(品質経営総合大会)クオリティフォーラム2020 同時開催/第26回品質機能展開シンポジウム

クオリティフォーラム2020
登壇者インタビュー

デジタルトランスフォーメーションによる
新しい価値の創造

株式会社東芝 デジタルイノベーションテクノロジーセンター
チーフエバンジェリスト 福本勲氏に聞く

聞き手:ビジネス作家 廣川州伸氏

1. エバンジェリストとしての責務


福本 勲(ふくもと いさお)

株式会社東芝 デジタルイノベーションテクノロジーセンター チーフエバンジェリスト。
1990年に東芝に入社後、製造業向けSCM、ERP、CRM、インダストリアルIoTなどのソリューション事業立ち上げやマーケティングに携わり、現在はデジタル事業の企画・マーケティング・エバンジェリスト活動などを担う。2015年から一般社団法人インダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ(IVI)のエバンジェリストを務める。その他、複数の団体で委員などをつとめている。2019年12月にフロンティアワン 鍋野敬一郎氏、電通国際情報サービス 幸坂知樹氏との共著で「デジタルファースト・ソサエティ」を出版している。
――いただいた名刺の肩書に「チーフエバンジェリスト」とあります。最近、注目されている職種です。
福本:この4月から、エバンジェリストの肩書となりました。デジタル化のトレンドや最新テクノロジー、自社ソリューションの特長などをわかりやすく伝える伝道師(Evangelist)の役割を担っています。
――SBクリエイティブ社「ビジネス+IT」やArm Treasure Data PLAZMAなどにWebコラムの連載もされています。
福本:はい。またこれらのWebコラム連載と併せ、デジタル化時代に向かっていくためヒトやモノ、情報、知識が集まる場として東芝デジタルソリューションズのオウンドメディア「DiGiTAL CONVENTiON」を2019年9月に立ち上げ、編集長を務めています。
「DiGiTAL CONVENTiON」では、経営、イノベーション、テクノロジー、共創の事例や、イベントのレポートなども発信しています。ぜひ、こちらもご覧いただき、いろいろな方から、ご意見をいただければと思っています。
私がこういったWebメディアの連載を行ったり、オウンドメディアの編集長の役割を担ったりしているのは、みなさんと今、何が起きているかを共有し、何をしていかなければならないかを一緒に考えていきたいからです。
デジタルトランスフォーメーション(DX = Digital Transformation)をもたらす第四次産業革命の時代に起きていること、やるべきことを多くのみなさんと共有していくことは、とても大事なことだと感じています。
――2019年12月に共著「デジタルファースト・ソサエティ-価値を共創するプラットフォーム・エコシステム」(日刊工業新聞社)が発刊となりました。
福本:「デジタルファースト・ソサエティ」も、DXとは何で、どのように取り組んでいけばいいのかについて、みなさんと共有したいという想いで執筆しました。
これからの日本では生産年齢人口が減り、その結果、総労働時間も減少し続けます。一定時間内に生み出せる付加価値を高めなければ、生み出す総付加価値が減るということになります。
昨今、働き方改革が注目されていますが、どうしても労働時間の削減ばかりに目が行きがちです。しかし、働き方そのものを変えずに労働時間を削減すると、単に総付加価値が減って企業が競争力を失うだけになります。単位時間あたりの付加価値を高めるため、デジタル技術を使う必要性もでてくると考えています。
――新しい価値を創造するため、デジタル技術を積極的に使うということでしょうか
福本:何が何でもデジタル技術とは思っていません。デジタル技術に任せるところは任せて、人は「人である必要があるところ」に集中する働き方に変えていくことが必要だと考えています。
製造業において、日本の強みは現場力や熟練技術者による匠の技にあると言われてきましたが、技の伝承という点に課題があるとも言われてきました。この課題への対応と生産性向上を両立するためには、技能を「人から人」へ受け渡すだけではなく、「人から機械へ」受け渡す考え方も必要でしょう。
ただ「人から人へ」技能を伝承する場合も「人から機械へ」伝承する場合も、それらの知見を「見える化」することが求められます。人にしかできないところの見極めができれば、デジタルへの伝承も可能になるはずです。
また技能をデジタル化して伝承することで、AI(人工知能)の活用にもつながり、違った切り口の見方を提示できる。そうなれば人とAIで相互に知識を補完することも可能ですし、技術を組み合わせることで新たな知見を生み、新しい価値を生む源にもなるかもしれません。
――2018年、東芝は世界有数のCPS(Cyber-Physical Systems)テクノロジー企業になることと、その方向性を宣言されました。
福本:はい。CPSとは実世界(フィジカル空間)にある多様なデータをセンサーネットワークなどで収集し、サイバー空間で大規模データ処理技術等を駆使して分析・知識化を行い、そこで創出した情報・価値によって、産業の活性化や社会問題の解決をはかっていくものです。
東芝は、製造業として永年に亘り培ってきた社会インフラから電子デバイスに至る幅広い事業領域の知見や実績と、情報処理やデジタル・AI技術の強みを融合し、CPSテクノロジーを駆使してビジネスに新たな付加価値を創出し、社会のさらなる発展に貢献していく取り組みを進めています。

