(品質経営総合大会)クオリティフォーラム2020 同時開催/第26回品質機能展開シンポジウム

クオリティフォーラム2020
登壇者インタビュー

コニカミノルタにおける
Business Innovation Center(BIC) による価値創造

コニカミノルタ㈱ BIC-Japan Director 波木井卓氏に聞く

聞き手:ビジネス作家 廣川州伸氏

波木井 卓

コニカミノルタ株式会社 ビジネスイノベーションセンタージャパン(BIC JAPAN)所長。
大学卒業後、外資コンサルティング会社に入社。ERP最大手の日本法人立ち上げに従事、米国、ドイツ、香港にも駐在。退職後、メールマーケティングを行うネットベンチャーを起業。業界トップの企業に育て上げた後、上場企業にバイアウト。その後、新規事業、M&Aなどをアドバイスする会社を起業、ベンチャー企業の社外取締役を歴任。2014年にコニカミノルタが新規事業を作る部隊を創設することになり、ビジネスイノベーションセンター(Business Innovation Center)、BICをゼロから立ち上げ、現在に至る。

1. なぜ、BICを立ち上げたのか

――まず、BICを選ばれた理由から教えてください。
波木井:私は、もともとベンチャー企業をやってきて、最初に立ち上げた会社をバイアウトして別の会社をつくりました。その会社は、新規事業やM&Aなどのアドバイスする会社でしたが、併せて、いろいろなベンチャー企業の社外取締役もやっていました。
ベンチャー企業にアドバイスをする仕事は、自分がベンチャーをやってきて楽しかった印象が強かったので、起業したい人を側面から助ける仕事をしたいと思ったからです。
ところがベンチャー企業に関わっていると、だんだん、自分でやりたくなってきた。ちょうどそのころ、コニカミノルタからBICの話がきました。
――タイミングも、よかったのですね。
波木井:はい。外資企業でベンチャーの立ち上げは経験してきましたが、日本の大企業で、そのような仕事はしてこなかった。もちろん、いいこともあるし難しい部分もあるだろう。それを含めて、BICのチャレンジは大きいと感じました。
何よりも、この話が、BICをゼロから立ち上げるので、やってみないかという話でなく、すでにある組織をテコ入れしてする話だったら、お受けしていなかったと思います。
――コニカミノルタさんが、こんなにグローバルに活躍されているとは知りませんでした。
波木井:とてもグローバルな会社です。2003年にコニカとミノルタが合併し、2006年にはフォト・カメラ事業を終了し、オフィスで使う複写機などを軸にしました。現在、世界中の50カ国に拠点を持ち、海外の売上は4分の3を占めています。
この組織の特徴は、何よりも顧客起点であること。ふつう大手企業は、もともとある技術などのリソースが充実しているため、新規事業といっても、そこからスタートするでしょう。すでにある技術やプロダクトの機能を変えて、別のお客様をターゲットにして売るのが一般的です。
ところがBICでは、必ずお客さまが起点となる。そこから出発し、課題を発見して解決策をつくっていく。その解決策にコニカミノルタの技術が入っていなくても、他社の技術と提携して作り出す。その方針を確認して、チャレンジしたいと決断しました。
――BICは最初からグローバルで、世界の5拠点で立ち上げたようですね。
波木井:はい。顧客起点というところから、その方針がでてきます。というのも、さまざまな顧客の課題が拠点ごとに異なっているからです。
私たちは、さまざまな新規事業プロジェクトを進めてきました。たとえば、体臭や口臭を測定し、結果をスマホに表示する「Kunkun body」という商品があります。日本なら体臭や口臭が気になったりしますから、商品の価値が何となくわかる。
しかし、それをヨーロッパにもっていくと、あまり伝わらないかもしれません。ヨーロッパでは、体臭や口臭が気になるというより、香水をつける文化や風習がある。これは日本とヨーロッパでは顧客課題が異なるということです。

