特別講演1 坂根 正弘 氏(コマツ 相談役)事前インタビュー


日本を代表する経営者の一人であるコマツ・坂根正弘相談役。800億円の赤字が出ている状況で社長に就任し、大胆な構造改革によってコマツのV字回復を実現し、2009年にはハーバードビジネスレビュー「在任中に実績を上げた実行力のあるCEO世界トップ100」にも選出されています。

現在では、コマツ相談役の傍ら、国家戦略特別区域諮問会議 議員、総合資源エネルギー調査会 会長 、まち・ひと・しごと創生会議 構成員などの政府関係委員会の要職を歴任し、特に、「地方創生」については、さらに同社の本社機能の一部を石川県小松市に移転させるなど、まさに日本の地方創生をリードしています。

今回、日本科学技術連盟主催「クオリティフォーラム2016」への登壇にあたり、これからの日本の課題について、その想いを伺ってみました。
また、これからのミドルマネージャーへの期待についてもお聞きしたので、是非ご一読ください。

(聞き手:日本科学技術連盟 専務理事 小大塚一郎)

  1.日本における地方創生の必要性について

聞き手:
坂根相談役は、「クオリティフォーラム2016」で「日本の課題 ~コマツは日本の縮図~」と題した講演をいただくことになっています。

坂根:
“コマツが日本の縮図“という言い方を私は政府の会議でもしてきています。コマツは、地方の代表企業というイメージを皆さん持ってきていると思います。コマツがどういう歩みをしてきたか?というところから、この国の未来のヒントがあるように考えているのです。


聞き手:
具体的には、どのようなことでしょうか?

坂根:
コマツが、石川県から東京に本社機能の一部を移転したのが、1950年代です。その後、大阪、川崎、栃木、茨城に工場をつくってきたのが60~70年代。その後、円高基調となった80年代から生産拠点の海外展開をしてきました。これが、ある意味で日本国内の産業が衰退する縮図と言っていいと思います。


聞き手:
確かにコマツだけでなく、企業の主要製造業がそうしてきたという理解でいます。

坂根:
ただ、その中でコマツが先を走っていたのは、21世紀に入って、“日本はやるべきことをやれば、ものづくりの競争力を失ったわけではない。”と考え、ここ5年くらいは、新工場設立や更新は日本のみで、いわば“日本回帰”を行っています。そこは他の企業でも出来るのではないでしょうか、という意味で、“日本の縮図”と言っています。衰退する過程も縮図であり、日本に回帰することも縮図です。


聞き手:
日本の他の企業に、「もう一度日本を見つめなおして欲しい」というメッセージも含んでいるということでしょうか?

坂根:
その通りです。そのためには、本当に日本がどこまで力を失ったのか?という点も正しく踏まえないといけません。日本の場合は、多くの企業がいろいろな事業を整理できず、勝ち組もあれば負け組も全部かかえているという現状を踏まえて、構造改革をしない限りそこにはたどりつけないと思います。
それがまだ出来ていない会社が沢山ある。それが、この国の消耗戦、デフレを加速してきた面は否定できません。そこから手を打っていかない限り、日本が自信を取り戻すことはおそらく無理です。


聞き手:
貴社の場合はどうだったのでしょうか?

坂根:
コマツでは、自信を取り戻したら石川県でもいけることがわかったのです。石川から輸出できるぞということで、金沢港近くに工場を新しく作ったり、港を深くしてもらったりして、だんだんよくなってきました。
また、日本の共通の問題として、地方に工場があっても、ものづくりだけに特化された状況で、それ以外の機能は全部東京に集まっている企業が多く、これを地方に分散できるのではないですか?と考え実践しているわけです。新卒採用についても、東京本社で一極採用していましたが、工場ごとに採用する方式に変えました。


坂根:
このようなことは、やる気になればどの企業でもできることだと思うのです。その気になれば、地方に“ヒト、モノ、カネ”を移していくことはできるのです。しかし、そのためには、繰り返しになりますが、日本が自信を取り戻さないとダメです。各企業が事業の選択と集中をしっかり行うとともに、国も成長を取り戻す策を打っていかないといけません。各企業の経営者も、成長が期待できないとなかなかそういうモチベーションにはなりにくいと思うのです。


聞き手:
地方創生に関連したテーマだと思いますが、相談役は出生率の話も例に出されています。

坂根:
コマツの例ですが、東京本社と石川地区では出生率も倍違います。東京は一世帯あたり0.9人です。一方石川は1.9人です。結婚率は50%と80%の違いです。これをかけ合わせたのが子供の数ですから、おおよそ3.5倍違うのです。この国の縮図という意味では、コマツですら今までは小子化を促進してきてしまったということです。

  2.企業価値のあり方

聞き手:
一方で企業価値のあり方が日本でも問われているような気がします。

坂根:
日本はコーポレートガバナンスが遅れているとか、取締役会のあり方がなっていないとか、いろいろな指摘がありますが、私は欧米企業も、企業価値とはなんたるかを理解しているのかと疑問に思う時があります。


聞き手:
具体的にはどういうことでしょうか?

坂根:
欧米では、株主価値=企業価値のように考えられるケースがあるのですが、企業の経営のあり方として、株主価値をあげようと考えても 企業価値を上げない限りは絶対に上がりません。
ただ、コマツの場合この企業価値とは何かの答えが、どこからも得られなかったため、自分たちで考えて答えを出してきました。それは、「全ステークホルダーからの信頼度の総和」という結論です。


聞き手:
全ステークホルダーからの信頼度の総和?