2. ソリューションビジネスの経験を活かす


――エバンジェリストになられるまでのキャリアを教えてください。
福本:私は1990年に東芝に入社したのですが、以来一貫して製造業をお客様向けのソリューションビジネスにかかわってきました。
SCM(Supply Chain Management)やERP(Enterprise Resources Planning)、CRM(Customer Relationship Management)、そしてIndustrial IoTなどのソリューション事業に携わってきました。
キャリアとしてはCRMソリューション事業の従事期間が一番長かった。そこでは自社製ソリューションの立ち上げに関わりましたが、上流のコンサルティングからシステム導入、実際に運用して成果を出すまで大型プロジェクトを経験してきたことが、自分の財産となりました。
――それで東芝にいながら、東芝以外の日本の製造業に関わってこられたのですね。
福本:はい。CRMというと多くのみなさんが営業系の効率化、いわゆるSFA(Sales Force Automation:営業支援ツール)のようなものを思い浮かべるかもしれません。
しかし私が主に担当していたのは、製品寿命が長い製品を扱う製造業のお客様の顧客マーケティング情報の管理やアフターサービスマーケットの革新などでした。
寿命の長い製品をつくって提供する製造業が、お客様と長くつきあっていくなかではアフターサービス・アフターマーケットにおけるお客様との接点、お客様データなどの一元的な管理が欠かせません。アフターサービス・アフターマーケットのデータには保守点検の履歴、消耗品の補充履歴なども含め、お客様に関連するものが多数含まれます。
製品を提供する製造業から見れば、お客様の使用期間が10年、20年と続いた後、再び自社製品にリプレイスしてほしいという想いもあるはずですし、その間の保守サービスや消耗品提供も自社が行いたい筈です。こういったデータを活用したお客様の製品使用期間におけるCS(Customer Satisfaction)の維持・向上の取り組みが、企業の重要な資産になる筈です。
――コンサルティングのときにも、その経験は貴重になりそうです。
福本:マーケティング情報を活用したコンサルティングなどの経験もしており、その中でも、データの取り扱いを進めてきました。そのデータも今では「21世紀の石油」といわれる貴重な経営資源になってきました。入社以来、私がソリューションビジネスを通してずっとデータを取り扱う仕事をしてきたことが、今の仕事につながっていると思います。
――ところで、日本の製造業の強みはどこにあると思われますか
福本:日本の製造業の強みは、現場の柔軟性にあると思います。たとえば1つの生産ラインで複数種類のボディータイプの自動車を作るには、設計から製造装置まで、各部門の調整が必要になります。日本の自動車メーカーでは、何十年も前から、それを実現しています。
昨今は顧客の多様なニーズに対応したものづくりが不可欠になっており、ドイツの第四次産業革命の目的の一つも「マス・カスタマイゼーション」であると言われています。市場の要求の変化に対して現場が柔軟に対応できることが日本の強みでしょう。