2. イノベーションが求められる背景


――顧客に近いところで拠点を持ったということですね。
波木井:はい。東京、シンガポール、シリコンバレー、ウィーン、上海の5拠点で、それぞれ20個の新規事業プロジェクトを稼働させ、全世界で合計100個のプロジェクトの推進を目指しています。
日本が最大の規模ですが、基本的に5カ所ある地域拠点は、それぞれ独立して、顧客起点でプロジェクトを作り出す組織になっています。
ただ、何でもやっていいとしたら収集がつかなくなりますから、それぞれの拠点で、中心として進めていく事業を決めています。BICジャパンの注力分野は、グローバルコミュニケーション、ライフサイエンス、インダストリアルセンシングの3分野です。
――すべてに共通の課題もありますか。
波木井:それもあります。今でいえばコロナ対策は重要課題。オフィスワーカーがいて、そこに課題があることも共通です。世界のどこでも働き方については課題となっています。課題があれば必ずニーズがありますから、解決する方法も必ずみつかります。
それぞれのプロジェクトを、それぞれの拠点で解決して事業化しますが、うまくいきそうな地域には、それをヨコ展開していくことになります。
もっとも実際には、まだ世界共通の商品は生まれていません。私はBICジャパンの所長で6年間やってきましたが、この4月からBIC全体をとりまとめる役割に就きました。これからグローバル展開する新規事業プロジェクトも、積極的に進めていきます。
――新型コロナ禍話も出ましたが、影響はどうでしょう。
波木井:新型コロナ禍により、BICも4月から基本的に在宅勤務となっています。このフロアも本来なら30名ほど働いていたのですが、今日も2~3人が出社しているだけで会議もリモートで進めています。
新型コロナ禍では、クルーズ船が問題になりました。BICでも何か貢献できないかと、これまで手掛けたプロジェクトの一つに多言語化の翻訳ツールがありましたから、それを無償でクルーズ船に提供し、コミュニケーションに役立てていただきました。
――素晴らしい活動です。早く新型コロナ禍が静まるといいですね。
波木井:そう願っています。本体のコニカミノルタのメインは複合機ですが、BICがスタートした6年前も時代は大きく変化していて、オフィスの在り方、仕事の仕方も変わりつつありました。
そこで当時のトップは、「もう複合機が大きく伸びることはない」と強い危機感を持っていました。そこで既存ビジネス以外のところで、新たなプロジェクトを生み出さなければいけないということがあり、BICをつくったわけです。
新型コロナ禍で、オフィスの働き方は、いよいよ根本的な見直しの時代となっています。ますます、紙の資料が要らない時代になっている。ですから、これからもBICが取り組むべき課題はたくさんあると思います。

3. BICのミッション


――BICの事業について教えてください。
波木井:BICは顧客起点でスピード感をもってプロジェクトを立ち上げ、既存ビジネス領域以外のサービス立ち上げることを指名としています。そのため、技術をベースとして、のプロダクトアウトではなくマーケットインからスタートしていきます。
そこで社内技術を前提とせず、社外の技術を積極的に採用するため、ベンチャー企業、大学、政府機関など、社外の様々な分野のプロフェッショナルと協業するオープンイノベーションという手法をとっています。
また社内に対して、コニカミノルタの企業文化を、イノベーションが生まれやすい文化に改革する役割も担っています。そのため、社内でワークショップやセミナーなどの企画開催を進めています。
――ご紹介いただいた「Kunkun body」も気になります。
波木井:「Kunkun body」は3大体臭といわれる加齢臭、ミドル脂臭、汗臭にも対応し、頭、耳のうしろ、わきの下、足などの気になる部分のニオイに使えます。この商品の最大の特長「ニオイの見える化」を実現したことです。
また「PonPon CODE」という商品は、腸内の健康をとらえるものです。PCR検査は基本的には時間がかかる。めんどうなものですが、それを簡単に、できたらいいなというニーズです。
また「Monicia」は女性が月経前に体調がすぐれない。それをセルフケアしたいというニーズに対応して生まれました。
――いずれの商品も、個人の潜在ニーズをとらえています。
波木井:「MELON」と「KOTOBAL」も、個人のために何ができるかを強く訴求して生まれました。まず、医療現場で言語の壁を解消するツールとして「MELON」を開発しました。
これは、海外から日本にこられた方が体調が悪くなったときに日本の病院で使えるアプリです。タブレットをもって、そこで問診ができる仕掛け。医療通訳者と医師と患者の三者がコミュニケーションするツールです。
それを自治体などに向けて展開したのが「KOTOBAL」です。自治体に在留カードを取得したいと相談に来た時、ふつうは通訳が必要なのですが、専門的な言葉も「KOTOBAL」では通訳できます。

