大な種類と数があるかと思いますが、制作方法の標準・基準はあるのでしょうか。
菊池:標準・基準について、広告のある、なしは各部署によるので任せていますが、制作によってミスが起こらないようにQCサークルを活用し、改善しています。
メールニュース開封率や回答率が芳しくないことは多々ありますが、数多くの配信で傾向を掴み、改善に努めています。当社では、QCサークルは全員がやることになっているので、例えば売上をどう上げるのか、メールマガジンの開封率を上げるにはどうしたら良いのか、などもQCサークルのテーマにしています。これに関しては、製造業から転職されてきた方からは「ユニークですね」と言われることも多いです。何でもQCサークルでやってしまうのが楽天流なので、その部分は結構面白いと思っています。

7. 楽天グループの経営に貢献するQCサークル活動

――QCサークル活動を2016年から開始されておられます。
菊池:QCサークルは、100%全員参加を目標にしておりますが、やっと現在は従業員の半数以上が参画している状況です。同部門内で同じ仕事をしているチームと、最近増えているのは、開発と事業側のクロスビジネスといった部門を跨いだチームを編成し、問題解決を行っています。
それと、結構ユニークなところでは、SDGsのプロジェクトを社外店舗の方も巻き込んで進めたりもしています。店舗の方も参画への違和感もなく、最終的には店舗側の方が発表会で発表をしてくださいました。その結果、店舗側にも、売上の増加、新商品や自身の店舗の魅力が発信できることに加え、経営の方針が一つ決まることで社員さんや社長さんのモチベーションが上がり、よい影響や価値提供ができているな、と感じています。
――充実した取り組みですね。素晴らしいと思います。
菊池:しかしながら、まだ約半数の従業員はQCサークルに参画していませんので、そこは課題です。新たな試みとして、今年度から新入社員研修の中で、テーマを決めてQCサークル活動を模擬体験してもらっています。これにより、配属前に問題解決の経験をすることでQCサークルの意義や重要性が理解できます。また、各部で参画率の目標設定をしており、スケジュールより早く進捗していますが、数年後には100%を目指して努めていきたいと思います。

楽天の品質保証体制(同社 webサイトより)
――QCサークル活動導入当初のご苦労はありませんでしたか。
菊池:最初はとても大変でした。サークルメンバーからすると「通常業務+α」となってしまうため、社内での反発もあったのですが、「QCサークルは重要!」と三木谷社長をはじめ、役員陣自らが発信して行ったことで、現場も非常に協力的に参加をしてくれています。
後は、事務局として、現場が活動をやりやすいようにQCサークルのテーマ解決期間の調整や、ポイントを押さえて効率よく活動が出来るように、常に工夫をしています。これによって、QCサークルメンバーの皆さんが参加しやすいようなることを目指しています。
――コロナ禍になり、今まで対面で実施していたあらゆるものがやりづらくなっている部分がありますが、そのあたりの会合の進め方など工夫などお聞かせください。
菊池:例えば、特性要因図等QC手法のオリジナルツールを内製して提供したり、研修やレクチャーを動画撮影しオンデマンド化して必要に応じて視聴できる環境を作ったりして、メンバーの空いている時間に活用してもらうような工夫をしています。
また、イントラネットに各チームのページを作り、進捗等の情報がいつどこにいても誰でも見える化出来る仕組みを導入したりしました。
要は、「現場がいかにQCサークルをやりやすい環境を作るか?」を常に考えています。
――QCサークル活動について、「やらされ感」、「発表会直前に慌ててリーダーが一人で資料を作る」等、ネガティブな声を聞くこともありますが、貴社ではいかがでしょうか。
菊池:当社でも、研修後のアンケートにそういったネガティブな声も実際にありました、必要に応じて週1回30分程度リーダーを集めて、活動のポイントのレクチャーや進捗の共有を図るリーダーミーティングを行い、他のリーダーの進め方を参考にしてもらうようにしたり、リーダーが資料の多くを作成したチームのメンバーの資料作成能力が上がらなかったという結果から、全員にタスクを振るようにキックオフ時点で説明をしたり、アンケートの結果を元に次回のQCサークル開始時までに改善施策を検討し導入するようにしています。
――QCサークルの活性化には、事務局が重要な役割を担うわけですね。
菊池:業務が忙しくて決まった時間にメンバーが集まれない等の問題が発生してしまっている場合、事務局がチームにヒアリングを行い問題の確認をします。そして、個別フォローに入り、一緒に会合に参加し、立て直しを図ります。それでも難しい場合は現場を優先し、次のタームからの参加に切り替えなど柔軟に対応をするようにしてします。
――QCサークルの管理者や推進者の役割も欠かせませんね。
菊池:その通りです。これに関しては、各カンパニーのマネージャーの教育が重要になってきます。これによって、配下のメンバーがどんどんQCサークルをやるにつれて、どんどんよいアドバイスが出来るようになってきます。もちろん、管理者や推進者向けのマニュアルも作成していますので、皆さんの経験値が積みあがってきているのを感じています。

発表会もとても重要な場です。発表会は全カンパニーから選ばれた3つのQCサークルは三木谷社長の前で発表し、コメントやアドバイスもいただけます。また、発表された改善内容が全社(水平)展開が決定したりすることもあります。受賞サークルには報酬として楽天ポイントを贈呈しています。

8. 品質が経営にインパクトを与える

――楽天の描く成長戦略と品質経営の今後について
菊池:中長期計画におきましても、品質が経営にインパクトを与えられるように推進したいと思っています。特に先ほども申し上げました通り、エコシステムに関しましては品質のみならず顧客価値創造ができたらなと考えています。

例えば、ポイントのプログラムであったりですとか、IDをキーにしたメンバーシップサービスが色々使える所が、楽天のエコシステムだと思いますので、そこをNPSでお客様の声を聴き、こういった事が出来るのではないかといった提案が出来ることは価値創造につながってくると思います。
――DXというと顧客の行動データを思い浮かべますが、菊池様のお立場ですとNPSスコアであったり、品質にまつわるデータをDX的に活用をして…といった部分での貢献になってくるのでしょうか?
菊池:そうですね。楽天は大量のデータを所持しているので、既存のデータとアンケートデータをぶつけたりして、属性の傾向を把握するクロスが出来るツールも開発し、分析レポートを仕組化するといったことにも現在取り組んでいます。

9. 製造業のTQM、QCに関するノウハウをIT業界に持ち込みたい

――本講演で特に聴講者に伝えたいメッセージがあればお話しください
菊池:当社における品質向上活動は、まだまだ道半ばです。全社で横串を通した品質活動、個々のサービスの品質をどう上げていくか、など常に試行錯誤を続けており、これからの展開がとても重要と思っています。新しい取り組みや実施方法を社内にどんどん拡げていかなければなりません。
――まだまだ、成長途上ということですね。
菊池:むしろ製造業の方々が長い歴史の中で実施されてきたことをIT業界に持ち込み、学びたいですし、逆にIT業界の持っているノウハウかを製造業の皆様に活用していただきたいとも思っています。お互いを高めあっていくことができれば、さらに成長できると考えていますので、今回のクオリティフォーラムでも私も勉強をさせていただくつもりでお話をしたいと思います。
――貴重なお話をありがとうございました。フォーラムでの講演が本当に楽しみです。