3. 新型コロナ禍への対応

――コロナ禍で大変な時期ですが、DXのポジショニングは変化しましたか?
福本: 新型コロナ禍の中で、働き方ひとつをとってみてもデジタルを活用した、非接触で、時空間を超えたコミュニケーションを前提としたワークスタイルへのシフトが急速に進んでいます。それゆえDXへの取り組みも加速していくと思います。
このような状況下では、新しい事業オペレーション、新しい働き方、共創、イノベーション、それらを実現するインフラ、プラットフォームも、従来にもまして求められると思いますし、そこで行われる施策は、DXにつながると思っています。
DXは、スピード感をもって推進する必要があります。それが企業も個人も、ともに生き残るための重要な要素となってくると感じています。
――コロナ禍では時間と空間を超える働き方が重要になるということですね。東芝での取り組みはどうなのでしょうか。
福本:東芝では、新型コロナ禍以前からリモートワークの環境を整えてきました。それゆえ、他社に比べて比較的スムーズに新型コロナ禍に対応できたと思います。
2020年2月に東芝では社長直轄の「総合COVID対策本部」を立ち上げ、国内全従業員を対象に、在宅勤務や時差通勤の推奨をはじめました。
私も今日はこの取材があるので出社しましたが、基本はテレワークを継続しています。会社としてはコア無しフレックス制や変形労働時間制勤務なども進めており、人と人との接触機会を減らすようにしています。
――福本さんは大学で講義をされることもあると聞いています。新型コロナ禍での講義はリモートで行われるのですか?
福本:はい。オンライン講座には何よりも「時間と空間の制約を超えて講義が成立する」というベネフィットがあります。
新たな発見もありました。これまでオフラインの時は質疑応答時間に質問がほとんどでなかった。ですが終わった後に個々の学生がバラバラと聞きに来る。しかしオンライン講義の際は開始時に「質問があったらチャットで入れておいて」と言うとたくさん質問がきます。
――逆に、オンラインコミュニケーションのマイナス部分はありますか?
福本:人には、相手の発言だけではなく、そのしぐさなどを五感全体で受け止めて、反応するところがあります。オンラインでは視覚や聴覚での伝達はできても、触覚、臭覚、味覚や、第六感を伝えるのは難しい。オフラインの壁を超えられない課題は、そこにあると思っています。

4. パネラーに期待すること


――今回、DXによる新しい価値の創造というテーマでパネルディスカッションのモデレータをお願いしています。
福本:私の自己紹介は最初の10分くらいにして、あとの時間はパネラーの方に質問してディスカッションをしたいと思っています。DXの進むべき方向や進め方に悩む企業や実務者は多いと思われるので、その参考となる話が引き出せたらいいなと思っています。
DXというと、デジタル技術による効率化だと思われるかもしれませんが、既存のビジネスをデジタル技術により効率化するのは「DX」ではありません。東芝では、それを「デジタルエボリューション(DE)」と呼んでいます。
それに対して、ビジネスモデルや自社の立ち位置そのものを変革する取り組みの手段としてデジタル技術を活用していくものを「DX」と位置付けています。
――なるほど、いわゆる改善の段階では、まだ「DE」であり、新価値創造に向かっていく取り組みが「DX」ということになりますね。
福本:そのように考えています。今回のパネルディスカッションでは、もともと製造業であり、今はその枠組みを超えて新しいビジネスを開発し提供しているコニカミノルタさん、データプラットフォームビジネスを展開しているトレジャーデータさん、また企業ではなく、いろいろな企業の経済活動を向上させるための政策立案などをされている立場の経済産業省さんという、三者三様の視点をもつパネラーのみなさんが参加されます。
その三者三様の立ち位置から、日本のDXへの取り組みが、どのように見えていて、その取り組みがどう変化していくのかを伺いたいと思っています。その結果、三者の共通点、相違点が浮き彫りになるといいと思っています。
――それぞれの立ち位置が違うところが興味深いですね。聴講者としては、どこに注目しておけばいいでしょうか。
福本:まず、なぜDXが必要だったのか。そこに注目していきたい。これは私の解釈になりますが、第四次産業革命で、産業構造が大きく変わってきています。もともとBtoCでGAFA(Google(グーグル)、Apple(アップル)、Facebook(フェイスブック)、Amazon(アマゾン))などが行ってきた変革が、BtoBに波及してきていることがその一つの側面だと思っています。そこには、プラットフォームと呼ばれている場を提供するプレイヤーと、場に参加するプレイヤーがいます。そのエコシステムによって新しい市場が生まれてきています。
こういった動きによって、一つひとつのやモノに価値があった時代から、モノやコト(サービス)などをつなぐ「集合体」に価値がある時代への移行が進んでいます。一つひとつのモノはコンポーネントに位置付けられ、それらをつないでいるプラットフォームやエコシステムの価値が高まっているのです。
プラットフォームをどのように運用していくのか。つながるという仕組みをどうやって作っていくのか。エコシステムに参加することにどのような価値があるのか。そのようなことに注目が集まってきています。
――モノづくりの高度化のためにデジタル化を進め、その先にDXがあるということでは必ずしもなく、最初から全体をみる視点が必要だということですね。
福本:そこが、とても重要です。いろいろな企業が今、自身がもっていない製品やサービスを、元々もっている製品やサービスと組み合わせて新たな価値を創出することを考えています。お客様の視点でフルサービスを進めていくとき、お客様の側からみれば、様々なサービスを提供してもらう必要がある。
そのとき、新しい製品やサービスを自社で実現できるかという観点で考えると、日本の企業は優秀なため、他社に頼らなくても、がんばれば自社でできてしまう。
ただ、そのための時間や、リソースを自社で用意することなどを考えれば、社内以外のリソースをうまくつなぎ合わせて、時間を買うという感覚が大事になると思います。
――確かに、日本の製造業では自前主義が美徳になっていたかもしれません。
福本:聴講されるみなさんには、パネラーのみなさんのお話を、ぜひ、自分の会社の事例と重ねて考えていただきたいと思います。それとともに、自分の会社の視点にとどまらず、自分の会社のお客様の視点に立ってみることが大事だと思います。
お客様と一緒にDXを進めていくときの課題は何か。お客様が、みなさんの会社に期待していることは何か、まずそこを確認してから、DXを考えていくことが、新しい価値につながると思います。