4. 一人の強い意思からスタート

――BICで開発された商品は、確かにグローバルで成立しています。
波木井:結果としてそうなっていますが、顧客起点からスタートしますのでアイデア段階で重要視したのは、身近な課題であること。ほとんどのプロジェクトが誰かの「身近な悩み」から出発しています。
極端な話し、世界中の誰も今は使わなくても、自分が絶対に使いたいという強い気持ちがあるかどうか。そこが確認できたら、スタートできます。BICの顧客起点はお題目ではなく、本当に、その人が必要使いやすいものとなってきます。
――それは凄い発想。意思から入るのですか。
波木井:それがなければ、とても価値創造までいきません。まず、一人の強い意思がある、開発をするスタッフ本人が、「この課題を何としても解決したい」と思う気持ちが必要だと思います。課題をもったお客様から出発することには、こだわりました。
――「Kunkun body」も、そこから始まったのですね。
波木井:はい。ある男性スタッフが満員電車の中で自分の体臭が気になった。そこからスタートしました。「Monicia」も、一人の女性スタッフの切実な悩みからスタートしています。スタッフの家族が便秘で悩んで、何とかしてあげたいと腸内フローラを解析する「PonPon CODE」が生まれました。
本人であったり、家族や友人であったり、いろいろなケースがありますが、すべては身近な、たった一人の強い意思から出発します。そのとき、当社の技術でできるかどうかは考えていません。社内に技術がなければ、外からもってきます。
――その発想は、確かにベンチャー的です。
波木井:もちろん、やみくもに意思だけで進めるわけにはいきません。BICでつくるものは、みなさんに使っていただくものですから、社内の厳しい品質基準をクリアし、信頼性、安全性などが実現していなければ製品化できません。そこは、大いにこだわっています。
商品開発の原点は身近な人ですから、まず一人で徹底的に考えます。プロジェクトが進むにつれて賛同者を募り、だいたい2~3人のチームで動きます。あまり大人数になると、最初の意思に影響するので、なるべく少人数で進めていきます。
タイミングをみて会議には技術がわかるスタッフ、マーケティングのスタッフが参加し、大規模な生産体制をとる段階まで進め、そこから先は別のチームに引き継ぎます。
――それでも、プロジェクトは2~3人のチームで進めるのですね。
波木井:はい。BICは発想から技術を探して商品化できるまでもっていくインキュベーション活動を進めます。最終的に販売し、初期の営業活動まで進み「こうしたら売れるのではないか」「こんなアプローチで広告をしたらどうか」ということもわかり、そのチームから市場に出た時のユーザーの反応、販売スタッフの意見などのフィードバックがきますので、そこでまた考えることにはなりますが、基本的には商品が外に出るまでBICのプロジェクトは終了し、また別の新商品の創造に向かいます。
――インキュベーションの期間はどのくらいですか。
波木井:スピード感をもってプロジェクトを進めたいので、発想してから1年で完成形までもっていきます。デバイスから作る場合は2年くらいかかることもありますが、戦っている相手もベンチャーですからスピードがなければ勝てません。
最後の最後までBICが面倒をみるのではなく、最後は専門の組織に渡していく。それが我々のやり方です。
出来上がった商品は事業部で引き取る場合と、子会社を作って進める場合があり、事業そのものを別会社に譲渡する場合もあります。去年は、立ち上げたプロジェクトをコニカミノルタ本体に戻しました。外に出して子会社化する事例、売却の事例も出てきています。