坂根:
すべてのステークホルダーはみんな同じかというとそうではありません。企業価値を主に評価する人たち(社会、株主等)、企業価値を主につくる人たち(社員、代理店、サプライヤー)がいます。作る人が主役であることは言うまでもありませんが、ではお客様についてはどう考えるべきなのでしょうか?
お客様は単なる企業価値を評価する人としてだけではなく、メーカーはお客様と共に企業価値を作って、その結果、お客様から売上や利益として、そのリターンをいただき分配している。という考え方にたどり着きました。


聞き手:
なるほど。そういう意味なのですね。

坂根:
顧客価値を創造する以外にリターンを得る原資はありません。では、お客様と共に企業価値を創造するやり方は?その一つのアプローチが、コマツ流のブランドマネジメントです。
従来製品をただ売っているだけでは、大きな顧客価値創造にはならないため、IoTを取り入れ、KOMTRAX、無人ダンプトラック、そして今はスマートコンストラクションにチャレンジしています。これは、施工計画までコマツが関与できるし、そうすれば、お客様は生産性が2~3割は高まり、コマツもそのリターンの一部を得ることが出来ます。


聞き手:
坂根相談役は、日科技連主催の「第101回品質管理シンポジウム」の講演で、「日本はビジネスモデルで先行し、現場力勝負に持ち込めば、絶対に負けない」と主張され反響を呼びましたが、その話ともつながっているのでしょうか?

坂根:
もちろんつながっています。コマツが、IoTを活用した新しいやり方をしているのは、新しいビジネスモデルを作ろうとしているのです。シンポジウムでもお話したとおり、ビジネスモデルで先行して、日本の強さである現場力(お客様を含む)勝負に持ち込めれば、日本は勝者になれると信じています。

  3.これからのマネージャーに求められるもの

聞き手:
話は変わりますが、経営環境が目まぐるしく変わっていく中、日本企業は生き残りをかけて日々戦っています。マネージャーはこれからどのような心構えであるべきだとお考えでしょうか?

坂根:
一言で言うなら、「ミドルアップ、ミドルダウン」ですね。


聞き手:
ミドルアップ、ミドルダウン?

坂根:
かつては、課長が会社を動かしていた一面が多くの場面であったと思います。それは、部分最適が全体最適につながる時代(高度成長期)だったからです。しかし、今は必ずしも部分最適が全体最適にはならない時代であり、課長がいくらがんばっても、事業の選択と集中はできない。トップがやらなければいけません。トップダウンがしっかりした上で「ミドルアップ、ミドルダウン」が日本流の強さが維持できれば、この国は負けないと思います。


聞き手:
では、トップが何をすべきなのでしょうか?

坂根:
昔から言ってきていることなのですが、“言葉力が人を動かす”のだと思っています。トップに必要なことは、“みる”、“語る”、“実行する”です。これは、PDCAと似ています。


聞き手:
具体的には、“みる”、“語る”、“実行する”とはどういうことでしょうか?

坂根:
“みる”についてですが、現実的には、トップは“みる”と言っても、自分で考え自分の目で見ようとしていませんね。下のスタッフに任せてしまう。下に任せて出た結論で行動するのです。例えば、これが会社として“大リストラを行わざるを得ない”ということだったらどうでしょうか?経営者は覚悟を持てないですよね。自分で出した結論ではないのだから。


聞き手:
貴社でも、かつて大リストラを実施した時期もありました。

坂根:
そうです。コマツでも2001年~苦渋の決断により大リストラを行いました。しかし、これはトップ自らが、会社の抱える本質問題を明らかにし、その上で自分の言葉で語り、重要な部分をファクトファインディングした上で、みる力を併せ持って話していたので、下はついてきたのです。その上で、“みる”、“語る”、“実行する”です。実行するまで自身で推進する。結果を出さない限り、人はついてきません。これがトップに求められていることだと思います。


聞き手:
では、ミドルの役割はどういうことでしょうか?

坂根:
ミドルは、“この事業から撤退する”といった意思決定をすることが出来ません。与えられた中で最善を尽くします。それでも、ミドルの業務の中にも範囲があり、その中でも選択と集中が必要だし、しなければなりません。もちろん、それがトップダウンに結びついている必要はありますが。
ミドルといえども、“あれもこれもなんでもやる”のではなく、重要なことに出来るだけ集中していく。平均点主義、総花主義に陥りがちなのが日本。それでは、有限な資源の中では絶対に成果は出せません。ミドルはミドルの“ダントツマネジメント”の実施が求められると思っています。


聞き手:
最後に、マネージャークラスが元気の出るような激励メッセージがあれば、ぜひお願いします。

坂根:
マネージャーが元気にならないと現場も元気にならないし、会社も元気になりません。そのためには、“覚悟”を持って頑張ってもらいたいですね。ミドルの活力が会社を動かすのです。


聞き手:
11月の「クオリティフォーラム2016」での特別講演でも、全国の日本企業のマネージャークラスが元気を出せるようなメッセージをぜひお願いしたいと思います。

坂根:
わかりました。


坂根 正弘氏の「クオリティフォーラム」での特別講演の概要はこちら

(記事まとめ:日本科学技術連盟 安随 正巳)