5. 技術だけでなく、ビジネスモデルにも注目

――他社の事例はパネルディスカッションで聞くとして、東芝の事例も教えてください。
福本:東芝は、CPSを実現する製品・サービスの開発、運用のための共通フレームワークとして、「東芝IoTリファレンスアーキテクチャー」を2018年に発表しました。基本思想は「オープン&クローズ戦略」で、自社の技術だけでは足りないところを他社の技術、製品、サービスなどと組み合わせて顧客に価値を提供できるよう、外部仕様はオープンにし、内部仕様はクローズにするアーキテクチャー構造となっています。東芝は、「東芝IoTリファレンスアーキテクチャー」に則った様々なサービス(As a Service)を提供していくとともに、「東芝IoTリファレンスアーキテクチャー」を国際的なリファレンスアーキテクチャーであるIIRAにフィードバックしていく取り組みを進めています。
例えば、東芝ではエネルギーの事業を昔からやっているのですが、最近は再生可能エネルギーの普及に加え、環境規制の強化や発送電分離に代表される電力システム改革のような急激な市場の変化といった背景から、従来のエネルギービジネスに対し、大きな構造変革が求められており、これに対応したビジネスモデルをいかに構築するかが、市場を担う多種多様なプレイヤーにとって共通の課題となっています。
従来のエネルギービジネスに対して、構造変革が求められていることになりますが、これに対して、どのようなビジネスモデルを構築するのかという課題があります。これはテクノロジーだけの問題ではありません。ビジネスモデルの問題なのです。
――なるほど、DXというとハナから技術のことかと思いがちです。
福本:将来のエネルギービジネスのあり方を、どのようにデザインしていくのかということが大事になっていて、システムやサービスをつくるだけではなく、お客様の市場や課題などを起点にし、エネルギーをどうやって作り、どうやって送り、どうやって貯め、どうやって使うのかというバリューチェーン全体を対象とした提案型サービスを作り上げていくことが大事になります。
ここでのポイントは、市場や課題を自社の視点でみるのではなく、お客様の視点でみる、あるいは社会そのものに立ち位置を変えて、外側からみることです。すなわち、今持っているもので何ができるかではなく、相手からみて、考えることが重要です。
そこが非常にうまくいっているのが、今回パネラーとなってただくトレジャーデータさんや、コニカミノルタさんなので、実例を交えて紹介していただきたいと思っています。
――楽しみですね。今後の環境変化にはどのように対応していく必要があるのでしょうか。
福本:今のように環境変化が厳しい時代ではなく、環境変化を前提としないでよいのならば、一度決めたルールを忠実に守って、その枠からはみ出さず、その延長線上で効率化を実現していくことは、企業の選択肢として「なくはない」と思っています。
しかしニューノーマルともいわれる時代、新しい事業、働き方、共創、イノベーションなどが求められている時代にはこれでは、うまくいかないと思います。
――従来型の取り組みは、通用しなくなっているということでしょうか。
福本:はい。例えば、日本の企業は、得てして他社の成功した事例を見ると、安心して模倣してしまうところがあると思います。
ニューノーマルの時代には、先例主義的に、他の成功事例をみるだけではなく、模範解答や先例がない状況下で、そのときの状況に応じて、臨機応変に進めなければならないし、優先順位も変えていく必要があると思っています。
日本の場合、あらかじめROI(Return on Investment)が明確にならないとその先に進めないROI主義的な企業も少なくないと思います。
あらかじめ成功への道筋が立っていて、予算通りに進むビジネスも必要だとは思いますが、それだけでビジネスを推進していくと、他の企業に比べて、大きく立ち遅れてしまうと思います。
――予算通りに進めないといけないと思い込んでいる経営者も、少なくない。
福本:予算通りに進めることも重要ですが、もっと重要なことは変化に対応すること。自ら変化に対応できる企業と、対応できないで周りをみている企業とでは、大きな差がでてくる。DXのような取り組みはトップが自ら考え、推進していくべきものですから、リーダーシップをもって推進していく気概をもつ経営者が、ますます求められていくでしょう。