5. マーケットとの対話

――BICのプロジェクトでは、さまざまなコラボがあるようです。
波木井:みんな、外部とのコラボです。医療関係のプロジェクトは大学病院の先生と組んで進めることで、品質を高めることができます。最初は思いつきでも、だんだん外部の専門家を巻き込んで、より品質のいいものに高めていきます。
一般的に、大企業は製品を外にだしたがらないものです。BICは品質を保証しながらも、完成したらどんどん外に出していく。ストックして販売機会を待つことはしません。お客様の声を聞きながら、お客様と一緒に育てていく感覚です。
――なるほど、確かにベンチャー的です。
波木井:私がコニカミノルタにくる前、せっかくできた商品でも10年20年と内部で抱えて、市場に出したがらない傾向にありました。技術者が作りたいものとお客様が欲しいものとは解離があって、お客様が要らない商品を作ってしまうこともあります。
そういう悲劇をなくすためにも、できるだけ早い時期に商品化し、市場に出して、お客様の声を聞きながら、品質を高めていくことが必要になってきます。
――お客様の声は、どのように聞くのでしょう。
波木井:アンケートやインタビューをしますが、商品が形になっていない段階でのアンケートは、あまり意味がないと思っています。「Kunkun body」のコンセプトを示して「こういう商品は好きですか」「買いますか」と聞いても、まだ世に出ていないものですから基本的に「あったらいいな」というポジティブな回答しか戻ってきません。
そこで「Kunkun body」では、クラウドファウンディングを活用しました。100名ほど賛同者がいればと思っていたところ、フタをあけてみたら1800人から注文がきました。
――クラウドファウンディングとはベンチャーらしいです。
波木井:そうですね。クラウドファウンディングに参加する人は自分でお金を出しているので、アンケートで「欲しい」と答えた人とは違います。そういう人がいるとわかれば社内でも企画が通っていく。大量販売には投資が必要ですので、クラウドファウンディングでリアルに買いたい人がいることがわかった。これは大きかったです。
クラウドファウンディングには大量生産をする前に「これ大丈夫? お金を出す人がいる?」ということがわかる利点があります。こういう新しい仕組みは、ベンチャー企業に限らず、大手企業も使ったほうがいいと思っています。
――他にSNSも活用されています。
波木井:「Kunkun body」のような商品は、自分が使っていることを他人に知られたくない部分があります。それでフェイスブックでクローズドなユーザーグループをつくり、使ってみた人の意見を聞いて品質向上につなげていきました。クローズドな集団で意見を聞くと、思ってもいなかった本音がわかったり、想定していなかった人が興味を持っていいたりと、いろいろ発見があるものです。
「Kunkun body」は体臭や口臭からスタートしましたが、ニオイはいろいろなところで問題になります。食品が腐れば特定のガスがでる。そのようなガスを検知できるかもしれません。
――いろいろなシーンが考えられそうですね。
波木井:たとえばホテルの部屋など、密閉された空間でのニオイも測る需要があるかもしれません。
「Kunkun body」を市場に出したことで、いろいろな業界の人のニーズが見えてきました。

6. DXが支えるプロジェクトの実態

――DXとのからみでプロジェクトをみると、どんなことが言えますか?
波木井:外観からはわからないのですが、BICで開発している商品は、すべてデジタル技術が支えています。ほとんどの商品が、これまで見えなかったものを見える化することで課題を解決していますが、そこにはデジタル技術があります。
「Kunkun body」は、体臭や口臭という、そこに確かにあるけれども、これまで測ってこなかったものを測り、数値で示すことができるようになりました。アナログであったものを、デジタル技術で見える化しています。
――ひょっとして、AIなども関係しているのでしょうか。
波木井:はい。ほとんどの商品で、AIの機械学習などの技術が使われています。たとえば「Kunkun body」では4ヶ所にセンサーが組み込まれています。
4つのセンサーが、あるニオイについてそれぞれ反応をします。その反応のパターンのデータを集め、そのアルゴリズムを機械学習で解析させて、最終的には製品に組み込んでいくということをしています。
見た目はふつうですが、実は最先端の技術を使っています。橋梁を守る「SenrigaN」という商品も、磁石の反応を機械学習で覚えさせて品質を高めています。アルゴリズムには、すべてAI的な、機械学習が関係してきます。
――顧客価値創造という視点で、課題があれば教えてください。
波木井:これは、まだ思っているだけでプロジェクトにはなっていませんが、BICで開発した商品に、膨大なデータが蓄積されています。いわゆるビッグデータですが、いずれ、それが大きな価値になると思っています。
たとえば「MELON」には、お医者さんと外国人とのやりとりが記録として蓄積されています。そのビッグデータは、どんなときに、どんな言葉で、どんな表現をするなど、医療における国際的な、反応のデータになっていると思われます。
翻訳だけでなく、集まったデータそのものに大きな価値がある。その分析から得られる知見は医療の進歩、診察技術の進歩に直結する可能性があります。
――「Kunkun body」も、そうですね。

波木井:「Kunkun body」には、どこの地域で、どの年齢の人が、どのような体臭が多いなどが記録されています。それを使うと、たとえばこんな天気のときに、どのくらい歩いた人がどんな臭いの汗がでてくるなど、これまで誰も見たことも考えたこともなかったデータが明らかになる可能性があります。
ニオイのデータについては、世界のなかでBICしか持っていません、それをビッグデータとして分析していけば、いろいろな発見があると思っています。
――貴重なお話、ありがとうございました。フォーラムでお会いするのが楽しみです。