6. 日本企業のDXは、これから本番を迎える


――日本企業、とりわけ製造業のDXを進めるうえでの課題を教えてください。
福本:さきほど、ビジネスモデルや自社の立ち位置そのものを変革するために手段としてデジタル技術を活用するものを「DX」と呼ぶという話をしました。私は既存の事業、既存の業務プロセスの中に、デジタルテクノロジー、すなわちデジタルの技術をいかに利用できるかという視点だけで臨むと、DXはうまく実現できない恐れがあると思っています。
DXは全く新しいビジネスを生み出す取り組みであり、非常に難しく、リスクがある。そこでDEによって既存事業に余力を生み出しながらDXを進めることが必要になります。
その際に、現在事業を抱えているメンバーにDXをやらせるのは現業とのしがらみが生まれるので難しいでしょう。新部門や新会社を作るなどDXを主目的とした組織を新たに構築し、新しいステークホルダーを見極めながらビジネスモデルを作り上げる必要があります。
――著書「デジタルファースト・ソサエティ」でDXのステージが定義されていました。
福本:「デジタルファースト・ソサエティ」で定義をしたDXのステージの1つ目はDEに当たる自社のサービスを効率化、高度化するステージ。2つ目のステージは、顧客の業界が必要としているコトをフルサービスとして提供して、業界課題を解決していくというステージです。そのためにはプラットフォーム・エコシステムを用いた取り組みが重要となります。その先の3つ目のステージでは、MaaS(Mobility as a Service)や社会インフラなどと連携したより広範囲な社会課題の解決が必要となってきます。
第1ステージから第2ステージに向かう中では、プラットフォーム・エコシステムによってつながることにどのような価値があるのかということがポイントになります。第2ステージ、第3ステージに向かっては自らの立ち位置を自社から顧客の業界、社会側に移して全体を見ることが大事になると思っていますし、そうならなければいけないと思っています。
――それにしても、トップの役割は大きいですね。
福本:企業のトップは、ライフタイムバリューやプロジェクトベースで考えるなど、売り方だけの問題ではなく企業文化や評価方法なども新しい形に組み替える必要があります。経営陣と現場が一緒に進められなければ、いくら計画を立てても、成果を生むことは難しい。
DXの取り組みにおいては、とかくデジタル技術を中心とした技術論で語られることが多いのですが、企業のトップが危機感を持って進めるべきビジネス変革と捉えるべきだと思っています。

7. 顧客経験価値を高める工夫

――顧客価値創造と組織能力強化の連携について、DXとのからみで教えてください。
福本:とても壮大なテーマで、ひと言で説明できるものではありませんが、ヒントになることをお伝えしておきます。
私は今、DXが“バズワード(はやり言葉)”のようになっているのが気になっています。ビジネスの本質、ビジネスモデルの本質ではなく、デジタルという言葉を使う、あるいはデジタル化・IT化に取り組むことをゴールとしている企業も多いのかもしれません。
何よりもまず、自社の向かうべき姿、ゴールをきちんと定め、それをゼロベースで考えて、その先のビジネスモデルを実現する一つの手段としてDXを活用するという考え方になっていかなければいけないと思います。
たとえば製造業では自社のドメインのモノを売るだけでなく、モノのデータを生かしたサービスも組み合わせて提供することにより、サービス価値を高めることができるようになる可能性も考えられます。DXの本質の1つは顧客の経験価値を高めることです。
――顧客経験価値がポイントになるのですね。
福本:はい。これは新型コロナ禍において、これまで以上に求められていくことだと思っています。
デジタルは手段なので、自分がどう変わっていくかを考えていったとき、手段としてデジタルを選ぶこともあると思います。
たとえば「AIを活用したい」といってくるお客様もおられます。そこで「AIを導入してどうなりたいのですか?」と聞いた時、「こうなりたい」という姿を実現する最適な手段がAI導入ではなく、別な手段かもしれない。
――なるほど。ではDXを進めるボトルネックはどこにあるとお考えでしょう。
福本:日本企業の現場は、現場・現物・現実という三現主義で成り立ってきており、これが強い現場を支えてきました。それは日本の製造業を長きにわたって支えてきたもので、強みだと思っています。
しかし単に三現主義だけで進めるのではなく、この強みを活かしつつ、新しい時代に対応した考え方と組み合わせることがビジネスを変えていく原動力になるかもしれません。
変化のためには、現状に課題があるということを認識し、一つの考え方には固執せず、新たな取り組みを始めることが必要です。するとこれまではできなかったことも自然にできるようになってくる。新型コロナ禍でリモート会議をしたら、それまで一度も話したことがなかった経営陣と話す機会が生まれるかもしれません。

8. DXの開く未来図

――リモート会議で生まれる組織のフラット化には、いい面と悪い面がありそうです。
福本:日本企業は、稟議もそうですが、組織に階層があって下から上がっていくようになっています。例えばレビューのためのレビューなどもあり、何かが決定されるまで、時間がかかってしまう。組織がフラット化することで、経営にスピード感がでてくる可能性があります。
階層があると、企画提案の段階ではあちこちにカドがあったものが、上に上がっていくうちどんどんカドが取れて丸くなっていく。例えば最初は三つあった企画提案が、だんだんミックスされて、集約されていたりする。
本来、尖ったままでよかったところも、丸くなってしまう。本来は三つの別々な提案であったものが、あれもこれも満足させるため、尖ったところがぼやけた企画になったりすることもあります。尖った部分にも注目し、それを採用する気概がリーダーシップではないでしょうか。
――日本のDXの取り組みは、遅れているのでしょうか?
福本:進んでいるとは思わないですが、大きく遅れているところまではまだ行っていないと信じたいです。世界中の企業も、今、DXについては模索段階だと思います。なので日本にも、まだ挽回ができる、チャンスがあると信じています。
普及のポイントは、デジタル化が手段であって目的ではないということを認識することだと思います。それをきちんと理解したうえで、DXをどう活用していきたいのか、を考えることが重要となります。
生き残りのためにデジタルテクノロジーが必要であれば、経営判断として採用すればいい。デジタル化やIT化を変革の手段として選択できているかどうか、そこを考えることが、ますます重要になってくると思っています。
――不透明な時代、DXが明るいビジョンにつながるといいですね。
福本:そう願っています。経営者は、トランスフォーメーションした先の未来図を描き、そこに向かうためのツールとしてデジタル技術を活用していくことが大切です。
また受け止めるスタッフも、言われたものを言われたとおりにつくればいいわけではなく、「本当に必要とされているIT機能はそれなのか」という自らへの問いかけが必要だと思います。
IT部門の方も「ITでこれを作ってくれ」とユーザからいわれたとき、「それは何に使うのですか」と確認し、「だったら、こちらのほうがいいですよ」と、ITありきではなく、ゼロベースで判断できる人材であるべきです。
――ありがとうございました。パネルディスカッションを楽しみにしています。